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いったい多摩川で何が起きているのか?人間に捨てられ虐待される猫たちの命と向き合う写真家と出会って

水上賢治映画ライター
「たまねこ、たまびと」より

 いまYoutubeなどの動画配信をみると、犬や猫といったペットのかわいい映像があふれている。

 以前はペットの殺処分が問題になっていたが、近年は、「殺処分ゼロ」を掲げる自治体も確実に増えている。

 一見すると、犬や猫などのペットをめぐる状況は以前に比べると好転しているかに思える。

 ただ、現実はいったいどうなのだろうか?

 そんなことをふと考えてしまう厳しい現実を突きつけられるのが、本作「たまねこ、たまびと」だ。

 多摩川の干潟を舞台にしたドキュメンタリー映画『東京干潟』『蟹の惑星』が高い評価を受けた村上浩康監督が再び多摩川にカメラを向けた本作は、人間の都合で捨てられた猫たちとその小さな命を守ろうと奔走する人々をみつめる。

 多摩川で起きている「いのち」の問題とは?2年間にわたって取材した村上監督に訊く。(全五回)

猫への虐待がある事実を伝える写真展の衝撃

 前回(第一回はこちら)は、今回の「たまねこ、たまびと」の主人公となる写真家の小西さんとの出会いの話で終えた。

 写真家の小西修さんは1990年代から多摩川の猫たちを日々救護しながら、カメラに収めている。

 そこで村上監督は、小西さんと出会ったことはもとより、小西さんが開いていた多摩川の捨て猫を写した写真展に衝撃を受けたとのこと。

 どのようなところに衝撃を受けたのだろうか?

「小西さんの活動を追ったNHKのドキュメンタリーをみていたと話しましたけど、その中では、猫の虐待についてはメインには描かれていなかった。

 ただ、その写真展は、こういった猫への虐待がある事実をみなさんに知ってほしいという小西さんの思いが前面に出されたもので。

 虐待や災害で亡くなった猫の生前の写真が並んでいて、写真の下に小西さんが言葉を寄せられていた。

 そこにこの猫がどういう運命をたどったのかが書かれていたんです。

 それを読んでものすごく衝撃を受けました。『こんなことが多摩川で起きているのか、猫がこんなひどい目に遭っているのか』と」

「たまねこ、たまびと」
「たまねこ、たまびと」

小西さんと交流する機会が増えたものの……

 このときから小西さんに興味を持ち始めたという。

「小西さんの写真展を見たときは、まだ『東京干潟』と『蟹の惑星』の撮影中で。作品もまだ完成していませんでした。

 その後、完成して劇場公開を迎えたんですけど、『東京干潟』では、おじいさんが猫への虐待について話しているところがある。

 そういうこともあったので、小西さんにトークゲストに来ていただきました。そして、そのときに劇場のロビーで猫の写真展をやっていただいたんです。

 そんなこともあって小西さんと交流する機会が増えて、と同時に僕と小西さんの共通の知り合いもすごく増えまして。

 『東京干潟』のおじいさんに『次は小西さんを撮るんだろう』と言われたり、ほかの知り合いから『次は小西さんを撮ってください』と薦められる。

 中には『小西さんを撮るべきだ』と強く望む方もいらっしゃいました(苦笑)。

 ただ、当時の僕としては『そういわれても』といった感じでした」

当初はあまり小西さんを映画にということは考えていなかったです

 その言葉通り、当時は、小西さんを撮影することは考えていなかったという。

「小西さんの長年にわたる活動をNHKのドキュメンタリーを通して知ったときも圧倒されました。『こんな活動をしている人がいるのか』と。

 それから幸運にも小西さんと知り合うことができて、こちらも興味があるので、その都度、いろいろとお話をお聞きする。

 すると、テレビでみたよりもさらに活動のすごさがリアルに実感を伴ってこちらに伝わってくる。『これはそう簡単にできることではないぞ』と。

 だから、僕としてはおいそれと手を出せないというか。

 小西さんの30年にわたる活動の全貌をひとつの作品にまとめることなんて到底できないと思いました。

 小西さんの活動にちょっとの期間、同行したぐらいではなにも描けないし、長期間にわたって取材したとしても小西さんの活動を映し出すことができるのか自信がない。

 あと、小西さんは雨の日であっても多摩川に出向いて救護活動をしていて、映画で映されているように自転車で移動されながら各所をまわっている。

 小西さんの活動拠点はほんとうに多摩川の上流から下流までで。しかも、両岸。だから、その日いくポイントを決めていくんですけど、それでも自転車で何十キロも移動することも珍しくなければ、徒歩でも何十キロと歩くことも珍しくない。

 その毎日を追うというのは、かなりハードな撮影になることは容易に想像がつく。

 僕もいい年齢なので、ちょっと体力的にももたないのではないかと(笑)。

 カメラと三脚を持って、しかも、雨の日も風の日も雪の日もとなると、果たしてついていけるのかなと思いました。

 だから、ほんとうに当初はあまり小西さんを映画にということは考えていなかったです」

(※第三回に続く)

【村上浩康監督インタビュー第一回はこちら】

「たまねこ、たまびと」ポスタービジュアルより
「たまねこ、たまびと」ポスタービジュアルより

「たまねこ、たまびと」

監督・撮影・編集・製作:村上浩康

ポレポレ東中野にて公開中、以後、全国順次公開

公式サイト https://tamaneko-tamabito.com/

写真はすべて(C)EIGA no MURA

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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