【全文】ピース又吉氏「似合ってますかね? 金屏風」芥川・直木賞受賞会見
第153回芥川賞と直木賞が16日夜、発表され、芥川賞は羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」と、又吉直樹「火花」の2作が受賞した。直木賞は、東山彰良氏の「流」が受賞した。その後、受賞した3氏が会見し、喜びを語った。 以下はの会見全文。
《芥川賞・羽田圭介氏》
司会:羽田さん、どうもおめでとうございます。 羽田:ありがとうございます。 司会:まず、受賞のご感想を、ひと言お願いできますでしょうか。 羽田:まず、そうですね、何が起こったか分かんないっていう感じがありまして、もう4回目に候補、芥川賞4回目、候補だったんで。で、1年前に候補になったばっかりだったんで、もういろんなことに慣れすぎてて、だからもう、受かっても落ちてもあんま感情って変わらないかなって思ってたんですけど、でもやっぱ受賞したのは初めてだったんで、こんなにその、なんですかね。高揚感があるのかっていうのは、それが本当に、それ、予想外な高揚感になんか、驚いてるって感じですね。 前にも、芥川賞は3回落ちて、野間文芸新人賞は2回落ちて、あとは大藪春彦賞は1回落ちてて、デビューしたのが河出書房新社の文藝賞という、素人がプロになるための賞は受賞して、それでプロになったんですけど、プロが書いた作品の中から選ばれる、プロが書いて、プロが選考されて選ばれる賞は今まで6回、全部落ちてたんで、だからプロの方に選んでもらう賞で受賞できたっていうのは、それはまずとてもうれしいです。はい。 司会:それでは質疑応答に移らせていただきますが、質問なさりたい方たくさんいらっしゃると思いますので、なるべくお1人、1つの質問に限らせていただきたいと思います。挙手をお願いします。 じゃあ、後ろの女性の方。 フジテレビ:フジテレビホウドウキョク『真夜中のニャーゴ』のカトウです。羽田さん、おめでとうございます。 羽田:ありがとうございます。 フジテレビ:受賞の瞬間はどういう、知らせはどこで受け取りましたか。 羽田:銀座のカラオケ屋で、ボックスで作家さんとか編集者さんとかと一緒にいました。 フジテレビ:何を歌われてたんですか。 羽田:ちょうど誰も歌ってない、長嶋有さんの提案で、聖飢魔IIの、受賞したら聖飢魔IIの「WINNER!」って曲を歌うっていうふうに決めてたんですよ。それつい、10日ぐらい前にそういう話になったんですかね。で、聖飢魔IIとかX JAPANとか、そうっすね。あとはオジー・オズボーンとかをみんなで歌ってたんですけど。みんな疲れてきて、で、なかなか、6時半とかになっても電話来ないんで、7時過ぎても電話来なくて、これ、なんかまずい。これなんか、あんま、嫌な予感するなって言ったときに、誰も歌ってないときに電話が来たんで。そうです、ちょうど誰もいないときに電話、歌ってないときに電話受け取って、受賞っていうはい、メッセージ、知らせをいただいたって感じですね。 フジテレビ:おめでとうございます。 羽田:ありがとうございます。 司会:ご質問のある方どうぞ。じゃあ真ん中の眼鏡の方。 読売新聞:読売のマツダと申します。すいません。今回、介護の問題が小説のテーマの1つだと思うんですけども、あらためて受賞されて介護の問題についてどういうふうに感じたかということと、羽田さんにも年を取られたおばあさんがいるって聞いたんですけども、何かおばあさんとかご家族に、受賞を受けて何か言いたいことがあればメッセージを1つ教えてください。 羽田:え? 言いたいことですか。 読売新聞:介護問題について。 羽田:介護問題について言いたいことは、そうですね。なんですかね。なんかそう、介護問題どうこうとか、社会的なことを何か言いたいっていうのではなくて、結果としてそういうテーマを内包するっていう感じで、やっぱり距離感の問題っていうことをすごい考えてたんですね、やっぱり、なんか最近いろんなメディアとか論調とかでも、右か左とか、あとは高齢者対若者みたいな、その対立構造をつくる言説がすごい、もてはやされるっていうときに、それ、なんでそんなに幅を利かせるのかっていうときに、例えば、敵対とか憎んでる相手の顔がたぶん見えないからなんだろうなっていうところでですね。 例えば本当にもう、たぶん地元から離れて、祖父母とかと離れて暮らす人たちっていうのは、たぶん老人の姿、顔っていうのがあんま見えないと思うんですよ。