なぜ女子マラソンで日本勢はメダルに手が届かなかったのか…ケニア勢とのスピード差と直前の時間変更など振り回された1年
本番をシミュレーションして、準備をすればするほど振り回される。東京五輪の女子マラソンはそんなレースになったような気がしている。開催国である日本は世界と勝負するために綿密な計画を立てていた。当初東京で予定されていた本番コースを使用したマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)を決戦当日に近い気象条件、本番と同じくペースメーカーのいないガチンコ勝負で実施。2019年9月15日には男女2人ずつの五輪代表内定選手が決まった。 しかし、「暑さ」を理由に本番コースは東京から札幌に移転。コロナ禍で開催も1年延期された。そして直前に前代未聞のドタバタ劇があった。早朝から高温が予想されたため、スタート時刻が当初の朝7時から同6時に1時間早まったのだ。変更の発表は前日の19時頃。突然のスケジュール変更は選手たちに大きな影響をもたらしたはずだ。 1年延期の影響はMGCを完勝した前田穂南(天満屋)にはマイナスになったようだ。2時間35分28秒の33位。レース直後のインタビューでは本音が漏れた。 「東京五輪が1年延期となって、コンディションやモチベーションを保つのが難しかった。でも無事に大会が開催されて、最後まで走り切れて良かったと思います」 地元開催の女子マラソン日本代表という“看板”を約2年間も背負ったのは大きな重圧になっていたことだろう。7月上旬には脚に痛みが出て思うようなトレーニングができなかったという。昨年8月に東京で本番があれば、その結果は大きく違っていたかもしれない。 一方で東京五輪が1年延期となったことで救われた選手がいる。鈴木亜由子(日本郵政グループ)だ。2020年1月下旬に右ハムストリングスを肉離れしたため、通常開催では状態が不安視されていた。ただ、その後も故障に苦しんだ。今年3月の名古屋ウィメンズマラソンは左脚外側大腿二頭筋腱の炎症で欠場している。そんな鈴木は終盤盛り返して、2時間33分14秒の19位でフィニッシュした。 「苦しいレースになって、勝負はついていたんですけど、自分を信じて、とにかく42.195kmで出し尽くそうと思って最後まで気持ちを切らさずに走りました」 様々な事情を抱えていたとはいえ、MGCで日本代表を勝ち取った前田と鈴木は中間点を前にトップ集団から脱落。世界とは勝負にならなかった。一方、昨年の名古屋ウィメンズマラソンで日本歴代4位の2時間20分29秒をマークして“ラストシンデレラ”になった一山麻緒(ワコール)は先頭集団に食らいついた。