非正規春闘は「10%以上の賃上げ要求」へ 春闘賃上げ相談ホットラインの開催も
春闘の時期に非正規労働者の大幅賃上げを求める非正規春闘実行委員会が、2025年の春闘で非正規労働者の賃上げ率を10%以上とすることを、本日2日に発表した。
先週末には、労働組合の全国組織である「連合」が、大手を含む全体の賃上げ率を5%以上、中小企業については6%以上を求める方針を発表していた。本日の非正規春闘実行委員会の発表により、来年の春闘の要求水準がおおむね出揃ったことになる。
同実行委員会によると、全体の賃上げ率は5%以上、企業規模間の格差是正を図るため中小企業については6%以上、正規・非正規の格差是正のため非正規労働者については10%以上を求めていく。
春闘では珍しい労働相談ホットラインの実施
春闘とは、毎年春に一斉に、様々な企業で労働組合と経営者が賃上げや労働条件改善について交渉する労使慣行である。
労働組合がある職場・企業では、年末頃から労組によるアンケート調査があったり、春が近づくと春闘交渉の経過や妥結内容の報告がある。
だが、日本の労働組合の推定組織率は低く、2023年には過去最低の16.3%にまで落ち込んだ。さらに、企業規模別にみると、1000人以上の企業で39.8%に対し、100~999人の企業では10.2%、99人以下では0.8%であり、中小零細の組織率いっそう低い水準にある。また、パートタイム労働者の組織率も8.5%であり、労働組合のある職場は極めて少ない。
そのため、日本の労働者の大半にとって、春闘は縁遠いものとなっている。とりわけ中小企業で働く労働者や、パートや派遣など非正規雇用で働く労働者にとっては、テレビのニュースの世界だけの話であり、自分たちとは関係のないものとなってしまっている。本来、大企業よりも賃金水準や労働条件が低く抑えられている中小企業や非正規で働く人にとってこそ、春闘の賃上げが必要だが、現実はそうなっていないのだ。
こうした現状を踏まえ、非正規春闘実行委員会は、明日12月3日(火)17時~21時にかけて、春闘賃上げ労働相談ホットラインを開催し、賃上げ等についての労働相談を受け付けるという。職場や企業に労働組合がない場合や、職場に労組があっても機能していない場合であっても、企業の外部にある地域の労働組合に個人または複数名で加入して、賃上げ交渉を行うことが可能になる。
非正規春闘実行委員会の相談ホットラインでは、各地の個人加盟制の労働組合の相談員が、賃上げについての相談に乗り、希望に応じて賃上げ交渉のサポートを継続して行うという。
【ホットラインの詳細】
名称:春闘賃上げ労働相談ホットライン
日時:12月3日(火)17時~21時
番号:0120-333-774 〈相談無料・秘密厳守〉
主催:非正規春闘実行委員会
相談の例:「物価高騰に見合う賃上げを実現したい」
「賃金が仕事内容や責任に見合っていない」
「法律通り着替え時間にも賃金を払ってほしい」
「賃金が15分単位で切り捨てられている」
「同じような仕事なのに正社員との賃金格差が大きい」
また、日程の合わない人やメールでの相談を希望する人は、非正規春闘実行委員会のホームページ上にある相談フォームを利用するのも良いだろう。
非正規春闘で賃上げを実現した具体例
職場に労働組合がなくても、個人や数名で労働組合へ加入して賃上げを求めるという非正規春闘の取り組みは、一昨年始まったばかりであり、まだ人口に膾炙したとは言えず、なかなかイメージがつきづらいかもしれない。
一人や数名で労働組合へ加入して賃上げ実現した事例は次のようなものだ。
(1)Amazon倉庫で働く派遣労働者の賃上げ交渉
Aさん(20代・男性)は、関西にあるAmazonの倉庫で派遣労働者として働いていた。もともと仕事の大変さに比して時給1150円では低いと不満を持っていたところに、非正規春闘についてのweb記事を読んで、自分も賃上げ要求の動きに加わりたいと思い、非正規春闘実行委員会に相談した。労働組合の相談員が担当について、賃上げ交渉の準備をすることになった。
何度かZOOMでの打ち合わせを行い、要求内容や交渉の進め方を固めた。最初の相談から3週間ほどで、派遣会社へ春闘交渉の申し入れを行った。また派遣先(倉庫請負)の日通と元請のAmazonに対しても交渉を申し入れた。日通とAmazonは、Aさんの直接の使用者でないことから交渉を拒否したが、派遣会社は交渉に応じた。初回の団体交渉では、派遣会社は「賃上げには応じられない」とゼロ回答であった。
それに対して、Aさんは労働組合のストライキ権を行使し、1週間のストライキを行った。その後、4月上旬に派遣会社から約4.3%の賃上げ回答(時給1150円から1200円へのアップ)があった。派遣会社から「amazonと日通の協議の結果、物価高騰を考慮し、時給を引き上げる」という趣旨の説明もあった。
