直木賞に西條奈加さん “宝くじ”に例えた受賞の不安とは
第164回直木賞(日本文学振興会主催)は西條奈加(さいじょう・なか)さん(56)の「心(うら)淋し川」が受賞した。20日夜の記者会見で、西條さんは「受賞の連絡受け取るまでは、のんきに構えていたものですから、電話をいただいてから急に汗が出てきたり、声が上ずったりしている状態です」と緊張気味に語った。 【会見動画】第164回「芥川賞、直木賞」宇佐見りんさん、西條奈加さん受賞会見
今回は「あえて地を這いずって生きる人を書きたかった」
西條さんは、1964年北海道中川郡池田町生まれ。2005年のデビュー作「金春屋ゴメス」で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した。2011年の「涅槃の雪」で第18回中山義秀文学賞、2014年の「まるまるの毬(いが)」で第36回吉川英治文学新人賞を受賞したが、直木賞へのノミネートは今回が初めて。 受賞する前は「宝くじは狙うものではない、幸、不幸の量は変わらない」と話していた。「宝くじと言ったのは、当たったらいいなという夢のある感じが似ていると思って。それくらい遠いものというか、身近に感じられないものだった」。しかし、いざ“当たって”みると、「戸惑いの方が大きくて。もちろんうれしいし光栄なんですが、この後どうしたらいいんだろうという不安の方が大きくて、幸不幸の量としてはイーブンくらいかな」と苦笑する。ちなみに不安とは、今抱えている原稿の締め切りのこと。直木賞を受賞したら、しばらく仕事にならないほど取材や原稿依頼が殺到すると聞かされたという。 受賞作は、江戸の小さなどぶ川沿いにある長屋の人々の喜びや悲しみを連作形式で描く。「もっとすっ飛んだ感じのファンタジーも書きますが、今回はあえて思いっきり地に足をついて、地面を這いずってもがきながら生きている人を書きたかった。私もフリーランスですから、いつそうなるか分かりませんし、絶えずすぐ隣にそういう境遇がある、という感覚はあります」 新型コロナウイルスの感染が拡大し、2度目の緊急事態宣言が発令されても、原稿を書くのが仕事である自身の生活は大きく変わらないが、「こういうときだからこそ、読者の存在をより身近に、意識して考えるようになりまして。読者に読んでもらって初めて小説は完成するものではないか、という意識が非常に強くなりました」。 3~4年先までは仕事の予定が入っているという西條さん。今後について「毎作何らかの形で違った挑戦をしていけたらいいなと思っています」と語った。 (取材・文:具志堅浩二)