現代民主主義社会おける王室の意味とは? エリザベス女王の死に考える
9月19日、イギリスのウェストミンスター寺院でエリザベス女王(エリザベス2世)の葬儀が行われました。日本からは天皇皇后両陛下が参列し、最後の別れを惜しみました。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「女王の死は、ヨーロッパ全体における王室制度の見直しにつながる可能性がある」と指摘し「現代社会における王室(皇室)の意義について、もう一度考え直す必要がある」といいます。若山氏が独自の視点で語ります。
イギリスの歴史における3人の女王
イギリスのエリザベス女王が亡くなった。その国葬には各国の要人が参列し、日本からは天皇皇后両陛下が葬列に加わった。外国の葬儀に両陛下が参列するのは異例のことだという。 もちろん王室制度に反対する人もいるようだが、大方のイギリス人は、長期にわたって国を支えた不屈の女王を讃え、弔意を表している。海の彼方にいるわれわれも、何か「郷愁」のようなものを感じるのは不思議な気がする。個人にも集団にもそういった象徴が必要なのかもしれない。 振り返ってみると、イギリスという国の歴史においては、3人の女王が世界の帝国としての位置を象徴しているように感じる。海賊ともいわれたドレイクを取り立ててスペインの無敵艦隊を破ったエリザベス1世は大英帝国創成期の女王であった。産業革命によって世界の資本主義をリードした時代のヴィクトリア女王は大英帝国最盛期の女王であった。二つの世界大戦によって国力を失ったイギリスを支えたエリザベス2世は、大英帝国凋落期の女王であった。 軍隊では撤退を指揮するのが名指揮官といわれる。エリザベス2世は凋落期の女王として内外に評価が高かったのであり、これは世界史でも珍しい。たしかに政治的経済的には凋落期であったが、英語や背広がこれだけ世界に広がったのはこの時期であり、イギリス文化圏という意味ではむしろ一大隆盛期であったかもしれない。女王に代わってチャールズ3世が王位に就いたのだが、これを機に、英連邦を離脱し君主制にピリオドを打つ国も現れるようだ。長期を担った女王の死は、英連邦ばかりでなく、ヨーロッパ全体における王室制度の見直しにつながる可能性がある。 王室とは何であろう。現代民主主義社会における王室の効用とは何であろう。日本の皇室にもさまざまな問題が浮上している。米ソ冷戦が一段落し、世界が再び新たな緊張に直面する今、ロシアや中国の権威主義に対して、自由、人権、民主主義の理念が強調される今、現代社会における王室あるいは皇室の意義について、もう一度考え直す必要があるように思える。