だからこそ、若い人たちは、自分と関係ない年上の世代のことを、あの人たちはすごい優遇されてるっていうふうな感じで、簡単な、2分化された構造をつくってしまうと思うんですね。 それは縦じゃなくて横のつながりでも同じで、世界中どこでも、近い、自分が住んでる国と近いところと、やっぱ仲悪くなったりしやすいと思うんです。それはアジアでもヨーロッパでも。で、それって、でも、近いっていってもやっぱり離れていたり、特に日本だとどこに対しても海が必ず隔ててるわけですから、その相手の顔を見ないで何か言うってことはすごく簡単だと思うんですよ。で、そんか感じで、なんて言うんですか。身体性とか実体がないまま、憎むべき相手っていうのをつくって、簡単に言ってしまう。それは相手の顔が見えないと簡単に言えてしまうっていう。 だから、相手の顔が見えたときに、どういう行動を取るかっていう、異なる価値観とか、異なる世界、時代を生きてきた人たちに対して、顔が見える状態でどんな行動を起こすかっていうことを書こうと思いましたね。なんで、介護問題とか高齢化社会をどうこうっていう感じではないですね。はい。 司会:よろしいでしょうか。 読売新聞:家族には何か言いたいことはありますか。 羽田:いや、別に言いたいことはないです。 司会:はい。続いてご質問の方。じゃあ前の方。いけるかな。前のこちら。女性。 NHK:NHKのイケハタと申します。若い人、自分と同じ若い人が高齢者に対してもっと歩み寄るべきなんではないかというメッセージというふうにおっしゃっていましたが、実際に自分自身のこの本を若い人に読んでもらって、どんなふうなことを感じてもらいたいとお考えですか。 若い人に向けたメッセージみたいなのは。この本を通してのメッセージがあれば教えてください。 羽田:先ほど申し上げたことと重複するんですけど、何かを、何かちょっと不満の感じる相手とか、なんか、なんとなく憎しみを覚える相手、自分より優遇されてるって感じで、ねたみの対象とか、自分と比べておいしい思いをしてる相手を責めるっていうことを、やっぱそれ、同じです。顔が見える相手。その人に接近して、その人の素性みたいな、感情っていうか、ちゃんと理解したところで、果たしてそのときに自分がどんなことを考えて、どんなことを言ったりできるかっていうことを。相手の顔を知るっていう、ひと言で言ったらそれに尽きます。 司会:よろしいでしょうか。続いて、ほかにご質問の方。じゃあ。 ニコニコ動画:はい。ニコニコのタカハシです。現在、ニコニコ生放送で中継をしております。20万人の方がご覧になっています。ニコニコ動画はご存じでしょうか。 羽田:はい。存じ上げてます。 ニコニコ動画:はい。ありがとうございます。では、今、視聴されているユーザーの方からいただいた質問を代読したいと思います。愛知県、20代の男性の方からの質問です。「29歳無職です。『ワタクシハ』だったりとか今回の作品もそうですが、羽田さんの作品は、同じ世代の私たちに向けられているような気がします。29歳無職の僕にメッセージをお願いいたします」。 羽田:それは本読んでくださいとしか言いようがないです。そんな、口で伝えられることは小説で書かないので、小説でしか書かないことを書いてるんで、それはこちらから本当に、ぜひ読んでくださいとお願いするしかできないです。 ニコニコ動画:ありがとうございます。 司会:ほかに。じゃあそちらの。まずじゃあ。 男性:手前から。 司会:後ろの、眼鏡の後ろ、右、奥の方。 サンケイスポーツ:すいません、サンケイスポーツ、モリオカと言いますが、おめでとうございます。 羽田:ありがとうございます。 サンケイスポーツ:同時受賞した又吉さんについてはどういうふうに思ってらっしゃるか。また、どういう言葉を交わしたのか、ちょっと教えていただければと思います。 羽田:私は、まず、又吉さんの『火花』を3回メディア上でお勧め本として紹介してるんですよ。まず1個目は、文春から出てる『CREA』と雑紙の、中村文則さんと対談した特集がありまして、そこでお互いのお勧め本紹介するってことで、まず最初僕のお勧め本で、『火花』を取り上げさせてもらったんですね。そのあと、新潮で書評を書きまして、フジテレビホウドウキョクっていうところでやってる、『真夜中のニャーゴ』って番組があるんですけど、それは毎週、歌人の加藤千恵さんと一緒に本とか紹介したりっていう番組、水曜日 にやってるんですけど、その中で4月の3回目の放送で、私のお勧め本としてそんときも『火花』を、30分ぐらい紹介させていただいたので、なんで、本当にお勧めした本が受賞して良かったなというふうに思ってます。 