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「最高」は共産党、れいわ、社民も高評価、「最低」は自民、国民―温暖化対策は暮し・経済にも重要 衆院選

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
衆院選に向け日本記者クラブで行われた党首討論(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 地球温暖化の進行により、異常な暑さや豪雨等の気象災害が多発していることは、気象庁も認めるところであり(関連情報)、状況の悪化は温暖化対策を行わなければ、ますます深刻なものとなっていくことは明白だ。

 同時に、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の悪化等で石油や天然ガス等の化石燃料が高騰する中、経済性が著しく改善されている再生可能エネルギー(太陽光や風力etc.)の活用や省エネ化の推進は、温暖化対策であるだけでなく、市民の家計や日本経済全体にとっても重要である。

 温暖化対策は個々人の努力より、むしろ、社会・経済のシステムを変えていくことが必要であり、それは国としての政策に大きく左右される。つまり、今週末の衆院選においても、温暖化対策(≒エネルギー政策)は重要な争点の一つだ。

 本稿では、温暖化対策に関する提言・アドボカシー等を行うNPO、「気候ネットワーク」が各党の政策について分析・評価したものを紹介しながら、筆者としてのコメントや解説も加えていく。

〇気候ネットワークによる各政党の政策の評価

 今回の衆院選における各党政策について、気候ネットワークが分析・評価の基準としたのは5つ。各政党の公約やマニフェスト、政策集等での以下についての記述がどの程度あるか、また、それが進歩的なものか或いは本来あるべき方向から逆行しているかどうかで採点している。

・「2030~35年の温室効果ガス削減目標の設定」

・「脱石炭火力発電の方向性」

・「水素・アンモニア燃料、CCUS」

・「再生可能エネルギーの導入と野心的目標の設定」

・「脱原発の実現」

 これらの中には、一般の読者に馴染みのないだろうものも含まれているが、わかりやすく噛み砕いた筆者の解説も加えるので、是非、参考にしていただきたい。

 結論から紹介すると、気候ネットワークによる採点で、最高評価となったのは共産党、次いでれいわ新選組で、社民党の評価も高い。立憲民主党は、やや点数が下がるが、それでも今回の比較対象の9党の中では上から4番目だ。そこからかなり点数が下がって、日本維新の会、公明党、自民党と国民民主党、参政党の5党はマイナス評価となった。なお、気候ネットワークは、この採点結果について、「政策の評価であり、特定の政党を応援するものではない」ともしている。

気候ネットワークによる各党の政策評価
気候ネットワークによる各党の政策評価

 

以下、各基準ごとの評価内容を紹介し、解説する。

〇「2030~35年の温室効果ガス削減目標の設定」

 温暖化による破局的な影響を避けるためには、世界平均気温の上昇を1.5度に抑えなくてはならないが、この「1.5度目標」を実現するためには、日本は中期目標として、温室効果ガスの排出を2013年度比で60%以上削減することが求められている。各政党の政策について、2030年或いは2035年までに、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスをどれだけ削減数値目標があるか否か、あるとすれば、それが1.5度目標に沿ったものかを、気候ネットワークはチェックした。

 各党の温室効果ガス削減の2030~35年の目標は、自民党が現行どおり「2030年46%削減」で、公明党、国民民主党、参政党は記載なし。2030年目標として、社会民主党は60%削減、れいわ新選組は70%削減を掲げている。日本共産党は50~60%削減(2010年度比)で、さらに同党が2035年の目標として「2010年比73~78%減」を設定している点を気候ネットワークは評価している。

【筆者コメント】自民党は2030年での温室効果ガス削減目標を掲げているものの、その実現性については疑わしい。政府は第6次エネルギー基本計画に沿って、電源構成に占める原発の割合を、直近の5%強(2022年統計)から、2030年に20~22%に引き上げることにより、CO2排出を削減するとしているが、各自治体及び住民の同意を得られるのかは定かではない上、2030年には稼働開始から40年を超える老朽原発が15基となる。これらの老朽原発を稼働させ続けることのリスクは、地震大国の日本において決して小さくはないだろう。そもそも政府及び自民党の削減目標が不十分なものなのであるが、その削減目標すら、原発に依存せず再生可能エネルギーにより注力していかない限り、実現するのは難しいのではないか。

〇「脱石炭火力発電の方向性」

 石炭火力発電は、火力発電の中でも、特にCO2を大量排出するため、真っ先に廃止していかなくてはならない。実際、日本を除くG7各国では段階的廃止が進み、今年9月30日にはイギリスで石炭火力発電が全廃された。気候ネットワークは、今年6月のG7首脳会議の合意文書で、CO2排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の段階的に廃止について、「2030年代前半」との期限が記されたこと、日本もこれに合意していることに着目。各政党が石炭火力発電の廃止に期限を設けているかをチェックした。

 各党の政策について、気候ネットワークは「自由民主党、公明党だけでなく、野党第一党の立憲民主党にも脱石炭の記載はなかった」と指摘。また、共産党、れいわ新選組、社民党が、いずれも「2030年に石炭火力を全廃」としていることを評価した。

【筆者コメント】気候ネットワークも指摘しているように、現行の政府方針である「火力発電の次世代化・高効率化を推進する」というのは、火力発電、とりわけ石炭火力発電の延命であり、温暖化対策に逆行するものだ。石炭火力発電は次世代型や高効率型であっても、天然ガス火力発電の約2倍のCO2を排出するため、やはり廃止一択である。

