健康の元凶はストレス!1日たった10分で、言葉によりリラックスを導くセルフコントロール術/ハーバード大学・根来秀行教授
10年間続いたハーバード大学&ソルボンヌ大学客員教授の根来秀行さんのOurAge連載も今回で最終回。最後のテーマは心身をリラックス状態に導く「自律訓練法」だ。ストレスをためず心穏やか体健やかに暮らしていくための科学的根拠に基づく心理療法とは?
1日10分ほどで身につく! 言葉でリラックスに導く自己催眠法
現代人にとって健康を脅かすいちばんの元凶はやっぱりストレスだろうか? 「そうですね。ストレスを感じると交感神経が優位になり、毛細血管が収縮し、血圧が上がったり、脈拍が早くなったりして、体も心も強張(こわば)ります。そんな緊張状態が続くと、自律神経や感情の中枢である『脳幹』の働きにひずみが生じ、不安やイライラ、肩こり、頭痛などの神経症状が生じます。脳幹はホルモンの働きや自然治癒力とも関係があるので、ストレスが慢性化すると免疫機能も低下して病気にもかかりやすくなるんです」(根来秀行教授) けど、自分ではどうしようもない問題も多いのが悩ましい…。 「ですよね。でも、ストレスフルな状況は変わらなくても、自分の受け止め方を変えることはできるんです。 今回ご紹介する『自律訓練法』は、交感神経の過剰な働きを鎮め、副交感神経の働きを促します。すると毛細血管が拡張して血液循環も改善し、心身の緊張がほぐれリラックス状態に。トレーニングを積めば脳幹の働きもどんどん安定して、ストレスにもメゲない心と体になっていきます」 どうやって脳幹を安定させるのだろうか? 「決まった言葉を心の中で唱えながら自己暗示をかけるんです。この決まった言葉を『言語公式』といい、段階的に深くリラックスできるように以下の7つのステップで構成されています」 《自律訓練法の言語公式》 背景公式「気持ちが落ち着いている」 第1公式「両手両足が重たい」 第2公式「両手両足が温かい」 第3公式「心臓が静かに規則正しく打っている」 第4公式「楽に呼吸をしている」 第5公式「お腹が温かい」 第6公式「額が気持ちよく涼しい」 一種の自己催眠法だろうか? 「その通り。1932年にドイツの神経科医シュルツが体系化しました。 催眠療法を受けた人が腕や脚の温かさを感じるという報告が多いことに着目して、その感覚を自己暗示によって生じさせ、睡眠と覚醒の間にある『自己催眠状態』に持っていき、心身の緊張を解いていく自律訓練法を考案したのです。 日本には1950年代くらいに入ってきて、心療内科や精神科などで導入されました。心身症の悪化に関わる心身の慢性的緊張を、自律訓練法を通して解消できるように治療していくんです。東大病院の心療内科でもリラクセーション法として採用されています。 僕自身、不眠症やうつ傾向の患者さんの治療で使って成果を上げていて、かなりヘビーなストレスを抱えている人でも症状が回復していくのを何度も目の当たりしているので、効果は絶大だと思っています」 《自律訓練法の主な効果》 ・たまった疲れの回復 ・イライラがおさまり、おだやかになる ・自分をコントロールしやすくなり、衝動的な言動が減る ・集中力が増し、仕事や家事などの能率が上がる ・からだの痛みや精神的苦痛が和らぐ ・自分の内面を見つめることができ、向上心が高まる ・緊張や不安が軽減し、ネガティブな感情が和らぐ ・寝つきがよくなり睡眠の質がよくなる ストレスフルな現代人はみんな自律訓練法をやったほうが良いようだ!でも、7つもステップがあって難しそう。自分ひとりでもできるのだろうか? 「段階を追ってひとつひとつ進めていけば誰にでもできます。それに7つの公式を全てできなければ効果がないわけではありません。 第2公式までマスターすると、体内時計が自然に整ってきて、睡眠や排便のリズムもよくなり、更年期の不定愁訴も改善されていきますよ。 まずは第2公式まで練習してみましょう。練習時間は1回3~4分にとどめます」 そんなに短くていいのだろうか? 「自律訓練法の目的は、いつでも心身をコントロールできるように、リラックスした状態を習慣化することです。 各段階を早くマスターしようと1回のセッションに時間をかけてねばるとむしろ緊張が出てきて逆効果に。時間帯を分けて毎日2~3回行うほうが、かえって早く身につきます」 トータル1日10分程度。それなら続けられそうだ! 「毎日10分練習を続けたら3週間くらいで第2公式までマスターできますよ」