司会:よろしいでしょうか。続いて、じゃあ眼鏡の方。 読売新聞:読売新聞のウカイと言います。 羽田:ああ、どうも。 読売新聞:羽田さん、先ほど文藝賞の話ありましたけど、デビュー、贈呈式来たとき確か学生服着てた記憶が。 羽田:そうですね。 読売新聞:ありますよね。非常に若くしてこの文学の世界に入って、その後、就職してまた辞めて、今、ふとやってきましたけども、この間、苦しかったこととか、書くことの大変さとか、デビューしたもののとか、そういったことは今まであったのか。そしてこれからさらに賞を取ってどんなふうに書いていこうと思ってるか。その抱負などもお伺いできればと思います。 羽田:そうですね。高校時代にデビューして、18歳になる直前に文藝賞受賞してデビューしたんですけど、そのころは何も、本当お気楽な状態でして。で、そのあと大学に入ったんですけど、大学生で実家暮らしだったんで、何もそんなに、何か焦ったりとか苦しいとかってなかったんですね。会社員生活を1年半やって、で、辞めたのがたぶんちょうど6年ぐらい前なんですよ。2009年の夏とかなんで、そこから専業、マンション買って6年間専業作家としてやってたんですけど、3~4年、3年前ぐらいですかね。一時期ちょっと苦しいなと思うときがありまして。うん、なんか、公務員になったほうがいいんじゃないっかって本気で思って、公務員をやってる友人に相談したりとか、いろいろしたんですよ。確か27歳ぐらいで、だから公務員になれる上限が28とか27とか、たぶんそんぐらいだったと思うんです。だから試験を受けるとしたらあと1、2回ってところで、なんか本当、ここから勉強したほうがいいんじゃないかとか迷ってたりもしたんです。そんな時期もあったんですけど。 ただ、それって別に芥川賞を取るか取らないかの問題じゃ、あんまりないと思うんですよね、それは。小説を書く、その生みの苦しみがあるだけで、生みの苦しみでなかなか書けないでいると当然、原稿料も単行本としての印税も入ってこないっていう。それは経済的なことっていうのは、あとから付いて回ることなんで。なんで、その、創作で結構困って、経済的にも困るっていったのが、3年前ぐらいは一番結構、そうですね。困ってたかもしれないですね。 ただ、それも徐々に克服していって、また去年ぐらいから、また作家としての仕事が軌道に乗り始めてって感じなんで。っていうか、あれですよね。自分もう、2003年の10月とかにデビューしたんで、12年やれてるだけで、苦しくないほうなのかなっていう。だいたい今、出版不況の中で割と生き残るだけでも大変だと思うんで、自分は売れてないときでも結構恵まれてるほうなんだなっていうふうに思ってるんで。そんなに暗い気持ちになったときは、実んとこそんなに、すごく短い期間しかなかったかもしれないですね。 司会:よろしいでしょうか。 読売新聞:抱負は、なんかこれからの。 羽田:抱負ですか。やっぱ、芥川賞の候補になったって連絡が先月あったときに、ああ、これから1カ月、約1カ月後、なんか平常心でいろいろできるかなとか、一瞬思ったんですけど、でも、やることって変わらないんですよね。受賞したら取材とかで忙しくなるっていうふうに、芥川賞、直木賞受賞したら一気に忙しくなって小説を書いてる暇がないよって、いろんな人に言われてて。ああ、じゃあその間に、じゃあ受賞すると仮定したら、今のうちに小説書いとかなきゃなって思いましたし、受賞しないで落選したらってことをシミュレーションしても、落選したらまた次の小説を書いて、それで何か挽回するしかないんで、やっぱやることって小説を書くってことしかないんですよ。 だから、意外と周りの人の反応が変わるっていうのはあっても、小説家がやることっていうのは、小説を書くっていうことのみなんで、やることは変わらないなって。小説を書いていくだけだなっていうふうに、なおさら感じますね。 司会:よろしいでしょうか。続いてほかの質問の方は。よろしいですか。それでは最後に、羽田さん一言何か。感想というか、コメントがございましたら。 羽田:一言っすか。ひと言。すいません。なんか何も一言で言い表せないんで、なんか、小説とかエッセーとかでいろいろちょっと、表現していきます。 司会:はい。ありがとうござました。