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こども基本法、法案国会提出!30年越しで実現される子どもの権利の国内法の大きな大きな意義とは!?

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
いよいよこども基本法の法案が国会に!(写真:アフロ)

1.日本国で子どもを大切にする待望の国内法がついに!

子どもの権利について総合的に規定した国内法である、こども基本法の与党法案が国会に提出されました!(衆議院法制局・法案概要

1994年に日本政府が子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を批准して以降、子どもを大切にしたい大人たちがおよそ30年にわたって待望していた法律です。

この記事では与党が国会に法案提出したこども基本法に、特に理念法として大きな大きな意義があることを解説します。

2.こども基本法の大きな大きな意義

―子どもの権利を総合的に規定した「基本法」

―全ての子どもが「個人として尊重され」「基本的人権が保障される」

―生きる権利・育つ権利・守られる権利・参画する権利、愛される権利、最善の利益の実現

こども基本法の概要については、衆議院法制局で以下の図のように概要が説明されています。

衆議院法制局ホームぺージより
衆議院法制局ホームぺージより

とくに重要なのは以下の4点です。

(1)こども基本法である(こども家庭基本法ではなく)

(2)第1条で「日本国憲法及び児童の権利条約の精神にのっとり」「全てのこども」が対象となっている。

(3)第2条で「こども」に年齢制限はなく「心身の発達の過程にある者」とされている。

(4)第3条で子どもの権利が位置づけられている。

私自身が、3月4日の記事で指摘していた2つの条件が満たされています。

・日本国憲法第11条に定める基本的人権の保障が、子供にも適用されること。

・わが国が1994年に批准した児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)のもっとも重要な規定とされる4つの一般原則が条文化されること。

4つのポイントについて解説します。

(1)こども基本法である(こども家庭基本法ではなく)

まず、自民党保守派の圧力で、こども家庭基本法になるのではと懸念されていましたが、こども基本法、として法案が国会提出されました。

自民党保守派も含め、自公連立与党が、日本国憲法と子どもの権利条約に基づき、こどもを大切にするためのこども基本法について合意形成し、法案を提出したことは、わが国の憲政や民主主義にとっても歴史的な一歩です。

(2)第1条で「日本国憲法及び児童の権利条約の精神にのっとり」「全てのこども」が対象となっている。

こども基本法第1条は次の通りの条文となっています。

こども基本法 第1条・目的

この法律は、日本国憲法及び児童の権利条約の精神にのっとり

次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き

自律した個人としてひとしく健やかに成長することができ、

心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ

将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して(中略)

こども施策を総合的に推進することを目的とする。

特に重要なのは「日本国憲法及び児童の権利条約の精神にのっとり」「全ての子ども」が「自律した個人として」「その権利の擁護が図られる」という部分です。

大人と同様に、子どもも人権を持ち、権利の主体であり、国としてそのためにもこども政策を推進するという条文になっています。

(3)第2条で「こども」に年齢制限はなく「心身の発達の過程にある者」とされている。

こども基本法 第2条・定義

この法律において「こども」とは心身の発達の過程にある者をいう。

すなわち18歳になれば終わり、ではなく、虐待被害者やヤングケアラー、障害を持つ子ども、児童養護施設の子どもたちなどを含む「全てのこども」(第1条)が、継続して支援を受けるという解釈が可能になります。

この条文の持つ意味の大きさについては、後ほど述べます。

(4)第3条で子どもの権利が位置づけられている。

もっとも重要なのは第3条です。

こども基本法 第3条・基本理念

一 全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること。

二 全てのこどもについて、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること

三 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、こどもが自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。

四 こどもの年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。

・子どもが権利の主体として位置付けられている

一では日本国憲法・子どもの権利条約に基づき「個人として尊重され、その基本的人権が保障される」と子どもの権利の保障を明確にしています。

二の「その自立が図られること」「福祉に係る権利が等しく保障され」「教育を受ける機会が等しく与えられること」も、子ども自身の人権・権利の保障を明確にしています。

・生きる権利、育つ権利、守られる権利、そして愛される権利

二では「適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること」と、子どもの権利の大切な要素である、生きる権利、育つ権利、守られる権利が明記されています。

愛される権利も位置づけられており、全ての子どもが愛される日本社会にむけて重要な根拠となる理念となることが期待されます。

・意見表明権、参画する権利

三「こどもが自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること」

四でも「その意見が尊重され」ることが明記されています。

意見表明権、参画する権利も位置づけられています。

子どもを権利の主体とみなしたとき、子どもに関わることは意見を表明したり、参画していく権利を認めたことの意義は大きいです。

閣議決定されたこども政策に関する基本方針でも、こどもの視点にたち、意見反映に取り組むことが明記されています。

もちろん子どもは成長の途上にある存在でもあり、大人が子ども扱いして意見を軽視するのではなく「年齢及び発達の程度に応じて」より良い意見の聞き方をしたり、安心して発言できる環境を実現していくことも大切になります。

・最善の利益

四 子ども自身の「最善の利益が優先して考慮され」ることも明記されました。

子どもと大人の関係は、虐待問題や「毒親」という言葉に典型的であるように、いつも利益が一致するものではありません。

こうした場合、大人ファーストで子どもが見殺しにされる悲しい事件は、野田市の心愛ちゃん、目黒区の結愛ちゃんの事件など、多くありました。

もちろん虐待の誤認などの悲しい事件もあったことは忘れてはなりませんが、「子ども自身の最善の利益が優先して考慮」されることは、子どもを守り抜く日本のためにはとても大切な規定なのです。

3.こども基本法ができると何かいいことがあるのか?

