解説過労死として表に出てくるのは氷山の一角に過ぎない。過労自死は昨年度79件(自殺未遂も含む)が労災認定されたが、これは毎年2000件程ある「勤務問題」を理由とした自殺件数のごく一部だ。 過労死が覆い隠されるのは企業側の隠蔽工作の影響が大きい。記事でも、使用者のスーパー側はパソコンの記録を消去し「残業は指示していない」と責任を回避するような主張を裁判で展開しているが、タイムカードを破棄したり、情報を隠したりするのは企業側の常套手段となっている。しかも証拠隠蔽に対する罰則も実質的には存在しないため、「隠し得」になっている。 このような妨害工作に対して、遺族が自分自身で元同僚からの証言を得て、労働時間記録を調べなければならず、あまりに不公正な状況になっている。過労死をなくしていくためには、企業側の証拠開示を義務付けるなど、遺族が労災申請など権利行使を行うハードルを引き下げていくことが極めて重要だ。
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コメンテータープロフィール
NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。