気候変動という「新しい風土」 人類はこれからどう生きればよいのか
11月6日から、エジプトで国連の気候変動枠組条約に参加する国や地域が集まる会議「COP27」が始まります。世界各地で異常気象が相次いでおり、気候変動は地球規模のまったなしの課題となっています。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「人類の営みは長いあいだ、風土に即したものであった」と語る。それでは、気候変動が進むこの先、人類はどのように生きていくのでしょうか。若山氏が独自の視点で語ります。
工業化から風土へ・研究テーマの転換
文明社会の人は、人間を均質な空間における均一な個人ととらえ、それぞれの風土に生きる存在であることを忘れる傾向にある。 今、伝えられる情報を総合的に判断すれば、世界各地で温室効果ガスによる気候変動、異常気象がまったなしの状況であるようだ。国連ではSDGsという総合的な目標の一環としてこれに取り組んでいる。ここでは僕自身の人生経験、すなわち建築研究の変化を追いながら、この解決の難しい問題を考えてみたい。ここ半世紀ほどの、人類の価値観の変化がトレースできるように思えるからだ。 1970年代の半ば、僕は研究のテーマを180度転換した。 博士論文は「建築生産の工業化」に関する研究で、生産過程のタイムスタディと多変量解析によるきわめて技術的なものであったが、一転して「自然風土と建築様式」の関係を分析することをテーマにしたのである。そこには三つの要因があった。 一つ目は、大学院時代にヨーロッパをヒッチハイクで旅して建築と文化の関係を考えたことである。その旅の記録は後に『建築へ向かう旅―積み上げる文化と組み立てる文化』(冬樹社・1981年刊)という著書として出版され好評であった。 二つ目は、設計事務所で海外の仕事を担当し、アジアやアフリカの風土的な建築を体験的に観察し、建築と文化の根底に自然風土があるのを感じたことである。 三つ目は、われわれの青春に(精神的に)のしかかっていたベトナム戦争で、アメリカが実質的に敗北したことだ。この戦争に勝利するためにアメリカは、マクナマラ国防長官の「多角的オプションの戦略」を基本にして、ベスト&ブライテストとされる、当時最高の、頭脳とコンピューターと武器を投入したのだが、彼らはジャングルの葉陰に隠れるベトナム兵を殲滅できなかった。ナポレオンもヒトラーもロシアの冬将軍には勝てなかったが、文明の戦力は異なる風土を克服できないということをあらためて実感させられた。アフガニスタンにおける砂漠と山岳の厳しい風土には、イギリスもソビエトもアメリカも撤退せざるをえず「帝国の墓場」と呼ばれているのも、このことを裏付けているといえる。