―日本国で子どもを守れる仕組みが展開していく基盤に

―子ども若者の意見表明や参画もあたりまえに

―省庁・自治体だけでなく、事業主・国民もこどもを大切にするルールに

こども基本法ができると何かいいことあるんですか?

はい、たくさんあります。

たとえば性犯罪者から子どもを守る日本版DBSという仕組みについて、いままで法務省は「犯罪者の更生の機会を奪う」という大人ファーストの理論を展開し、こどもを守る姿勢がありませんでした。

しかし、こども基本法ができれば、法務省もこども自身の人権や権利・利益を守ることになります。

法律はルールであり、いままで大人ファーストで運用されていたこの国の法制を、こどもまんなかで運用するルールを明確にしたのが、こども基本法だからです。

こども基本法には、国・地方自治体だけでなく、事業主、国民が子どもの権利を尊重する前提を共有し、こども政策の推進に努力していくことが書かれています(第4・5・6・7条)。

省庁・自治体だけでなく、事業主・国民もこどもを大切にするルールになっていくのです。

また、子ども若者の意見表明や参画もあたりまえになっていきます。

第11条にも国および地方公共団体が、こども等の意見の反映をすることが明記されました。

家庭や学校・園、部活動、あるいは学校統廃合(新設・移転)、街づくり、公園整備、環境問題、18歳成年問題など、子どもたちが自分自身に関わることについて意見を聴かれ、一緒に考え行動することは、少子化の中で次世代がより良い社会を作っていくためにとても大切です。

さて先ほど、こども基本法第2条でこどもの定義に年齢規定がないことの重要性を指摘しました。

この4月1日から18歳成年(成人)となりましたが、タバコお酒やギャンブルは禁止なのに、AV出演契約は野放し、虐待当事者の大学生の生活保護も認めないなど、いったい何がしたかったのかというようなチグハグな状態になっています。

もし18歳成年を決めた2018年民法改正の時に、こども基本法があれば、18歳から20歳前後の若者の意見も聞かれ反映されこのような混乱は生じなかった可能性もあります。

こども基本法に年齢規定はないからこそ、若者に関する問題も当事者の意見や参画を得て、進めていくことができます。

18歳成年問題、AV搾取問題に代表される性暴力性搾取の問題も、若者たちが自分たちの権利を行使し尊厳を守り、大人が子ども若者を守っていくことができるようになるのです。

こじれにこじれている共同養育問題、長年の懸案であるブラック校則問題、指導死問題なども、子ども若者の意見表明や参画が当たり前になっていくことで、改善していく面もあるでしょう。

ただしこどもの権利を大切にしたい方は、大人もまた権利の主体でありその人権は尊重されなければならないことを改めて認識しておいてください。

教員や保育士に心ない態度で接する保護者も後をたたない時代です、そうした保護者も「子どもの最善の利益」を実現していくためには、大人も子どもの権利、こども基本法について学ぶことが必要になります。

自分の権利を大切にするあまり、他人を傷つけて良いという発想や言動は、わが国の憲法に明記されており全ての国民の基本的人権が保障されるために大切な「公共の福祉」に反する行為でもあります。

こども基本法第15条には子どもの権利条約、こども基本法について国が周知につとめることも明記されています。

大人が自分自身も人権を持つ大切な存在であり、だからこそ関わる子どもも大人の権利・尊厳に大切にしていくことができれば、日本は子どもにも大人にも優しく理解しあえるより良い社会になっていくことでしょう。

4.心配な論点こそ、国会質疑で対話と確認を

―日本国全体でこどもを大切にするために!

―こどもの声も聴きましょう

最後に、こども基本法には心配な点があることも、述べておかなくてはなりません。

たとえば、第3条四に「教育基本法の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること」と、教育基本法が書かれていることを心配する教育学の研究者もいることは予想されます。

第一次安倍政権時に激しい論争と対立の中で改正された法律だからです。

私自身は、教育基本法第4条は教育の機会均等を定めた重要法令であり、改正時に障害を持つ人々の権利も明記されており、こども基本法への規定に際しても重要な意味を持つと考えてます。

また家庭の責任を強調しているのではないかと懸念される条文もあります。

第3条 

五 こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下、これらの者に対してこどもの養育に関し十分な支援を行うとともに、こどもの養育の基本となる家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保することにより、こどもが心身ともに健やかに育成されるようにすること。

六 家庭や子育てに夢を持ち、かつ、次代の社会を担うこどもを安心して生み、育てることができる環境を整備すること。

教育費や子育て費用の研究者として懸念されるのは、財政措置や財政目標が曖昧なままであることです。

第16条 政府は、こども大綱の定めるところにより、こども施策の幅広い展開その他こども施策の一層の充実を図るとともに、その実施に必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。

これらの心配な論点こそ、国会論戦を通じて、しっかり確認され、子育ての大変さや悩んだりする親にもしっかりと寄り添い政策を充実していくことや、虐待被害当事者のケアやサポートの充実など、予算に裏打ちされたこども基本法の運用とこども政策につなげていくことが重要です。

こどもの声を国会参考人等で聴く試みも行われることも、こども基本法の審議においては重要ではないでしょうか。

ともあれ、子どもにとっても、大人にとっても、日本国の未来にとっても大きな大きな意義を持つこども基本法の審議がはじまっていきます。

国会の質疑を含め経過は私自身も発信していきますが、みなさんもこれを機会に国会に関心を持ち、我が国の議会制民主主義が子どもたちのために真剣に機能していることをご確認いただきたいものです。

さあ、こどもたちのための国会がスタートします!

※いわゆるこどもコミッショナー(子どもの人権を守る組織・機関)については、政治部中心でいたずらに対立分断を引き起こす大人ファーストの報道が続くことに疑問と憤りを感じており、別の機会に記事にする予定です。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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