Yahoo!ニュース

高3の夏、進むべき道に悩むヒロインを演じた上原実矩。役に「申し訳ない」と思ったこととは?

水上賢治映画ライター
「ミューズは溺れない」より

 大九明子監督らの元で助監督を務めてきた淺雄望監督の長編デビュー作「ミューズは溺れない」は、まだ何者でもない自分に思い悩むすべての高校生に「大丈夫」とそっと手を差しのべてくれるような1作だ。

 絵の道へ進む自信を失ってしまい、目標を見失いかけている美術部部員の朔子、同じく美術部員でいつもクールで周囲を寄せ付けない雰囲気がありながら実は他人には明かせない深い悩みを抱えている西原、ちょっと厚かましいけど人一倍友達想いの朔子の親友、栄美ら。

 「進路」というひとつ答えを出さないといけない時期を前にした彼らの心が揺らぐ「高校三年の夏」が鮮やかに描き出される。

 その中で、主人公の朔子を等身大で演じ切っているのが上原実矩。

 今年、主演作「この街と私」をはじめ出演作の公開が相次ぎ、注目を集める彼女に訊く。(全三回)

自分のブサイクな表情とかが、お芝居や映画の味になってくれたら本望と

常に思っています

 前回の話に出たように、ひとつの気概をもって挑んだ作品。

 こうして迎えた劇場公開というのは喜びもひとしおではないだろうか?

「とてもうれしいんですけど、恥かしい気持ちもあります。

 というのも、まず容姿がまずい(苦笑)。

 めっちゃ日焼けしていて真っ黒だし。『お肌のケアのことちょっとは気にしなさいよ』といいたくなる(笑)。

 髪の毛とかも含めて『もうちょっと身だしなみを整えては』と思っちゃう。

 いや、かわいく映らなくても、美しく映らなくてもいいんです。

 何だったらそういう自分のブサイクな表情とかが、お芝居や映画の味になってくれたら本望と常に思っています。

 また、今回の朔子という役は、地方の田舎町で暮らすごくごく普通の女子高生で。

 見た目とかより今気になるのは自分の進路で芸術の道に進むべきかどうかにある。

 垢ぬけている感じになってしまうとそれは違うと思うし、朔子という役になじまない。

 ただ、限度があるだろうと。もうちょっとかわいくても許されるでしょうと思って、朔子に申し訳ないなとも思っています。

 しかも、主人公なので全編にわたってずっと映っているから、よけい恥ずかしいです」

恥ずかしいんですけど、いまは多くの方に見てもらえれば

 こういう恥ずかしさはありながらも、やはり感慨深いものがあると明かす。

「撮影から数えると3年が経っていて、まだ続いていますけど、コロナ禍でもあり、映画を観れずに終わってしまう可能性があっても不思議ではなかった。

 そう考えると、無事完成して、劇場公開を迎えられていることは、ただただ監督の想いに感謝しています。

 テアトル新宿さんを皮切りに各地の映画館で上映されることが決まって、自分もうれしい気持ちでいっぱいですけど、周囲の方々もとても喜んでくださる。

 事務所のマネージャーさんをはじめとするスタッフの方であったりとか、家族であったりとか、友人であったりとか、いつもわたしを支えてくれている人たちが喜んでくれる。

 それを見ると、少しは恩返しができたのかなと思います。

 恥ずかしいんですけど、いまは多くの方に見てもらえればなと思っています。

 ぶさいくなところは大目にみてくれれば、救われます(笑)」

「ミューズは溺れない」より
「ミューズは溺れない」より

演じることの喜びみたいなことを再発見することができた

 2022年は、本作「ミューズは溺れない」と「この街と私」と主演映画が2本公開。ひとつの転換期を迎えた年といっていいかもしれない。

 本人はどう受けとめているだろうか

「自分がひとりの人間としてひとりの役者として、お芝居とどう取り組んで、どのように映画やドラマといった作品と携わっていくのか、悩んでいる時期が続いていたんです。

 でも、ここにきて少し吹っ切れたというか。少しだけ見えたことがありました。

 『ミューズは溺れない』をはじめ今年公開されたいくつかの出演作での経験を通して、初心に戻れたところがあって。

 お芝居の楽しさややりがい、演じることの喜びみたいなことを再発見することができたんです。

 ここから気持ちも新たに、いろいろなことにチャレンジしていけたらと思っています」

【上原実矩第一回インタビューはこちら】

【上原実矩第二回インタビューはこちら】

「ミューズは溺れない 」より
「ミューズは溺れない 」より

「ミューズは溺れない 」

監督・脚本・編集: 淺雄望

出演:上原実矩 若杉凩 森田想

広澤草 新海ひろ子 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美

菊池正和 河野孝則 川瀬 陽太

全国順次公開中

公式サイト →  https://www.a-muse-never-drowns.com

写真はすべて(C)カブフィルム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事