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国際観艦式2022で気付いた3つのポイント

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
国際観艦式で航行する護衛艦「ひゅうが」(防衛省海上自衛隊の公式ツイッターより)

海上自衛隊の創設70周年を記念した「国際観艦式2022」が6日、神奈川県沖の相模湾で開かれた。午前7時から午後5時半までほぼ丸半日の取材を通じて、筆者が気付いた3つのポイントを記したい。海自の一大イベントが無事成功裡に終わり、大変喜ばしいことではあるが、拙稿最後部分であえて1つ苦言を呈したい。

●そもそも国際観艦式とは

軍事に詳しくない読者のために、まず観艦式とは何かについて簡単に触れたい。観艦式とは自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣が実際に部隊を観閲、すなわち見ることによって隊員の使命の自覚と士気を高めるもの。自衛隊では、陸海空の各部隊が概ね3年に一度、それぞれ持ち回りで観閲式、観艦式、航空観閲式を実施している。

「国際」と銘を打つ国際観艦式は、3年に一度行っている通常の観艦式よりも規模が大きく、「西太平洋海軍シンポジウム」という会合に合わせて、30の加盟国が各国持ち回りで開催している。日本の主催は、海自創設50周年を記念して2002年に初めて実施した前回に続き、実に20年ぶり2回目となる。海自の参加艦艇数は20隻、航空機は陸海空合わせて27機、海外からは米国をはじめ12カ国の艦艇18隻と2カ国の6機が参加した。後述するが、この参加国や参加艦艇の内容が注目される。

●艦隊部隊の編成

今回の国際観艦式は無観客で実施されたため、より詳しい式典の内容を知りたい読者も多いようだ。ちなみに、艦艇部隊の編成は以下のようになっていた。筆者はこのうち、岸田首相が乗艦した「いずも」に同乗し、取材した。

観閲部隊(4隻)しらぬい、いずも、ひゅうが、たかなみ

受閲艦艇部隊(12隻)

 旗艦  あさひ

 第1群 あたご、もがみ、くまの

 第2群 しまかぜ

 第3群 おうみ

 第4群 くにさき、ぶんご、あわじ

 第5群 たいげい、せいりゅう、うずしお

祝賀航行部隊(外国艦艇パートナーシップ・フォーメーション)

 第6群 あしがら、豪ホバート、豪アルンタ、豪スタルワート、豪ファーンコム、ブルネイ・ダルエーサン、加バンクーバー、加ウィニペグ

 第7群 せとぎり、印シュバリク、印カモルタ、インドネシア・ディポネゴロ、マレーシア・クランタン、ニュージーランド・アオテアロア

 第8群 せんだい、パキスタン・シャムシール、パキスタン・ナスル、韓国・ソヤン、シンガポール・フォーミダブル、タイ・プミポン・アドゥンヤデート、米チャンセラーズビル

 第9群 海保PLいず

海上幕僚監部広報室の6日夜の追加発表によると、近傍にいた試験艦あすかも参加した。海自関係者によると、あすかは米原子力空母「ロナルド・レーガン」を先導していた。

国際観艦式には海自の最新型護衛艦「もがみ型」1番艦「もがみ」と2番艦「くまの」も参加した。

国際観艦式2022で受閲艦艇部隊の1隻として航行する海上自衛隊の新型護衛艦「もがみ」(高橋浩祐撮影)
国際観艦式2022で受閲艦艇部隊の1隻として航行する海上自衛隊の新型護衛艦「もがみ」(高橋浩祐撮影)

潜水艦はたいげい、せいりゅう、うずしおの3隻が参加した。

国際観艦式2022で受閲艦艇部隊の1隻として航行する海上自衛隊の最新型潜水艦たいげい。左奥に見えるのは米原子力空母のロナルド・レーガン(高橋浩祐撮影)
国際観艦式2022で受閲艦艇部隊の1隻として航行する海上自衛隊の最新型潜水艦たいげい。左奥に見えるのは米原子力空母のロナルド・レーガン(高橋浩祐撮影)

●豪州やカナダなどライク・マインデッドな国々の参加

筆者が気づいた点の1つ目として、前述の外国艦艇の祝賀航行を見ていて、日本とライク・マインデッド(Like-Minded)、つまり同じ意見や価値観を有する西欧型民主主義の国々からの参加がずしりと重く感じられたことだ。特にオーストラリアだ。海外からの艦艇18隻のうち、実に4隻を占めた。岸田首相とアルバニージー豪首相が先月22日、中国を念頭に2007年以来となる新たな安保共同宣言に署名し、「準同盟」と言われるほど関係を深化させてきたことがうかがえる。同じ太平洋国であるカナダも2隻を派遣した。旭日旗を問題視してきた韓国も結局、参加を決断した。その一方、海自はウクライナ戦争を起こしたロシアを招待せず、中国は自ら参加しなかった。