〇「水素・アンモニア燃料、CCUS」

 政府方針は、燃焼時にCO2を排出しない水素やアンモニアを火力発電等で混焼し、火力発電からのCO2排出を減少させ、「ゼロエミッション火力」を推進するとしている。また、CCUSとは、「二酸化炭素回収・有効利用・貯留」の技術のことであり、発電所等から排出されたCO2を集め地中深くに貯留したり、利用したりするものだ。ただし、気候ネットワークは、「これらは実用化には程遠く、石炭火力の延命策にすぎない」と指摘している。

 各党政策については、共産党が「アンモニア混焼やCCSに合理性がない」としていること、立憲民主党や、れいわ新選組については、再生可能エネルギーによって生産されるグリーン水素を活用するとしている点に着目している。

【筆者コメント】政府や電力会社大手等が主張する「ゼロエミッション火力」、つまり「CO2を排出しない火力発電」は、その実現可能性やコスト等を度外視した言説で、もはや詐欺と言えるのではないか。他方、航空機や船舶等の電化が難しいものに、グリーン水素を燃料として活用することは重要である。

〇「再生可能エネルギーの導入と野心的目標の設定」

 発電時にCO2を排出しない太陽光や風力等の再生可能エネルギーをいかに増やすかは、温暖化対策で最も重要だと言える。気候ネットワークは「環境省は、日本の再生可能エネルギーの発電ポテンシャルは、最大で現在の電力需要の7倍と示しており、第6次エネ基の目標を上回る目標設定が求められる」として、再生可能エネルギーの普及拡大を促している。各政党の政策では、自民党と公明党について「再エネの最大限導入を掲げたが、具体的な数値目標は示さなかった」と指摘。また、共産党が「2035年の再エネ導入目標80%」、れいわ新選組が「2030年までにエネルギー供給の70%、2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す」、社民党が「2030年50%、2050年100%」と高い目標を設定していることに着目している。

【筆者コメント】温暖化対策で最も重要な再生可能エネルギーへの転換について、自民党と公明党が数値目標を示していないのは、政権与党として、あまりに無責任である。また、国民民主党は、「再エネ賦課金の徴収停止による電気代負担軽減」を公約にしているが、そもそも、昨今の電気料金値上げは、世界的な化石燃料の高騰や、円安で化石燃料を海外から輸入する上でコストが増大しているからであり、「再エネ叩き」は経済的にも合理性がない。

 また、農地と共存するかたちで太陽光発電を行うソーラーシェアリングは、農家の収入が増え、食料自給率の向上や地方活性化につながることが期待できる。立憲民主党は再エネ導入目標自体は「2030年に50%」と、共産党やれいわ新選組、社民等に比べると見劣りするが、ソーラーシェアリングを推進するとしている点は評価できる。

〇「脱原発の実現」

 気候ネットワークは、全体的に各政党の政策で脱原発が後退したことを指摘(共産、れいわ、社民は除く)。とりわけ、自民党や維新が原発を活用するということや、国民民主党が原発の建て替えや新増設を推進することを、問題視している。

【筆者コメント】原発の活用が温暖化対策となるというのは誤りである。原発に比べ再生可能エネルギーは設備容量を増やすスピード圧倒的に速い。世界の再生可能エネルギーの設備容量は、昨年1年間だけで473ギガワットも増えた。平均的な原発の設備容量は約1ギガワットだが、1年間で原発を473基も増やすのは不可能だ。温暖化対策は時間とのたたかいであり、原発にかける資金があるなら、再生可能エネルギーや関連のインフラ(受給バランス調整のための大規模蓄電施設等)に使った方が合理的だ。 

 また、原発はベースロード電源とされているため、現状では優先的に電力網につながれている一方で、太陽光は天気の良い日中など発電しすぎた場合、電力需給のバランスを取るために、一時的な発電停止を求められる「出力制御」が繰り返されており、再生可能エネルギーの普及に逆行しているという問題がある。したがって、急速に設備容量を増やすことが難しい原発への依存を減らし、過剰に発電した場合や逆に発電量が不足した場合に、大規模蓄電施設や各家庭・事業所の電気自動車のバッテリーを活用するなど、再生可能エネルギーを中心した電力需給システムにしていくことが必要なのだ。

出力制御のイメージ 資源エネルギー庁のウェブサイトより
出力制御のイメージ 資源エネルギー庁のウェブサイトより

〇まとめ

 今回の各政党の政策に関して気候ネットワークは、「残念ながら公約で主要政策として上げている政党はほとんどなかった」と、政治における温暖化対策への熱量の低さを指摘しており、それは筆者も同感だ。地球温暖化にどのように対応するかは、正しく人類の存亡を左右しかねない重大なテーマであることは大前提として、新たな産業や雇用をつくり国際競争力を高める、地方の人口流出や食料自給率の低下などへの歯止めにもなり得る等、日本が抱える諸問題に対する総合的な政策でもある。それを政治家達が理解し、取り組んでいくことが必要だろうし、メディア関係者もそうした理解のもとで報道を行うこと、有権者も自身の判断の材料としていくことが必要だろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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