【解説】子ども国会がはじまる!与党・立憲民主・維新の子ども法案比較 #子どもの権利 #こども家庭庁
いよいよ、子どもたちのための国会がはじまります!
驚くことに、今期の国会では、与党(自由民主党・公明党)、立憲民主党、日本維新の会の3党が、子どもの権利と子ども政策の省庁に関する法案を提出しています。
4月19日から、衆議院で審議開始されます。
複数の主要政党が、子どもの権利や、子ども政策、子ども政策を所管する省庁の議論を真剣に競う、という事態は戦後国会においてもかつてないことです。
歴史的な子ども国会ということができるでしょう。
この記事では、与党・立憲民主・維新の子ども法案比較を、以下の視点から実施していきます。
1.各党法案の位置づけ
2.各党法案の子どものための省庁・政策等の特徴
3.各党法案の子どもの権利に関する規定の特徴
1.各党法案の位置づけ
今回、与党(自由民主党・公明党)は2つの法案を提出しています。
議員立法であるこども基本法案と、内閣提出法案(閣法)であるこども家庭庁設置法案です。
立憲民主党の提出した、子ども総合基本法案(子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案)は、こどもの権利と、子ども省(子ども政策を所管する省庁)の双方に関する規定が盛り込まれています。
日本維新の会の提出した、子ども育成基本法案は、こども家庭庁への対案法案という色彩が強く、教育子ども福祉省を設置することが主要な内容になっています。
いっぽうで、子どもの権利に関する規定も盛り込まれており、子どもの権利を重視する視点は、今回のこども国会に提出された各党法案のすべてに共通するものと言えます。
図1にそれぞれの法案の位置づけをイメージ図にしました。
2.各党法案の子どものための省庁・政策等の特徴
さて、与党のこども家庭庁に対し、立憲民主党の子ども省、日本維新の会の教育子ども福祉省の特徴はどのようなものでしょう?
図2はその特徴を比較したものです。
端的にいうと、内閣府・厚生労働省・文部科学省にまたがっている子育て支援・教育・福祉・少子化対策等をすべて一元化しようとするのが、立憲民主党の子ども省と日本維新の会の教育子ども福祉省の特徴といえます。
立憲民主党の子ども省は、子どものための政策とともに子育て、教育、福祉、保健、医療、雇用、少子化対策までカバーしようとする、もっともインクルーシブな組織構想を打ち出している点が特徴的です。
日本維新の会は、結党以来、教育の無償化や教育の質の向上を重視してきただけに、「子どもの教育を基軸とし」さらに「子どもの福祉」も一体的に実施するという構想に特徴があるといえるでしょう。
これに対し、岸田内閣が提出したこども家庭庁は、こども政策の司令塔機能を担い、内閣府・厚労省にあった子育て支援・少子化対策、子どもの貧困対策、若者政策などの部局の再編が中心です。
文部科学省はその一部が移管されるにすぎないという否定的評価も可能です。
いっぽうで、こども家庭庁では性犯罪者から子どもを守る日本版DBSや、子どもの貧困・虐待の早期発見と支援のためのデータ連携などの「ゼロを1にする」新規のこども政策が実現される予定であり、文部科学省が一元化されないからダメ、というような批判にとどまるなら、浅薄というものだと考えます。
※末冨芳,【解説】こども庁、ここがすごい!幼保一元化よりすごい「ゼロを1にする」こども政策 #なくそう子育て罰(2021年12月12日)
各党法案の共通点は、子どもの年齢規定がなく、出生直後・乳幼児期から若者期に至るまで「切れ目のない支援」が可能となることです。
人員不足や専門性の不足のため、虐待被害者が高校生になって18歳成年に近づけば簡単に支援を打ち切られ、切り捨てられる現在の児童相談所の改善などは、どの政党の法案でも期待できるものです。
財政措置/予算の確保については、立憲民主党子ども総合基本法がGDP比3%以上の子どものための予算を確保することを明記している点が特徴的です。
とはいえ与党案・日本維新の会子ども育成基本法でも財政措置の必要性は明記されています。
子ども政策の充実のためには、財源拡充・予算増額は必須であり、国会論戦を通じて、具体的な財源や対GDP比予算の数値目標だけでなく、予算を子どもたちのためにどう使うのか、掘り下げられていくことが期待されます。
なおこれまで大手報道各社が、やたらと報道して関係者の対立を煽ってきた、子どもの権利・利益擁護のための組織・機関(いわゆるこどもコミッショナー)についての規定もまとめました。
与党案ではこども家庭庁こども家庭審議会を、立憲民主党案では子どもの権利擁護委員会を内閣府の外局(三条委員会方式)として設置することにしている点が特徴的です。
これに対し日本維新の会は、こどもの権利擁護に関する規定はありません。
しかし、教育子ども福祉省において、悪質ないじめ(生徒間犯罪)、いじめ隠蔽、児童虐待問題などの深刻な子どもの人権侵害から、どのように子どもの人権・尊厳を守るのかについての政策提案も期待されます。
文通費問題に象徴的なように、具体的かつ鋭い改革をリードしてきた日本維新の会の切り込みがあると、子どもたちを守る仕組みの実効性があがるのではないでしょうか。
3.各党法案の子どもの権利に関する規定の特徴
図3に各党法案の子どもの権利に関する規定の特徴をまとめました。
子どもの権利に関する規定については、各党法案ともに、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)の4つの一般原則(生命、生存及び発達に対する権利、子どもの最善の利益、意見表明権、差別の禁止)はしっかりと盛り込まれています。
与野党ともに、子どもの権利を基盤とし、子どものための政策を充実していこうという共通の姿勢があることは、この国の子どもたちのためにも、とても大切なことです。
日本維新の会のみ、児童の権利条約が法案に規定されていませんが、法案の位置づけがこども家庭庁設置法案への対案としての色彩が強い点に由来するでしょう。
しかし「子どもはそれぞれが異なる個性を持つ多様な存在である」という規定を置いており、子どもたち一人ひとりの個性が尊重されることを重視している点が特徴的です。
与党案については、大きな大きな意義もある一方で、家庭の重視や教育基本法の明記など、関係者が心配する論点があることはすでに指摘した通りです。
※末冨芳,こども基本法、法案国会提出!30年越しで実現される子どもの権利の国内法の大きな大きな意義とは!?(2022年4月8日)
いっぽうで、愛される権利や社会的活動に関する参画の機会が確保されることなど、与党案でも子どもの人権・権利の実現について、独自に重要な規定が行われているなど、評価されるべき点があることを忘れるべきではありません。
立憲民主党案では、学校等での子どもの意見表明、意見反映の努力義務に関する規定もあり、校則による人権侵害(いわゆるブラック校則)や、いじめ問題、教師からの暴力暴言・性暴力などへの対策の充実も期待される規定となっています。
また子どもの権利をどのように実現するか、政策分野ごとに位置づけられている充実した規定がある点も立憲民主党子ども総合基本法案の特徴です。
4.子ども国会への期待
―子どもの権利を基盤とし、財源や予算目標、具体的な政策について掘り下げた質疑を!
このように与党案、立憲民主案、維新案ともに子どもの権利を基盤とし、子どもたちのための省庁・財源や政策を充実させようとする点は素晴らしいことです。
この歴史的な子ども国会で、財源や予算目標、具体的な政策について掘り下げた質疑が行われ、すみやかに実現されていくことこそが、重要です。
真にこの国の子どもたちの人権・尊厳や利益が実現されるための国会になることを期待しています!