アフターコロナの時代に加速する「脳の資本主義」の行方
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。目に見えないウイルスとの闘いが続く中、人々の意識や生活様式も徐々に変わりつつあります。アフターコロナの社会は、いったいどのようなものになっていくのでしょうか。 「ウィズアウトコロナの新年を」 小池都知事が呼び掛け 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏はかねてより「人間は脳を外在化する動物」と話していましたが、アフターコロナの時代は、この傾向がさらに加速すると見ているようです。若山氏が独自の「文化力学」的な視点からアフターコロナの時代を論じます。
「脳世界」の拡大
「僕の頭(ヘッド)は僕の胸(ハート)を抑えるために出来ていた。行動の結果から見て、甚しい悔を遺さない過去を顧みると、これが人間の常体かとも思う。けれども胸が熱しかける度に、厳粛な頭の威力を無理に加えられるのは、普通誰でも経験する通り、甚しい苦痛である」(夏目漱石『彼岸過迄』) この小説の主人公が漱石自身の精神的代弁者であることはまちがいない。近代日本を代表する作家は常に「頭(理性)」と「胸(情熱)」の葛藤に悩み、強い理性がムリにでも情熱を抑え込むという性格に、はなはだしい苦痛を感じていたのである。この時代、人間の思考は「頭(脳)」と「胸(心臓)」とに分かれているという常識があったのだ。 前回、新型コロナウイルスとトランプ大統領の出現を「脳に対するからだの逆襲」と書いた。人間は都市化する動物であり、都市の本質は脳的な機能であり、文字やコンピューターやAIの登場に見るように、人間は脳を外在化する(脳の機能を都市空間に移植する)動物である。しかもこれは不可逆で加速的な現象であり、人間はその都市化と外在化に対する反力(怨念)を「心」にやどす、というのが僕の基本的な考え方である。 今回は、アフターコロナの時代に、人間の「脳世界」がどのような方向に進むかを考えたい。ここで脳世界とは、人間をとりまくリアルの世界ではなく「脳の内にある世界とそれに働きかける外的世界の融合」であると定義しよう。つまり今回は、前回の続編であるが「からだの逆襲」の原因となる脳の話だから、その意味では前編ともいえる。