なぜ東京五輪代表の一山麻緒は周回コース&男子ペースメーカーの好条件でも日本記録を更新できなかったのか?
会場となった長居公園内にフェンスを設置して一般入場者を規制するなど、異例の大会となった大阪国際女子マラソン。1周2.8kmの周回コースを男子選手が引っ張るという国内では“未体験“のレースは日本記録の更新が期待されていた。 女子マラソンの日本記録は野口みずきさんが2005年のベルリンで打ち立てた2時間19分12秒。1kmあたり3分18秒のペースになる。 今回の周回コースは高低差が4.4mで、12時の天候は晴れ、気温10.2度、湿度50%。風もほとんどなく、好タイムを狙うには絶好といえる状況だった。そして、東京五輪代表に内定している一山麻緒(ワコール)と前田穂南(天満屋)が日本記録にチャレンジした。 しかし、結果は一山が2時間21分11秒で前田が2時間23分30秒。一山は野口さんが持つ大会記録(2時間21分18秒)を上回り、前田は自己ベストを更新したが、16年ぶりの日本記録には届かなかった。 昨年の名古屋ウィメンズマラソンで女子単独レースのアジア記録となる2時間20分29秒を叩き出した一山は、なぜ好条件の大阪で日本記録を逃がしたのだろうか。 日本記録を狙うペースに食らいついたのは一山と前田のふたりだけで、トップ集団のペースメーカーは2時間8分台のタイムを持つ川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)と岩田勇治(三菱重工)、同2時間10分台の田中飛鳥(ひらまつ病院)が務めた。 序盤に関してはスピードに勝る男子選手の“感覚“があだになった。マラソンは序盤で身体を温めて、徐々にエンジンをかけていくような走りが理想的だ。しかし、今回は最初の1kmが3分13秒と予定より5秒速く、その後の2kmはキロ3分21秒ペースまで下がるなど、安定感を欠いた。女子選手からすると、最初の1kmは「速いな」と感じて、心拍数も上がったと考えられる。 ただ3km以降のペースメイクは素晴らしかった。キロ3分18秒前後で安定させただけでなく、常に女子選手との差をチェックしながらスピードを微調整。ときには、「いけるよ」「頑張れ」という声をかけて、女子選手を鼓舞した。通常ならペースメーカーは30kmで離脱するが、42km付近まで徹底的にアシストしている。 一山にとっては前田が13km付近でトップ集団から脱落したことも不運だった。終盤まで競り合う展開になれば、底力を発揮できた可能性があるからだ。 そして日本記録に届かなかった原因として一番大きかったのは、一山の状態が完全ではなかったことだろう。