芥川賞の石沢麻依さん「うれしいというよりも、とても恐ろしい」
第165回芥川賞は14日、石沢麻依(いしざわ・まい)さん(41)の「貝に続く場所にて」と、李琴峰(り・ことみ)さん(31)の「彼岸花(ひがんばな)が咲く島」に決まった。ドイツ在住のため、同日夜の受賞会見にリモートで出席した石澤さんは、「うれしいというよりも、とても恐ろしいという気持ちが強い感じがします」と受賞した思いを硬い表情で語った。 【動画】第165回芥川賞に石沢麻依さんと李琴峰さん、直木賞は佐藤究さんと澤田瞳子さん
石沢さんは1980(昭和55)年、宮城県生まれ。2021年に今回の受賞作でもある「貝に続く場所にて」で第64回群像新人文学賞を受賞して小説家としてデビュー。芥川賞は初ノミネートでの受賞となった。 「恐ろしい」という気持ちはどこから来ているのか。「群像新人文学賞をいただき、そこから単行本の話になり、芥川賞の候補にもしていただけるという急展開が押し寄せてきていました。今賞をいただいてこの先大丈夫なのか、という自分自身に対する不信感があります」と率直に語りつつ、「最初でこんなに大きな賞をいただいてしまうという破格に恵まれた立場にあるが、試されている部分でもあるし、影響を受けた作家の方々から私にも引き継がれた声をどう膨らませて自分の言葉を作り出していくのかを考えたい」と前を見据えた。 ドイツでは美術史を研究している。受賞作は、ドイツで暮らす主人公が東日本大震災で行方不明になったはずの友人と出会う、という作品。「震災という大きなテーマを大きな扱っただけに、これを踏み台にしているという違和感が恐ろしさという感情につながっているのではないかとも思います」 審査では、凝った文体が個性的だとして評価された。「昔の人たちの考えと隔たりがあるのかどうか、小さいころから興味があったので古典を読んできたし、あと今はドイツにいて新刊を買うのが難しいので手元にある古典を読み返しています。その影響が多分、文章に現れているのではないかと感じています」 今後については「過去と現在が隔たりつつもつながり、現在を巻き込みながらこの先に続いていく。それは糸のように、水の流れのように多層なもので、それを私たちがどう見ていくかを追っていきたいと。難しいテーマですが、考えて取り組んでいきたいと思います」と語った。 (取材・文:具志堅浩二)