参考: #非正規春闘 Amazonストライキ後の結果報告、賃上げ実現! ただし目標の10%には届かず。)
(2)回転寿司スシローで働くパート・アルバイトの賃上げ交渉
Bさん(20代、大学生、男性)は、回転寿司スシローの東京都の店舗でアルバイトスタッフとして働いていた。準備時間や1分単位での賃金支払いを求めるために、飲食店ユニオンに相談し加入した。団体交渉を通じてすぐに1分単位の支払いへと改善した。そのことを記者会見で発表すると、宮城県の店舗のパート従業員のCさん(60代、女性)、徳島県の店舗のパート従業員のDさん(50代、女性)が労働相談に加わった。
2023年の春闘では、10%賃上げ要求を提出し、4店舗でストライキも行った。東京店舗では1200円から1400円へ賃上げ、宮城や徳島でも数十円の賃上げを実現した。宮城の店舗では賃上げ署名を集めて会社に提出するなど、組合員以外の意見も聴取し一緒に取り組んだ。翌年の2024年の春闘では、組合員のいる店舗では平均10.7%の賃上げを実現し、今年はさらに宮崎県の店舗からも組合加入者が集まり、全国あわせて20名弱の従業員が飲食店ユニオンに結集して春闘交渉を行う予定だという。
参考: 東京で時給200円、徳島で100円アップ勝ち取る 仙台でも賃上げ実現 交渉、ストライキの成果
最初の例では、一人で労働組合に加入して、交渉やストライキを行うことで賃上げを実現している一方、二つ目の例では、一人で始めたものの各地の他の店舗から組合加入者が集まり、集団での春闘交渉が実現し賃上げを勝ち取っている。
このように、非正規春闘では、一人から春闘賃上げ交渉を始めることができるが、自分の勤める職場や他の店舗などから仲間を募って、まとまって大勢で交渉することもできるのだ。
今年は「年収の壁」問題や公務非正規の待遇改善も掲げる
非正規春闘は来年で3年目を迎えるが、新たな動きもある。まず「年収の壁」を超える大幅賃上げを目標に掲げていることだ。
昨今、最低賃金の引き上げなどにより、「年収の壁」を意識して労働時間を抑制する労働者も増えていることが指摘されている。これにより、賃上げが手取りの増加につながらないという問題や、“働けるのに働けない”といった現象が起きている。
非正規春闘の労使交渉においても、賃上げすると扶養内で働く人たちが「年収の壁」のためにシフトに入る時間を減らし、人手不足を招くとして、賃上げを拒否する会社も少なくないそうだ。
そうした会社に対しては、「年収の壁」を超える大幅賃上げを求める方針だという。国も「年収の壁・支援強化パッケージ」などを用意し、賃上げ等により社会保険の適用を進めた企業への助成金を設けるなどして、「年収の壁」を理由に賃上げを抑制するのではなく、「年収の壁」超える賃上げを行うよう推奨している。非正規春闘実行委員会は、企業がこうした助成金等を活用しながら大幅賃上げを行って、手取りを減らすことなく「年収の壁」を乗り越えることが望ましいと主張している。
もう一つ新たな動きがある。それは、非正規春闘を公務非正規にまで広げることだ。
非正規公務員(会計年度任用職員)の労働環境は、多くのメディアで報じられている通り、最低賃金すれすれの低賃金と不安定な有期雇用にもかかわらず、労働三権に制約がかけられ、ストライキ権が保障されていないという劣悪な状態である。
公務員の賃金は人事院勧告にもとづいて決まる慣行があるが、非正規公務員の賃上げは待ったなしの課題であり、今年から非正規春闘でも取り組むとしている。
具体的には、非正規公務員から賃上げ交渉の相談・希望があれば、地方公務員法等にもとづく職員団体登録を行い、地方公共団体の当局と交渉を行うという。すでに東京公務公共一般労働組合などいくつかの個人加盟労組には、非正規公務員の賃上げ交渉で賃上げを実現している実績もあるという。
これからは、勤務先の自治体職場に非正規公務員の賃上げに取り組む労働組合がなくても、非正規春闘実行委員会に参加している個人加盟労組に加入して、春闘賃上げ交渉を行うこともできるようになるということだ。
おわりに
春闘は、日本の労働組合運動のなかでも、最も知名度のある、長い歴史をもつ運動であることは疑いえない。
その一方で、春闘は民間大企業正社員中心の運動から長らく脱皮できず、一部の限られた労働者の運動となってしまっていたことも否めないだろう。
本稿で見てきた非正規春闘やそれが取り組む春闘賃上げ相談ホットラインなどは、そうした閉鎖性を打ち破る試みだと言えるだろう。
中小企業で働く労働者や非正規雇用で働く人、さらには公務部門の非正規雇用で働く人たちが取り残されない、本当の意味で「みんなの春闘」と言えるような運動へと、春闘が発展していくことを願いたい。
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