ドイツ外相の大暴言に「ナチスそのもの」等の批判殺到―国連の人権専門家も懸念 #ガザ
ナチス・ドイツ時代の反省から、戦後、平和と人権を重んじてきたと自認するドイツ。だが、パレスチナ自治区ガザの市民や国連等の人道支援関係者を殺害し続けているイスラエルを露骨に擁護することについて、ドイツへの批判が高まっている。先日も、同国外務大臣のアナレーナ・ベアボック氏が、イスラエルが民間人・民間施設を攻撃していることを正当化する発言をしたことが、多くの人々の怒りを買った。ベアボック外相の発言に対し、中東の著名なジャーナリストは「ナチスそのものだ」と批難し、国連の人権の専門家らも苦言を呈した。
〇べアボック外相の「野蛮」な大暴言
問題の発言は、今月14日にドイツ議会でベアボック外相が演説した時のもの。ドイツ政府としてのイスラエル支持・支援に関して、
「(パレスチナのイスラム組織の)ハマスが人々や学校の陰に隠れている場合、難しい問題ですが、私達は(そこへ攻撃することを)ためらうことはしません。だからこそ、私は国連に対し『民間人のための場所であっても保護対象から外れる場合がある』『テロリストが悪用しているからだ』と明確にしました。それがドイツがよって立つ理念であり、私達にとって、イスラエルの安全保障が意味するものだからです」
と正当化したのである(関連情報)。これは、国際人道法に著しく反するものであり、「法の支配」の下にある現代的な民主主義国家にあるまじき、野蛮とすら言える主張だ。
〇「ハマスがいたから」は通用しない
「そこにハマスがいたから攻撃した」というのは、イスラエルの常套句であり、上述のベアボック外相の発言もそれに沿ったものだが、こうした主張は、国際人道法上、許容されるものではない。
国際人道法において、たとえ、民間人や民間施設に入り混じるかたちで軍事目標があったとしても、民間人や民間施設ごと無差別に攻撃することは禁じられている(ジュネーブ条約第一追加議定書第51条5項)。
また、攻撃の対象はあくまで軍事目標のみであることを大前提として、巻き添え被害が起こりうるような場合においても、軍事行動の最中に民間人及び民間施設を傷つけないように常に被害を予防しなければならないと定められている(ジュネーブ条約第一追加議定書第57条2項)。
さらに、軍事目標を攻撃する際に巻き添えとなる民間人及び民間施設の被害が、軍事的利益を大きく上回ることが予想される場合、そうした軍事行動の決定を差し控えることが求められている(ジュネーブ条約第一追加議定書第57条2項)。
参考:赤十字国際委員会 https://jp.icrc.org/information/regulating-weapons-and-their-use/
そして、イスラエルによるガザ攻撃は上述の国際人道法の規定にことごとく反するものだ。例えば、人口密集地に大型爆弾を大量に投下する、避難所となっている国連の学校で人々を殺害し、学校そのものも爆破するといった著しい国際人道法違反の戦争犯罪をイスラエル軍は繰り返しているのである。
〇「ナチスそのもの」「政治の酷い失敗」との批判
このような戦争犯罪がこの1年余り毎日のように行われている現実を前にしてもなお、「民間人のいるところや民間施設を攻撃することをためらわない」などと主張することは、もはや無差別の虐殺や破壊を肯定していることと同義であろう。ベアボック外相の発言に対し、中東の人々や中東にルーツをもつ人々からの批判が殺到。例えば、中東の衛星テレビ局アルジャジーラに所属し、X(旧ツイッター)のフォロワーが約123万人の著名なレバノン人ジャーナリストであるガーダ・オワイス氏も「これはナチスそのものだ」と痛烈にベアボック外相の発言を批判している。
ベアボック外相の発言に対しては、国連のパレスチナ問題に関する特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏も、自身のX(旧ツイッター)に、
「国連の独立専門家として、私はドイツがイスラエル/パレスチナに対して取っている立場や、その危険な意味合いと結果を深く懸念している。
ベアボック外相は自身の主張の根拠を示すべきであるし、イスラエルがガザやその他の場所で行っている大虐殺について、『保護されるべき地位を失った民間施設』について、どのように正当化するのかを説明してもらいたい。
ドイツが国際犯罪を犯している国家を支持することを決めたのは政治的な選択だが、法的な問題もある。政治の酷い失敗に対し正義が勝つことを願う」
と投稿。ベアボック外相の発言を厳しく批判した。
〇そもそもハマスがいたかも疑わしい
既に述べたように、国際人道法上、たとえ、ハマス構成員がガザの人口密集地や避難所となっている国連の学校にまぎれていたとしても、そこへ無差別攻撃を行うこと、ハマスもろとも、大勢の民間人を殺傷することは戦争犯罪となる。国連人権高等弁務官事務所のニューヨーク支部長であったクレイグ・モキバー氏も、上述のベルアボック外相の発言を批判するかたちで「ガザに人口密集地があり、そこにハマスと民間人が同じ地域に住んでいるからといって、それが国際法上、『人間の盾』だと言えないことは、何度も文書化されていることだ」と指摘。
また、モキバー氏は、「ハマスが人々を『人間の盾』にしているというのは、ほとんどがイスラエルがでっち上げた嘘」とも述べている。確かに、筆者の過去のガザ現地での取材経験(関連記事)から言っても、イスラエル側はそこにハマスがいるかどうかの明確な証拠もなく、雑に攻撃を行っていることが多いように思える。
そもそも、イスラエルの目的が「ハマスを掃討すること」なのかどうかも疑わしい。ハマスであろうが、民間人であろうが皆殺しにし、ガザそのものを破壊することこそが目的ではないかというのは、ネタニヤフ首相の発言や実際にイスラエル軍が行っていることからもうかがい知れるし、国連の調査報告でも指摘されていることだ。
〇日本も問われる姿勢
ロシアによるウクライナ侵攻を「力による現状変更」と批判、「法の支配」の重要さを強調する欧米諸国が、一方で、戦争犯罪を繰り返すイスラエルを擁護し、軍事支援までしていることは、国際政治において深刻な矛盾とモラルハザードを引き起こしている。それは、ガザほか中東の人々にとっても、ウクライナの人々にとっても、世界全体にとっても、極めて大きな問題だ。
日本はドイツほど露骨なイスラエル支持ではないにせよ、ロシアに対しては経済制裁を行っているのに対し、イスラエルに対しては、経済制裁を検討することすらしていない。欧米諸国の過剰なイスラエル擁護・支援は、国際社会における先進国の威信を著しく低下させ、それは覇権国家に利することになる。先の衆院選で、ガザはじめ中東危機に日本がどのように対応するかが、ほとんど争点にならず、共産党や社民党以外は公約での言及すらなかった*。
日本国憲法前文には、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」とある。欧米諸国、とりわけ米国とドイツの対中東外交が倫理的にも国際法的にも崩壊している中、日本独自のスタンスでの平和外交が求められているのではないか。
(了)
*衆院選での公約での言及はなかったものの、れいわ新選組は度々ガザ停戦を求める声明を出している。日本維新の会は2024年の政策集で「中東和平の実現に向けて貢献する」との言及あり。