「銃の民主主義」 アメリカ大統領選挙がわたしたちに教えたもの
激戦となったアメリカ大統領選挙。民主党のバイデン前副大統領が勝利宣言をしましたが、依然としてトランプ大統領が選挙の不正を訴えており、スムーズな政権移行が進まないのではないか、との懸念も出始めています。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏はトランプ大統領について、改めて「とんでもない大統領」と感じながらも、現在のアメリカの状況に民主主義の本質も見ているようです。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
トンデモ大統領
トランプ大統領の4年間と今回の大統領選挙で、アメリカのイメージが変わった人も多いのではないか。大統領に一般的な知識がない。平気で嘘をつく。意にそぐわない側近を首にする。選挙戦では、相手の人格攻撃ばかり、明らかに不法と思われる選挙妨害も辞さず、最後には「集計を止めろ」とまでいい、「選挙を盗んだ」という訴訟をあちこちで起こしている。マスコミ報道から感じる限りでは、たしかにとんでもない大統領であった。 しかしその言動に、半分近くのアメリカ人の本音が出ていることは、同盟国として留意しておく必要がある。民主党を支持する州はみごとに西海岸と東海岸で、そのグローバリズムに乗る知的な層に反発する内陸部の素朴な気持ちも理解できるし、アメリカファーストというのは考えてみれば当たり前のことかもしれないのだ。 大統領を決めるルールが曖昧であることは少なからず意外であったが、特におどろいたのは、暴力によって選挙に影響が出る可能性があることだ。過激化した支援者のデモは一触即発、極右のプラウドボーイズや、私的軍隊のミリシア(民兵)も登場した。ミリシアのメンバーが、いかにも高性能に見える銃を誇らしげに手入れして試射する光景は衝撃的であった。 平和な社会に慣れた今の日本人からは、ずいぶんと野蛮に感じられ、これが先進的な民主主義国の姿かと疑問をもつ。そういった、アメリカの物騒なところを批判するのは簡単だが、ここでは逆に、民主主義というものの本質を問い直す機会にしてみたい。