ニューヨークを沸かせた濃厚豚骨ラーメンで博多へ 28歳の若きラーメン職人の挑戦
博多で豚骨ラーメンを出す難しさ
福岡博多は言わずと知れた豚骨ラーメンの聖地である。多くの老舗ラーメン店が今も人気を集め、海外に進出する人気店も数多い。豚骨ラーメンが日常にあるからこそ、福岡で新しく豚骨ラーメン店を出すのは難しい。福岡の人ならば、誰もが自分が好きな豚骨ラーメン店があ理、子供の頃から通い続けている店がある。その中で同じ豚骨ラーメンという土俵で勝負するためには、相当の覚悟が必要なのだ。
だからここ数年、福岡で話題になる新店といえば「非豚骨」「脱豚骨」と呼ばれるラーメン店が主だった。博多ラーメンで勝負するとなると、どうしても老舗や人気店と比べられてしまう。しかも老舗になるといまだ一杯のラーメンを500円台で提供している。場所を借りて人を雇い、素材もたっぷり使って味で負けないラーメンを作ろうとすると、どうしてもコストがかかってしまう。ハイリスクな挑戦をする人が少ないのも当然と言える。
そんな中、2019年のオープン以来じわじわと人気を集めている一軒のラーメン店がある。『麺屋たいそん』(福岡県福岡市博多区博多駅前3-12-3)で提供しているのは「博多ラーメン」。「脱豚骨」がトレンドになりつつある博多で、敢えて王道の豚骨ラーメンで勝負を挑んでいるのは、若干28歳の店主松尾亮太さんだ。独立開業した時は25歳の若さだった。
「格好いい大人」になりたくてラーメンの世界へ
福岡市で生まれ育った松尾さんは、子供の頃からラーメンが大好きだった。高校時代に足繁く通っていたラーメン店『博多新風』で、アルバイトをするようにもなった。高校卒業後はこれといった夢もなく、工場に就職したものの友達との遊びの方が楽しく仕事にも身が入らなかった。
そんな時にかかってきた一本の電話。電話の相手は学生時代にアルバイトをしていた『博多新風』店主の高田直樹さんだった。松尾さんの近況を聞いた高田さんは「遊んでいるならウチで本気でやってみないか」と声をかけた。現状を良しとはしていなかった松尾さんは、ラーメンに自分の人生を賭ける思いで、再び社員として『博多新風』で働くこととなった。
「せっかく声を掛けて頂いてラーメンの世界に入ったのですが、やはり遊びの方に意識が行ってしまって仕事と本気に向き合うことが出来ずにいました。そんな時に高田社長に『今のままでは格好いい大人になれないぞ』と叱られたんです。それじゃダメだ、格好いい大人になりたいと思って、そこからは気持ちを入れ替えて、自分なりにがむしゃらに働きました」(麺屋たいそん店主 松尾亮太さん)
真剣に仕事に向き合うようになった松尾さんをみて、高田さんは支店の立ち上げや地方の催事などの仕事を松尾さんに任せた。そこで多くの経験を積む中で、自分の店を持ちたいという夢が生まれた松尾さんは、新風を卒業してラーメン店の立ち上げに参画。そのラーメン店でニューヨークのラーメンコンテストに出場し見事優勝を勝ち取る。アメリカの人たちに自分が作った豚骨ラーメンを美味しいと言われたことが、松尾さんにとって大きな自信となった。
濃厚ながらも臭みのないオリジナルの豚骨ラーメン
そして25歳で独立開業。屋号の『たいそん』は自分のニックネームからつけた。もちろん作るのは豚骨ラーメン。場所も出すなら地元の博多と決めていた。
「豚骨ラーメンで生まれ育っていますから、豚骨以外は興味がありませんでした。というよりも、豚骨ラーメン以外知らないんです。博多での開業はもちろん地元ということもありますが、やはり豚骨でやる以上は福岡、博多で勝負しなければ意味がありません。県外でお店をやるのは逃げなのではないかと思ったんです」(松尾さん)
濃厚でこってりとしていながらも、豚骨特有の臭みがなく旨味をしっかりと抽出したスープが松尾さんの理想とするラーメン。頭骨、ゲンコツ、背ガラをじっくりと炊き上げたスープは、深い旨味をたくわえて後を引く味わいに仕上がった。理想のスープには自分が大好きな『博多新風』の麺を合わせたい。師匠の高田さんも麺を使うことを快諾。脇役であったチャーシューを主役として食べて欲しいという思いから、チャーシューには稀少部位である豚トロを使用。松尾さんが理想とする豚骨ラーメンが出来上がった。
オープンして間も無く2年を迎えようとしているが、しっかりと常連客もつき人気店となった。自分の大好きなラーメン店で学んだ技術と、ニューヨークで多くの人に支持された経験が一つとなり、博多の街で愛されるラーメンとなったのだ。
「ラーメン屋さんはとても楽しいです。お客さんが目の前で笑顔になってくれる仕事ですから。オープンしてまだまだですが、これから地元に長く愛され続けるお店にしていきたいと思っています」
※写真は筆者によるものです。
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