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「私と結婚したければ3000万円の現金を用意しろ」と言われる結婚無理ゲー社会

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:IngramPublishing/イメージマート)

結婚したくても「金がない」

前回の記事で、「中国が結婚滅亡状態にある」という事実を書いた。今回その続きである。

「婚難時代の到来」日本を追い抜く勢いでソロ社会まっしぐら中国の「結婚滅亡」状態

そうした婚姻数の減少を招いたひとつの要因に、中国ならではの経済的結婚習俗問題がある。特に、男性側にとっては厳しい課題で、それは「彩礼銭の高騰問題」である。

彩礼銭とは、中国古来の婚姻儀礼で、結婚を正式に決める前に新郎の家が新婦の家に一定金額の現金を贈る風習である。日本の結納金みたいなものだが、これが最近、驚くべき高騰ぶりを見せているらしい。

ほんの10年前までは、彩礼銭相場は平均1万元(約18万円)程度だったそうだが、最近になって高騰を続け、平均でも日本円で120万円以上と10倍近くにはねあがったという。

少し古いデータだが、2018年時点では、湖南省、山東省、浙江省では平均相場が10万元(約180万円)。旧満州の東北地方や江西省、青海省では、50万元(900万円)台になり、上海と天津に至っては、100万元(1800万円)台にもなるんだとか(1元=18円で計算)。現金だけではない。それに不動産や自家用車までつけないといけないらしい。

写真:アフロ

ちなみに、中国の農村部での年収はいまだに1万元程度の人も多く、10万元の彩礼銭とは「年収の10倍」にも相当する。

日本の適齢期未婚男性の平均年収が約300万円なので、それに換算すると、日本で言えば、結婚するために30歳くらいの未婚男性は現金3000万円を用意しないといけないということになる。完全に無理ゲーである。

かつて婚約指輪は「給料の3か月分」とか言われていた時代もあるが、そんなレベルを遥かに超越している。

一人っ子政策の陰で生まれた無国籍女性

その原因のひとつに、前回も書いた中国の「男余り現象」が関係ないとは言い切れないだろう。中国では、3394万人の未婚男が余っているのだ。日本の未婚男性の300万人の「男余り」の約10倍である。

結婚したくても、340万人もの未婚男性には相手がいない「男余り現象」の残酷

これも、一人っ子政策による弊害といえるかもしれない。通常、どこの国でも出生男女比というのは男児の方が5%多い1.05で統一されている。日本ももちろんそうである。

しかし、一人っ子政策下の中国では、1990年以降1.10を超え、2000年代には一時1.20に迫る勢いにもなっていた。女児より男児の方が20%も多く生まれたことになる。

もちろん、他の国と比べて特別中国人が男児を多く産む生物学的特性があるからではない。女の子が生まれても届け出をしなかったからである。そのため、中国では「無戸籍者」が多く存在しているとされており、一説にはその数は1700万人とされている。

つまり、3394万人男が多いといっても、実質1700万人の見えない女性が存在するわけで、実質出生比は中国においても1.05だったということになる。

とはいえ、無国籍女性を含めたとしても約1700万人の男余りであることに変わりはない。当然、需要と供給の関係で女性は「選ぶ側」になる。少ない女性をめぐって、男たち(というより、どちらかというと男たちの親のメンツかもしれない)は、彩礼銭の額をあげて、互いに競争しあうことになる。値下げ合戦の逆のようなもので、そうなると際限がない。

彩礼銭が引き起こす悲喜劇と犯罪

こうした状況になると、いろいろと悪知恵を働かせる輩が出てくるもので…。

たとえば、最初に男に彩礼銭480万円を先払いさせた後で、さらに追加300万円と不動産の名義変更を要求する親もいるとか。さすがに、それでは全財産を身ぐるみはがされるからと男側が断ると、「一方的な婚約破棄だ。最初にもらった480万円は慰謝料としてもらうので返さない」というのだ。どうも最初からそれが目的だったんじゃないと思われる。

写真:アフロ

もっと酷いのになると、嫁役・両親役を立てて、先払いの彩礼銭を受け取った後、行方をくらませるという事案も発生しているようだ。もう立派な詐欺事件である。

2020年には、「彩礼銭が払えないから」と、男が宝飾店に押し入り、アクセサリー約432万円相当を奪う強盗事件まで起きている。

こんな状況なのだから中国の婚姻数が激減するのも当然である。

せっかく互いに好き同士でも、結婚の話になって互いの親同士がいがみあうようになるのでは地獄である。結婚なんかしないままの方がよいと考えるカップルがいてもおかしくない。

中国政府も遂に動いたが…

中国政府もこれ以上に高騰する彩礼銭問題による婚姻数減少には頭を痛めており、上海市や河北省などを「婚姻風習改革実験区」として32地区を指定し、お金のかからない「ジミ婚」を進めるように政策化したようだ。

この政策で、結婚式費用の削減になったとしても、そもそも彩礼銭という伝統的な風習そのものが撤廃されるかどうかは怪しいものだとは思うが、経済格差とともにますます結婚格差が顕著になっていくというのは、中国も日本も同じだろう。

結婚は、同じくらいの所得層同士の結婚が増えており、それは富裕層は富裕層同士、貧困層は貧困層同士の結婚をすることになり、それはやがてその子どもたちの経済格差に直結する。

中国政府が掲げている「共同富裕」とは真逆の「結婚による大格差時代」がくるかもしれない。いや、もうすでに来ているのかも。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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