史上初の敵ボールST? 早大がスクラムで決勝進出
やはりラグビーはスクラムである。スクラムが強ければ、どんな接戦も、余裕を持って見ることができる。時代は変わった。この大舞台で、「揺さぶり」の早大がヤン(相手)ボールのスクラムを押し込んで『ST(スクラムトライ)』をとるなんて。
早大の後藤禎和監督は少しおどける感じでこう、言った。
「もう奇跡ですね。この舞台でヤンボールのスクラムをあそこまで押し込めたのは史上初でしょ」
2日の大学選手権の早大×筑波大だった。後半30分ごろ。相手のゴール前の怒涛の波状攻撃を防ぎ切った直後だ。イッキに攻め返し、敵陣ゴール前の筑波大ボールのスクラム。その前の円陣で、主将の右プロップ垣永真之介はこう、声を張り上げたそうだ。
「これまでオレたちは何本、スクラムを組んできたのか。やってきたことが違うのだ。ここで押し込むぞ!」
いわば1年間の日々の鍛練の凝縮である。今季は主将が先頭に立ち、スクラムにこだわってきた。「8人で固まって長いスクラムを組む」と。「長い」とは、FW第1列からナンバー8まで全員が低い姿勢で背筋をきちっと伸ばすという意味である。
やるべきことはそれぞれが分かっていた。まずヒットで当たり勝つ。ボールインの瞬間、結束してワンプッシュすれば、もう相手FWはバラバラとなった。ぐいぐい押す。
インゴールにボールが入ったところで、SH岡田一平がうまくボールを押さえた。記録はどうあれ、これは間違いなく、早大のSTだった。垣永主将が、ふふふふふと笑みをこぼしながら振り返る。
「バインドした瞬間、いいセットだなと思いました。すごいいい(ひざの)ためができて、爆発できました。最高のカタチから、最高のヒット、最高の押し込みまで、理想とするスクラムだったかなと思います」
勝負のポイントでいえば、前半26分の正面のPGが大きかった。そこで早大がスクラムで相手3番が頭を上に出す「コラプシング」の反則をもらった。いきなりの反則の判定は筑波大に気の毒な気もするが、早大FWの結束感ある押しが笛を吹かせたのだろう。
そのPGで10―8とした。スコアはともかく、不安を抱いていたスクラムでの反則によるPG失点が筑波大に与えた精神的なダメージは大きかったはずである。
もちろん、対抗戦でスクラムを押された筑波大は組み方を変えてきていた。うしろ5人(ロックとフランカー、NO8)がウエイトをかけようと、固まり感が出ていた。
さらには、筑波大3番の大川創太郎がロッキング気味に組んできた。これはひざの角度を大きくし、足を伸ばして芝にスパイクを“ロッキング”し、下がることを防ぐための工夫だった。
序盤、早大フッカーの須藤拓輝は「筑波大は重くなっている」と感じた。
「相手のロックの重さを感じました。だから、話し合って、最初のヒットで相手のカタチを崩そうって。真之介(垣永)には“前3の意識でいこう”って」
前3とは、3番の垣永がガツンと当たってスクラムで前に出るカタチである。FW第一列があたり勝って、筑波大3番が孤立気味になると、もうロッキングもできなくなる。バラバラなのだ。
前半、相手ボールのスクラムは4つ、うち2つはコラプシングの反則をもぎとった。
この試合、SO小倉順平の故障からの復帰もあったが、チームにとってより大きかったのはフッカー須藤の故障復帰である。
須藤は年末の中大戦で右足首をひどい捻挫を負って、途中退場した。大きくはれ上がった。でもハリ治療や高圧酸素カプセルの効果があって、患部はほぼ治り、出場にこぎつけた。これまた奇跡みたいなものだった。
須藤のスクラムコントロール、ラインアウトのスローイングの貢献なくして勝利はなかっただろう。
さあ、大学日本一の時に歌う『荒ぶる』まであとひとつ。
勝つためには、スクラムで圧倒し、FWが流れをつくり、日本代表のFB藤田慶和が暴れ回るしかなかろう。
最後、須藤がにやりと笑った。
「“待ってろ、帝京! スクラムを”。ははは。ちょっと挑発的ですかね。こう言うと、相手も燃えてきますかね」
でも、とコトバを足した。
「やっぱり、スクラムで勝ちます」