いったい多摩川で何が起きているのか?人間の都合で棄てられた猫たち、その命をつなぐ行為
いまYoutubeなどをみると、犬や猫といったペットのかわいい映像があふれている。
以前はペットの殺処分が問題になっていたが、近年は、「殺処分ゼロ」を掲げる自治体も確実に増えている。
一見すると、ペットをめぐる状況は以前に比べると好転しているかに思える。
ただ、現実はいったいどうなのだろうか?
そんなことをふと考えてしまう厳しい現実を突きつけられるのが、本作「たまねこ、たまびと」だ。
多摩川の干潟を舞台にしたドキュメンタリー映画『東京干潟』『蟹の惑星』が高い評価を受けた村上浩康監督が再び多摩川にカメラを向けた本作は、人間の都合で捨てられた猫たちとその小さな命を守ろうと奔走する人々をみつめる。
多摩川で起きている「いのち」の問題とは?2年間にわたって取材した村上監督に訊く。(全五回)
多摩川にはものすごい数の捨て猫がいる現実を前に
前回(第三回はこちら)、小西さんに同行して、その活動のすごさに気づいたと語った村上監督。
村上監督自身、それまで多摩川に撮影で足繁く通っていたわけだが、小西さんとの時間ではこれまでまったく見えていなかった多摩川の世界が広がっていったという。
「まず、猫の多さに驚きました。
それまで猫をみかけたことはありましたけど、小西さんと回ってみると、こんなにいるのかというぐらい猫がいる。そして、すべて捨て猫なんですよね。
で、多くの場合、ホームレスの方が、捨て猫の世話をしているんです。だいたいどの方も1匹か2匹は面倒をみていて、ものすごくかわいがっているんです。
もう家族のように大事にしている。
それはもしかしたら、自身の孤独を紛らわすためかもしれない。
でも、僕はそれだけとは思えなくて。猫の世話をすることが、ホームレスの方々の心の支えになっているというか。『こいつのために稼がない』といった意識があるんです。
だから、ものすごく猫ファースト。自分のごはんより優先して猫のエサを買っていたりする。使命感をもって猫の世話をしている。
多摩川でこんな命をつなぐ行為があることにまず驚きました」
多摩川では、猫も人も出会いも別れも突然
確かに作品もみていても、猫の命の重さをきちんと受けとめているホームレスの方々の姿は印象に残る。
「多摩川って当たり前ですけど、野外なんです。
猫が生きていくにはかなり厳しい環境で。この2年間の撮影の中でも、この映画の中に出てくる猫も随分亡くなっているんです。
そして、実は人も亡くなっています。
映画にも出てくださっているニコという猫の飼い主さんも少し前に、突然お亡くなりになりました。
それまで悪い兆候とか、僕らは感じていなかった。
ほんとうに突然亡くなられて、小西さんもその死に目には会えなかった。
小西さんは20年ぐらいの付き合いがあったそうなのですが、亡くなった話も人づてに聞いて知ったんですね。
小西さんは『多摩川では、猫も人も出会いも別れも突然なんだ』といつもおっしゃっている。
多摩川のすぐそばに住んでいても、おそらくそこまで厳しい環境であることは気づかないんじゃないかと思います。
たぶん猫を多摩川に捨てる人もそれほど厳しい環境とは思っていない。都会の街に捨てるよりも、自然の中に捨てたほうがいいだろうと思っているかもしれない。
でも、映画をみてもらえたらわかるように、猫は野生動物ではないから、自然の中に放り込まれても生きられない。
小西さんも言ってますけど、猫は活動範囲が意外と狭い。そのテリトリーに生き物がいれば野生の本能で捕って食べたりしますけど、そんな生き物などすぐいなくなって、エサがみつからなくなる。
それから野生の生き物は病源菌の塊ですから、食べても病気になる可能性が高い。
そして、多摩川は夏はものすごく暑い。猫では歩けなくなるぐらい河原の石が熱くなる。
逆に冬は氷が張るぐらい寒くなる。
なかなか想像できないですけど、サバイバルを強いられる厳しい環境なんです。
だから、ホームレスの方たちは、そういう猫や人の死を幾度となく経験していて、命の尊さを身をもってわかっている気がします。
なので、人の命も、動物の命も等しくて違いはない。同じように思いやりをもって接している。
動物だからといって粗雑に扱ったり絶対しない。
動物と人間が共存していて、生と死がすぐそばにある。
こんな世界が多摩川に広がっていることにも驚かされました」
(※第五回に続く)
「たまねこ、たまびと」
監督・撮影・編集・製作:村上浩康
全国順次公開中
公式サイト https://tamaneko-tamabito.com/
写真はすべて(C)EIGA no MURA