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女川原発再稼働、時代錯誤の日本のエネルギー政策

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
宮城県・女川原発(写真:ロイター/アフロ)

 東日本大震災で被災した東北電力の女川原発2号機が、今月29日に再稼働した。2011年の福島第一原発事故から、13年余りが経つのにもかかわらず、また世界のエネルギーをめぐる状況が大きく変わっているにもかかわらず、今なお原発にすがる日本のエネルギー政策は甚だ時代錯誤だ。女川原発の問題点や原発自体が日本のエネルギー革命の足を引っ張っていること、真に日本が取り組むべきエネルギー政策について、解説する。

〇女川原発、再稼働の問題点

 女川原発は宮城県牡鹿郡女川町と石巻市にまたがって立地している原発で、1号機は2018年12月に廃炉となり、現在は2号機と3号機がある。今回、再稼働した2号機は、1995年に稼働を開始したもので、福島第一原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)を持つ。東日本大震災では、押し寄せた津波によって、2号機の原子炉建屋地下3階に海水が流入し、約2.5メートルまで浸水。その量は約1500立方メートルに達したという。その際、発電機などを冷却する「熱交換器」が海水につかったため、非常用ディーゼル発電機2機が使用不能に陥り、原子炉冷却ができなくなる一歩手前にまでなったのだという(関連情報)。

 東北電力は、女川原発2号機の再稼働にあたり、防潮堤の工事や防火帯の設置など多様な安全対策を実施したとしているが、地元の人々には再稼働への根強い抵抗感がある。今年9月、都内で催された反原発集会で登壇した市民団体「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」のたたら哲さんは、「女川原発は、 3.11大震災など過去3度も基準値震度を上回る激しい揺れに襲われた被災原発だ」と指摘。「その都度修理され、耐震補強が行われ、今は基準値震度1000ガルまで 耐えられるという話になっているんですが、その保証は全くありません。さらに女川原発の敷地に1000ガルを超える地震が来ない保証も全くないわけです」と訴えた。

集会でスピーチを行う多々良さん(写真中央) 筆者撮影
集会でスピーチを行う多々良さん(写真中央) 筆者撮影

 女川原発の補強工事や耐震設計については、NPO法人「原子力資料情報室」も不安視する声明を発表している。

「女川原発は東日本大震災(東北太平洋沖地震)で、もっとも大きな地震の揺れに襲われた原子力発電所であることを思い出そう。ギリギリのところで大きな津波の直撃による原発全体の大破は逃れることができたが、地下水路を逆流してきた海水によって非常用ディーゼル発電機が動かなくなるなど、大きなダメージを受けた。2号炉の原子炉建屋のコンクリート壁には1000箇所以上の亀裂が発生して大幅な強度低下が起きており、今後起きるかもしれない大地震に対して十分な強度を持つように補修工事がなされているかどうか疑問である」

「耐震安全上の対策にも問題がある。原発に到達する地震の揺れの大きさを十分きびしく想定出来ておらず、原発の機器の評価が甘くなってしまっている可能性がある。2024年能登半島地震では、志賀原発で記録された揺れの大きさは、電力会社による事前の見積もり計算の2倍以上となっており、計算手法に問題のある可能性が高い。東北電力もほぼ同じ手法で女川2号炉の揺れ(基準地震動)の見積もりをおこなっているため、やはり過小な見積もりにとどまってしまっている可能性がある。せっかく女川2号炉で進められていた格納容器の下部のサプレッションプールの耐震強化工事も、揺れの見積もりの誤りから、想定されている規模の地震にすら耐えられない、ということがおこりうる」

 また、上述の「女川原発再稼働を許さない!みやぎアクション」は「原発問題住民運動宮城県連絡センター」、「さようなら原発みやぎ実行委員会」との連名での抗議声明の中で、以下のように指摘している。

 「女川原発は、福島第一原発と同じBWRマークⅠという、極めて古い型の沸騰水型原発である。マークⅠは格納容器が小さく、過酷事故に耐えられない欠陥炉だと、従来から指摘されていた。そもそも、福島原発事故の原因が完全には究明されていないのに同じ型の原発を動かしていいのか?という根本的な疑問に誰も答えていない」 

 「今年元日の能登半島地震は、半島部にある原発の地理的リスクを突きつけた。半島部で原発複合災害が起これば、避難もできないし屋内退避も出来ないことが、誰の目にも明らかになった。牡鹿半島にある女川原発も同じリスクを抱えるが、避難計画の見直しは行われていない」

 とりわけ、避難計画が十分なものでないままで再稼働を強行することは大きな問題であろう。避難計画の問題点については、「原子力規制を監視する市民の会」、「国際環境NGO FoE Japan」が連名の声明の中で以下のように指摘している。

「特に問題となるのが原発から5km圏(PAZ)である。5km圏の住民は、屋内退避をしても、安定ヨウ素剤を摂取しても、1週間で100ミリシーベルトという国際原子力機関の非常に緩い判断基準ですら超える恐れがある。このため、原子力災害対策指針においては、原発事故により放射性物質が拡散される前に避難することになっている。避難が困難な人については、『放射線防護施設』に退避することになっている。

 女川原発の場合、原発から5km圏に、女川町に450人ほど、石巻市に490人ほどの住民が居住する。県道41号線が避難道路だが、5km圏では代替の道路はなく、避難できなくなることが懸念される。

 原発から太平洋側に伸びる小さい半島の先にある寄磯浜地区の住民は約200人だが、一旦原発がある方向に向かわないと避難できない。津波の避難場所でもある寄磯小学校の一部が 『放射線防護施設』となっているが、収容人数は70人で、全住民を収容することはできない。

 同じく5km圏にある泊浜地区の住民は約80人。同地区は県道からの脇道で山道を行ったところにあり、孤立する可能性が高い。避難所の泊コミュニティセンターが『放射線防護施設』にもなっているが、放射性物質の屋内への侵入を防ぐための装置が機能するのかという問題がある。能登半島地震では、20ある放射線防護施設のうち、3施設で倒壊のおそれなどで施設としても使用できなかった。放射性物質の侵入を防ぐ装置については、3施設で起動不可などとなっている。

 このように女川原発の避難計画は、能登半島地震の経験や教訓を踏まえたものではなく、実効性はない。住民を守るものとはなっていない」

〇原発依存は割高になる

 東北電力のみならず、日本の大手電力各社は原発再稼働を目指しているし、先の参院選における公約でも、自民党や国民民主党は原発を推進していく姿勢が顕著だ。福島第一原発の事故の衝撃が年月と共に薄れていることに加え、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエル絡みの中東情勢の悪化による石油や天然ガス、石炭等の化石燃料の高騰が、原発推進の口実となっている。また、火力発電所からのCO2排出を削減するため原発を活用していこうという詭弁もこの間、繰り返し語られてきた。しかし、原発による電気は安価なものではないし、地球温暖化対策としても、あまり有効ではなく、むしろ弊害の方が大きい。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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