なぜ秋華賞で”純白のヒロイン”1番人気馬ソダシは歯が折れ10着に惨敗したのか
準備にも抜かりはなかった。オークスでは2400mの距離に対応するため、折り合いに専念しようと控える作戦を選択したが、ライバルのプレッシャーを受け続け、中途半端なレースとなった。結果8着に敗れ、吉田隼人騎手は「ソダシの良さを生かすには積極的に行った方が良かったですかね」と振り返っていた。 だから陣営は、今回の秋華賞へのテストも兼ねて8月に同じ2000mの札幌記念(G2)にソダシを出場させた。そこでは正攻法の先行策を取った。早めに動かざるを得ない展開になったが、最後の直線では、ラヴズオンリーユーなど年長のG1馬3頭を完封。クロフネ産駒として初めて2000mでの重賞初制覇ともなり一段と株を上げた。 これには須貝調教師も「得意の洋芝だし、重量も52キロと軽かったのもあるけど、一番は距離を試してみたかった。2000mをこなしたのは大きい。強い競馬をしてくれた」と目尻を下げ、秋華賞への自信を深めていたのである。 しかし、それらの準備が生きなかった。この日のソダシはいつものソダシではなかった。「テンションを上げすぎないようにうまく調整できた」という言葉通り、パドック、返し馬までは、落ち着いていたように見えたが、スタート前の待機場所では立ち止まったまま微動だにしない。スタート時間が迫る中、その後、担当厩務員が駆けつけ、うながすと何とかゲート方向に向かったが、20mほど手前で再びストップ。鞍上にそむく仕草を繰り返した。いつもの精神状態ではなかったのだ。 嫌な予感は当たってしまった。ゲート入り後も前脚をバタバタさせ、ファンをやきもきさせた。その刹那、どうやらゲートが開く寸前に前扉に歯をぶつけてしまったようだ。 須貝調教師の言う出血の原因はこれだろう。吉田隼人騎手も「レース前からポケットを出たがらなかったり、ゲートに入らなかったりして、レースを嫌がるそぶりを見せていました。イメージ通りの競馬はできたんですが」と悔しさをにじませた。 ごくまれにゲート内で暴れて馬が歯を折るケースがある。だが、歯を折ったまま優勝できるほどG1レースは甘くない。 もしかすると4533人の観衆が、ソダシに影響を与えたのかもしれない。昨年のデビューから、ここまでは新型コロナウイルスの影響で入場に制限が加えられており、静かな競馬場でゲートインまでの時間をスムーズに過ごしていた。だが、この日の競馬場は、パドックから熱気に包まれた。ソダシ人気もあってプラチナチケットだった。 ファンは人気馬ソダシの写真をスマホでカシャカシャと撮った。その環境が、デリケートなサラブレッド、ましてや牝馬。気持ちの面でマイナスに働いた可能性はある。それがソダシの能力をそぐことになったとすれば、何とも皮肉だ。