「豚骨発祥」久留米ラーメンの伝統を守り伝える職人の新たな挑戦
久留米の人気ラーメン店が東京に初進出
福岡県久留米市は古くから九州流通の要として、小売業や問屋が多く集まる商業の街だった。戦前は久留米絣や行商用の足袋が主要産業として栄え、戦後はゴムの街として名を馳せた。そんな久留米の街で今から80年以上前に生まれた「久留米ラーメン」は、博多ラーメンをはじめとする豚骨ラーメンの源流ともされているが、その知名度は意外にも低い。
豚骨発祥の久留米ラーメンを全国に広めたい。そんな想いで日々厨房に立っているラーメン職人が『拉麺 久留米 本田商店』(本店:福岡県久留米市南3-27-29)店主、本田眞一さんだ。2010年の創業以来、久留米のラーメン店主たちと共に全国各地のラーメンイベントや催事などにも精力的に出店し、久留米ラーメンの知名度を上げる活動を続けてきた。そして、2020年6月には初めて東京池袋に進出(東京池袋店:東京都豊島区南池袋1-24-5 池袋楽園タウン1F)。本場の味をそのまま楽しめると、東京でも評判は上々だ。
久留米と全く同じ味で勝負したい
「人気ラーメン店が多い東京で勝負するのですから、変なものは出せません。久留米と全く同じ味を東京の人にも食べて頂きたいと思い、豚骨はもちろんネギにいたるまで使用する食材すべてを九州から直送、麺も自家製のものを久留米の店から送っています。送料などを考えると東京で調達する方が良いのですが、やはり本店と同じものを使い同じ製法でラーメンを作りたいと思いました」(本田商店店主 本田眞一さん)
久留米ラーメンの特徴として「呼び戻し」と呼ばれる技法がある。「鰻のタレ」のように前日の豚骨スープをベースに継ぎ足して作ることで、一回ごと取り切ったスープよりも旨味が深くなると言われている。本田さんも久留米の伝統である「呼び戻し」の製法を使い、国産豚骨を強火で炊き上げてスープを作る。そのスープをしっかりと丁寧に漉すことで、豚骨の旨味を蓄えながらも雑味がない味わいを表現。久留米ラーメンの新たな境地を生み出した。
「今までにない"新しい久留米ラーメン"を作りたいと思ったんです。呼び戻しスープなど久留米ラーメンの伝統は残しながらも、こってりながら後味はスッキリ、臭いが少なく食べやすいラーメンを目指しています」(本田さん)
インテリアの世界からラーメンの道へ
大学卒業後、大手インテリアメーカーへ就職した本田さんは、多くの飲食店やホテルなどのインテリアを手掛けて活躍していた。いずれは独立してインテリアの会社を立ち上げよう。そう思っていた35歳の時に、父親が代々続く家業である履物問屋業をたたみラーメン店を開いたことで、本田さんの人生は大きく変わることとなった。
本業のインテリアは続けながら父のラーメン店も手伝っていた本田さん。しかし、久留米で生まれ育った本田さんにとって久留米ラーメンはもちろんソウルフード。しばらくはインテリアとラーメンの二足のわらじを履いていたが、ラーメンの可能性に魅せられてラーメンの世界で生きていく覚悟が出来た。飲食経験のなかった本田さんは、専門学校や日本料理店、ラーメン店などで一年半かけて勉強を重ね、料理の基本を学んで、父親の営んでいたラーメン店を受け継いだ。
「自分が作ったものをお客様に評価して貰えるのがラーメン。ルールに縛られない自由な世界に面白みを感じたんです。そこでラーメンと真剣に向き合おうと決めて、自分の店として『本田商店』を開業しました」(本田さん)
この『本田商店』という店名は、代々続く本田さんの家業の屋号でもある。明治初期に呉服屋として創業し、履物の総合卸問屋として久留米の地で商いを営んでいた『本田商店』の名前を、再び久留米で復活させたいという思いから、自分のラーメン店の名前にした。
もっと美味しいラーメンにしていきたい
2020年10月には、博多の人気ラーメン施設『ラーメンスタジアム』にも新店をオープン(キャナルシティ博多ラーメンスタジアム店:福岡県福岡市博多区住吉1-2-22 キャナルシティ博多5F)。博多の豚骨ラーメン店が多く集まる施設の中で、久留米伝統の製法で作る豚骨ラーメンを提供して早くも人気を集めている。
創業して今年で10年、今や久留米を代表する人気ラーメン店となった『本田商店』だが、本田さんは社長業のかたわら今も毎日厨房に入っては、日々ラーメンの改良を重ね続けている。生涯ラーメン職人のままなのだ。
「このラーメンがもっと美味しくなると思っているんですよ。麺もスープも店で手作りしているのは、食べてみてすぐに改良がしやすいからなんです。ものづくりって満足したら終わりだと思います。その日その日のベストを出し続けて、このラーメンをもっと美味しくしていくのが僕の仕事です」(本田さん)
※写真はすべて筆者によるものです。
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