国際観艦式2022参加国リスト(TwitterアカウントのLIFE GUARDさん作成、提供)
国際観艦式2022参加国リスト(TwitterアカウントのLIFE GUARDさん作成、提供)

興味深いのがパキスタンが2隻も参加させたことだ。インドとのライバル意識を燃やすパキスタンは、「インドが日本に2隻を派遣するなら我も」と同数を参加させたとみられる。

護衛艦いずもの艦橋の前で説明を受ける大勢の取材陣。筆者のような海外メディアも多数、国際観艦式2022を取材した(高橋浩祐撮影)
護衛艦いずもの艦橋の前で説明を受ける大勢の取材陣。筆者のような海外メディアも多数、国際観艦式2022を取材した(高橋浩祐撮影)

●英仏独など欧州勢の存在感の無さ

筆者が気づいた点の2つ目として、本来ならもっと多くの艦艇を派遣しても良いはずの欧州勢の存在感の無さだ。英海軍の艦艇も参加する予定だったが、フィリピンでのサイクロン(温帯性低気圧)の影響で直前キャンセルとなった。シンガポールやマレーシア、インドネシア、ブルネイなど数多くの東南アジア諸国が参加する一方で、英国は最悪事態を想定できずに立ち往生してしまった。日英関係を重要視するならば、スペア時間をたっぷりとって日本にぜひ向かって欲しかった。

フランスは、インド洋のレユニオン、南太平洋のポリネシアやニューカレドニアなどに海外領土を有し、「自国はインド太平洋国家だ」と宣言してきた。しかし、同国海軍の哨戒機ファルコン200を祝賀飛行に参加させただけで、艦艇自体の派遣はなかった。そもそも同哨戒機は国際観艦式参加よりも、北朝鮮の瀬取り監視任務で米軍普天間飛行場に派遣中だった。このほか、ドイツも艦艇や航空機の派遣をしなかった。オランダなどの他の欧州勢の参加もなかった。このため、厳しい見方をすれば、欧州勢の参加は事実上、ゼロと言えなくもない。

国際観艦式2022で編隊連携機動飛行を披露した航空自衛隊のブルーインパルス(高橋浩祐撮影)
国際観艦式2022で編隊連携機動飛行を披露した航空自衛隊のブルーインパルス(高橋浩祐撮影)

●「米空母はたまたま付近を航行中」という不自然さ

筆者が気づいた点の3つ目のポイントとしては、米空母ロナルド・レーガンの存在感の大きさだ。岸田首相は6日、相模湾での国際観艦式に出席後、付近を航行中のロナルド・レーガンにヘリコプターで移動して乗艦した。筆者は「いずも」の艦橋付近から観艦式を取材中、ロナルド・レーガンが長時間にわたっていずもに併走したり、遠巻きにして航行している様子をカメラに収め続けた。というより、前述の受閲艦艇部隊や祝賀航行部隊を撮影していると、自然とロナルド・レーガンがカメラのフレームに入ってしまうほどだった。ロナルド・レーガンは事実上、観艦式に参加していた。

しかしながら、海幕の公式見解は「ロナルド・レーガンはたまたま付近を航行していただけ」「単なる偶然」とのことだった。

「国際観艦式2022」実施中に付近を航行する米原子力空母「ロナルド・レーガン」。飛行甲板には数多くの艦載機が見える(高橋浩祐撮影)
「国際観艦式2022」実施中に付近を航行する米原子力空母「ロナルド・レーガン」。飛行甲板には数多くの艦載機が見える(高橋浩祐撮影)

実は安倍元首相も2015年の観艦式の折、ロナルド・レーガンに降り立った。岸田首相は安倍元首相に倣い、米空母乗艦で日米同盟の強さを示したかったに違いない。しかし、国際観艦式は本来、多くの国々との幅の広い国際親善を深めることも大きな目的の1つだ。日米軍事同盟をあまりに強調しすぎないためにも、「偶然」を装っているとみられるが、それも無理があると思わざるを得なかった。そもそも観艦式は、自衛隊に対する国民の理解と信頼を深めることも大きな目的にしているはず。政治的判断をしている政府・防衛省は、日本国民には誠実に、そして正直に説明すべきだろう。

国際観艦式2022終了後、ライトアップされた護衛艦いずも(高橋浩祐撮影)
国際観艦式2022終了後、ライトアップされた護衛艦いずも(高橋浩祐撮影)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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