なぜ大阪女子マラで東京五輪“補欠”の松田瑞生が日本歴代5位の好記録で優勝できたのか…驚異の練習量と豪華ペースメーカー
涙の数と日々の努力が松田瑞生(26、ダイハツ)を強くした。30日、大阪・長居スタジアム発着の42.195キロコースで行われた大阪国際女子マラソン。松田がスタートから積極的なレースを展開した。男子のペースメーカーをあおるように攻め込んで、10kmを33分02秒、中間点を1時間9分57秒で通過。一山麻緒(24、ワコール)が保持する国内最高記録(2時間20分29秒)を上回るペースで突き進んだ。 25km過ぎに上杉真穂(26、スターツ)が脱落すると、トップ集団は松田ひとりに。30km通過時(1時間39分15秒)で第2集団の選手たちを2分以上も引き離した。終盤はややペースダウンしたものの、3度目の大阪国際Vを大会新記録&日本歴代5位となる2時間20分52秒の好タイムで飾った。そしてオレゴン世界選手権代表選考基準(2時間23分18秒以内&日本人2位以内)も突破した。
「目標を達成できず素直に悔しい」
2日前の記者会見では「なにわのど根性走りで松田旋風を起こしたい」と語っていたが、有言実行の力走だったといえるだろう。しかし、レース直後のインタビューでは、「自分の目標は達成できませんでした。率直に悔しかったです」と口にすると涙がこぼれた。 2019年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で4位に終わった松田は、2年前の大阪国際で2時間21分47秒(当時・日本歴代6位)をマークして優勝。東京五輪代表を大きく引き寄せたものの、名古屋ウィメンズマラソンで一山が2時間20分29秒を叩き出したため、東京五輪は「補欠」となった。 そして東京五輪のマラソン日本代表記者会見で悔し涙を流した。「もう(陸上を)やめようと思うくらいきつかった」という時期もあった。それでも東京五輪は補欠が解除されるレース4日前まで準備をしてきた。本番で一山が8位入賞を果たしたことも、松田にとっては複雑な心境だったに違いない。
どん底を経験した松田だが、夏の祭典が終わると、3年後のパリ五輪に向けてスタートを切った。当初は10月に開催予定だった東京マラソンに出場するプランもあったが、レースは今年3月に延期。松田は「ホームコース」と呼ぶ地元・大阪国際を再起の場に選んだ。 国内最高記録に迫る好タイムを出すことができたのはなぜだろうか。まず今大会は気象条件に恵まれた。スタート時(12時10分)の天候は曇り、気温8.2度、湿度47%。「絶好のコンディションになり、最初から記録が出るんじゃないかなという予感もしておりました」と日本陸連の瀬古利彦ロードランニングコミッションリーダーが話すほどの状況だった。 新型コロナ禍で外国人選手を招集できなかったこともあり、女子レースでありながら男子のペースメーカーを起用したのも大きかった。第1集団はマラソンで2時間9~10分台の自己ベストを持つ神野大地(セルソースアスリート)、福田穣(NNランニングチーム)、田中飛鳥(RUNLIFE)の3人が担当。5km16分30秒前後ペースでレースがうまく流れた。 マラソンのペースメーカーは30kmまでという契約が多い。その理由は単純で、走力的に終盤まで引っ張ることができないからだ。しかし、女子の場合、男子がペースメーカーを務めれば、終盤まで誘導することが可能になる。今回は大会主催者側の判断で男子ランナーが残り1kmまで女子選手をペースメイクした。 松田も「3人のペースメーカーに囲まれたレースは、めちゃくちゃ心強かった。過去2回の大阪国際は30km以降で前に選手がいることがなかったので、本当に苦しいときに支えてもらいました」と感謝していた。 加えてシューズの進化もある。女子は男子と比較して、厚底シューズへの“移行”が顕著ではなかったが、最近は大半が厚底シューズに履き替えている。松田も2020年までは薄底タイプを履いていたが、今回はナイキ厚底シューズ(エア ズーム アルファフライ ネクスト%)を履いていた。 今大会は2位の上杉が2時間22分29秒をマークするなど上位5人が自己ベストを大きく更新。1大会では最大枠となる6人がMGC出場権をつかむほどのレベルの高いレースになった。これは気象条件、男子のペースメーカー、厚底シューズという様々な要素がプラスに働いた結果だと考えられる。 もちろん、松田自身の“進化”も見逃せない。