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NZに完敗もスクラムは互角。日本代表プロップ竹内柊平「かなり自信になった」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
NZ戦で突進する日本代表の竹内(右)と岡部(26日・日産S)=撮影:齋藤龍太郎

 ラグビーのリポビタンDチャレンジカップで、日本代表(世界ランキング14位)はニュージーランド(NZ)代表(同3位)に19-64で敗れた。でも、日本の『超速ラグビー』の基点、スクラムでは健闘した。スクラムの要、右プロップ竹内柊平はぶ厚い胸を張り、笑顔で言った。つぶれた両耳が揺れる。

 「スクラムも、チームのコンセプトの超速です。最初から思い切り、ヒットしました。若いチームが、世界のトップチームに互角に渡り合ったというのは、自分の中ではかなり自信になりました」

 ◆低く、長く、キレイなシルエット

 26日の神奈川・日産スタジアム。スタンドには6万人余の観客がつめかけた。赤白の日本代表のレプリカジャージを羽織った大半のファンが、スクラムのたびに手拍子を打ち鳴らす。大音響の場内放送も響く。「押せ、押せ、ニッポン!」

 キックオフ直後の中盤エリア、日本ボールのファーストスクラムだった。両フォワード(FW)がポイントで構える「クラウチ」のレフェリーの掛け声の位置取りで優位に立つ。第一列のフロントローが相手が窮屈そうな近めの間合いで立ち、低く、相手より早く構える。両フランカー、ナンバー8も低く付き、芝にスパイクを打ち込んで足元を固めた。

 「バインド」「セット!」。続くレフェリーの掛け声に合わせ、赤白ジャージの固まりががつんと黒衣のFWにぶつかる。いい。とてもいい。スタンドの記者席から双眼鏡でみると、みな背筋が伸び、日本FWの方が相手より低く、長く、キレイなシルエットを描いていた。

 NZの両プロップはともに140キロ。対する日本側は、右プロップの竹内が115キロ、左プロップ岡部は105キロ。FW平均が、相手の119キロに対し、日本は112キロだった。体重の話を振れば、竹内は笑い飛ばした。

 「自分たちは(FW)8人で準備してきたものをしっかり出せました。フロントロー(第一列)のがんばりだけではなくて、バックファイブ(両ロック、両フランカー、ナンバー8)もすごくいい押しをしてくれた。ずっと相手を嫌なところに閉じ込めていたので、結構、我慢しているような感じで、たぶん、メチャ苦しかったと思います。僕らは正直、全然苦しくなくて」

 ◆竹内、岡部と両プロップがつないで突進

 数分後、敵陣ゴール前のNZボールのスクラムでは、ボールをキープして押し込んでこようとするのを、日本はぐいと押し返した。竹内はこう振り返る。「オールブラックス(NZ代表)はマイボールでは(コラプシングの)反則をとりたかったのでしょうが、僕らは向こうが疲弊するくらいのウエイトを掛け続けることができました」と。

 超速ラグビーにおけるスクラムの位置づけとして、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は「スクラムも超速」と言っている。竹内が、「例えば」と説明する。

 「スクラムで僕らがワンプッシュするだけで相手ディフェンスが一歩下がるんですよ。それで、自分たちにモメンタム(勢い)が生まれます。もしペナルティーをとれれば、ラインアウトに持ち込めて、自分たちが準備したシェイプでアタックできるんです」

 日本は序盤の2本のスクラムでリズムをつかみ、前半5分、ラインアウトからのアタックでウイング(WTB)ナイカブラが先制トライを奪った。

 反撃したニュージーランドに2本トライを許したが、直後には、竹内、岡部崇人の両プロップがド迫力のランで30メートルほどつないで敵ゴールライン前に迫った。

 PKをもらって、日本は展開し、ナンバー8のマキシがトライを重ねた。その後のロックのディアンズのトライはTMO(ビデオ判定)の結果、取り消しとなり、流れはNZに傾いた。修正したNZのシンプルで丁寧な攻守に後手に回り、前半の20分からの20分間で5トライを連取された。

 ◆日本ならではの低さ「ジャパン・ハイト」

 スクラムは前半8本、後半6本の14本あった。日本ボール、NZボールがそれぞれ7本ずつ。日本は後半序盤に竹内が交代したあと、スクラムでコラプシングをとられたが、全体としてはほぼ互角だった。

 試合後の記者と交わるミックスゾーン。もうベテランの31歳、フッカー坂手淳史は「スクラムはうまく組めたと思います」と言った。

 スクラムのキーワードが「ジャパン・ハイト」、日本ならではの高さ、つまり低さへのこだわりである。

 「自分たちの武器の低さをどう使うかを意識しました。地面が少し悪い部分もあって、足を動かしすぎると滑るので、8人が固まって、できるだけ地面を(スパイクで)かんで、前にプレッシャーをかけていきました。一緒にヒットすることができて、バックファイブの押しを前に伝えることができました」

 左プロップの29歳、岡部はこうだ。

 「正直なところ、FW8人でやってきたことを、試合で出せたのかなと思います」

 スクラムを担当する元NZ代表プロップのオーウェン・フランクスコーチの指導下、FWは日本ならではの間合いと低さ、そして「8人一体」のディテール(細部)にこだわってきた。強化合宿では、リーグワンの浦安D-Rocksや横浜キヤノンイーグルスとスクラムの合同セッションも実施した。だからだろう、竹内はこう、言い切った。

 「日本全体で勝ったスクラムだと思っています」

 

 ◆九州出身の竹内「僕はほんと、しょぼかった」

 ところで、浦安D-Rocks所属の竹内は「僕は経歴がだいぶ、変わっていると思います」と打ち明けた。

 宮崎県出身。小学6年の時に地元のラグビースクールで競技をはじめ、ラグビーでは無名の宮崎工業高校では主にロックやナンバー8をやっていた。大学では福岡県の九州共立大学へ進み、4年時にプロップに転向し、主将として創部以来初の大学選手権出場に導いた。「僕、ほんと、しょぼかった」と苦笑する。2022年秋、練習生として日本代表候補の合宿に参加し、ラグビーの国際舞台につながった。

 挫折は何度も経験した。でも、常に本気、ポジティブな生き方は変えなかった。モットーが『確乎不動(かっこふどう)』。意味は?

 「己を信じて、しっかりして、決して動じないことです」

 九州出身のプライドは? と聞けば、「もちろん、それはあります」と即答だった。

 「自分みたいな経歴の男が頑張れば、他の人も元気づくと思います。がんばれば、誰にでもできるんだぞと。みんなに少しでも勇気を与えることができればと」

 ◆竹内「めちゃくちゃ楽しみ」

 竹内はいつだって前向きだ。雰囲気が明るく、プレーは情熱的。ジョーンズHCの言葉を借りると、「強みがスクラムとボールキャリー」という。

 日本代表はこの後、欧州に渡り、フランス(11月9日)、ウルグアイ(同16日)、イングランド(同24日)と対戦する。

 「めちゃくちゃ楽しみです。ヨーロッパでは、新しいジャパンが強くなっていく、その一翼を担当させてもらえるのはすごく誇らしいです。まずは遠征メンバーに選ばれるように頑張ります」

 誰だって可能性は無限大。無名校から日本代表に駆けあがった”シンデレラボーイ”。ひどくつぶれた両耳をみれば、その痛みと努力の跡がしのばれるのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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