「力による現状変更」へのバイデン氏の欺瞞―許容されるイスラエルの「戦争犯罪」
「力による現状変更は許さない」―プーチン大統領がロシア軍をウクライナへ侵攻させたことに対し、米国のバイデン大統領を始め各国の首脳が批難。「力による現状変更」を断固反対することで足並みを揃えた。確かに、プーチン大統領の暴挙は許されない。ただ一方で、あからさまな「力による現状変更」は米国の支援するイスラエルもパレスチナに対して行なってきた。昨年、今年とパレスチナの人々が直面している状況は厳しくなるばかりだ。
◯イスラエルの「力による現状変更」
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸では、イスラエル当局によってパレスチナ人の住民の家々が破壊され、強制的な立ち退きが行なわれ続けている。国連人道問題調整事務所(OCHA)が公開している統計によると、2009年以降から現在まで、8312の建物が破壊され、1万2314人が立ち退かされたのだという。そして、その頻度は昨年に急増。(OCHA)によれば、一昨年と比較して21%も増加しているのとのことだ。とりわけ、東エルサレムでの家屋破壊はそれ自体の人権侵害としての酷さは勿論のこと、中東和平のプロセスそのものを揺るがしかねない問題だ。なぜなら、オスロ合意による中東和平では、パレスチナ自治区を将来的に国家として昇格させ、イスラエルとパレスチナの二国家共存をゴールとし、東エルサレムは、パレスチナ側が将来の首都としているからだ。一方、イスラエル側は東エルサレムも含め、エルサレム全体の領有権を主張し、実効支配している。さらにユダヤ人入植者団体が、東エルサレムは元々自分たちのものだと主張、パレスチナ人の住民の立ち退きを提訴、イスラエルの裁判所もこれを認める判決を次々と出しているため、住宅破壊がさらに進むという状況だ。
国連の特別報告者マイケル・リンク氏は今年1月、東エルサレムのパレスチナ人の16家族がイスラエル当局から立ち退きを迫られていることについて、ジュネーブ第4条約49条「占領者が保護すべき人々の追放の禁止」に反すると懸念。また、「イスラエル側は、この地域でより違法なユダヤ人入植地を設立する道を切り開き、東エルサレムを他の西岸地区から物理的に分離して断片化することを目的としているようです」と、パレスチナ人住民の追放は、東エルサレムをイスラエルのものとすることの既成事実化を進めるためだと指摘した。こうした、イスラエル側の振る舞いこそ、「力による現状変更」にほかならないだろう。リンク氏は昨年夏も、国連人権理事会で報告。イスラエルが行なっていることは「戦争犯罪に等しい」と批難している。
◯強制移住がもたらす現地情勢の悪化
ヨルダン川西岸のパレスチナ人住居破壊やユダヤ人入植地の建設等の「力による現状変更」が、現地情勢を悪化させていることは間違いない。昨年5月には、東エルサレムのシェイク・ジャラ地区に住むパレスチナ人家族が立ち退きを強要されていることに抗議する人々と、イスラエルの治安部隊が衝突し、パレスチナ人側が数百人が負傷。さらにパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスもイスラエル側にロケット弾を発射、報復としてイスラエル軍は、ガザに大規模空爆を行なっている。一方で、米国のバイデン政権は入植地建設には反対の姿勢を示すものの、イスラエル側に強く圧力をかけることはなく、その弱腰ぶりが民主党内でも批判される始末だ。バイデン政権は米国が毎年イスラエルに行なっている約38億ドルの軍事支援を見直すどころか、ミサイル防衛システムに10億ドルを供与することを、昨年10月に決定。同月、バイデン政権国務省のプライス報道官は「入植地建設に強く反対する」と発言したもの、実際には口先だけで、それをイスラエル側にも見透かされている。
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