気候変動という「新しい風土」 人類はこれからどう生きればよいのか
建築と風土と文化の関係
「風土」というものの強さを実感した僕は、図書館にこもって風土的な素材と構法による建築の資料をあさったが、それは建築学よりもむしろ人文地理学や文化人類学のジャンルに入っていた。土を掘った建築や草を編んだ建築や動物の皮のテントの建築は、当時の、美術や工学の知を背景とする建築学の範疇ではなかったのだ。 僕はこれを初め21種類の様式に分け、その後、下記の6つの基本様式に収斂した。ここでは長期的な研究の成果をごく簡単に説明するので、すぐには理解しにくくなることを許していただきたい。基本様式ごとに、構法・分布地域・自然風土・文化的特質の順に記す。また分布地域に関しては16世紀以前の状態を基本とする。
1)一体式 生土を乾燥させて固める様式。木の骨に付着させる、泥饅頭を積む、木の型枠を使う方式などがある。日干し煉瓦をこれに含める。アフリカ大陸、中近東、インド、中国西部、南北アメリカ大陸(ヨーロッパ人の入植以前の様式に限定)に幅広く分布する。風土的には亜熱帯の乾燥地域が中心である。大地と一体となった文化であり、地域によって「アラー」という絶対神の信仰が広がった。
2)組積式 石や煉瓦を積み上げる様式。ヨーロッパ、アフリカ北岸、中近東すなわち地中海周辺地域、インド、中国に広く分布し、東南アジアとアメリカ大陸に部分的に分布する。ヨーロッパ人が「文明」と称する地域にほぼ一致するが、日本はここから外れている。風土的には亜寒帯、温帯の比較的乾燥した地域が中心である。早くから文字が成立した歴史を積み上げる文化であり、石造建築の複雑化とともに、幾何学、力学、天文学などが発達し、合理主義的な思想を育んだ。
3)木壁式 太い木材と厚い壁による閉鎖的な様式。ログキャビンのような木材の組積式と、木の斜材と壁とが一体となった様式(ハーフティンバー)の二種類がある。北部ヨーロッパ及び山岳地域に分布する。風土的には亜寒帯でやや湿潤な森林地域である。家の中の暖房を前提とする、森と火の文化である。北ヨーロッパの神話と童話(メルヘン)の世界でやや神秘主義的な生活と思想を育んだ。 4)軸組式 細い硬い木を組み立てる様式。中国、韓国、日本、東南アジアに多く分布する。風土的には温帯から亜熱帯の樹木が多い湿潤地域である。木組みの精巧さ、建具や畳の規格化、分業など、日本では特にこの様式が発達した。組み立てる文化であり、木の文化でもあり、紙の文化でもあり、家の中に風を通すことを前提とする風の文化でもある。四季の移ろいを強く意識する文化でもある。