ロックダウン解除のパリ マスクが当たり前になった新しい日常
PDFをプリントアウトして書式の通り住所、氏名、年齢、そしてどんな目的で何時から外に出るのか。
それら一切を記入した申請書をいちいち携帯しなくていいこと。
1時間の時間制限を気にしなくていいこと。
警察車両を見かけても怯えなくていいこと。
そんな当たり前のことがありがたく思えたのが、外出制限が解除になってまず初めの実感だ。
5月11日からの解除で、フランスの感染抑制措置がどのようになったかについては、前回のレポートの通り。
外出可能な範囲が1キロメートルから100キロメートルに拡大され、その範囲ならば申請書はいらず、いつどんな目的ででも自由に外にいていいというのが、あらゆる人にとっての大きな変化だろう。
とはいえ、「ウイルスはまだそこにいます」という喧伝のさなかにあれば、知らずのうちに自制心、自己防衛本能が身についてしまうもの。スーパーへ行くのにも、ゴミ出しをするにも、少なからず身構える。エレベーターのボタンやアパルトマンの共用部分のドアノブには素手で触れないようにするなど、細かいところに気を配らざるを得ない日常はすっかり「元どおり」というのとは違う。
フランスでは公共交通機関を使う時にはマスク着用が義務づけられることになったが、5月15日付『ル・フィガロ』紙に掲載されていた世論調査によれば、95パーセントの人がその措置を支持。つまり、2ヶ月のトンネルを抜けたら、フランス人にとってマスクが当たり前のことになっていた。
それは、レストランやカフェの中での禁煙が徹底されたのと同じくらい、以前には想像もしなかったことが当たり前になる、歴史的な変化といえるものなのではないだろうか。
自治体によって強弱があるが、公共交通機関に限らず外出時には必ずマスク着用を、と呼びかけているところが少なくない。
パリでは商店の大半が営業を再開した。例外は4万平米を超える商業施設。「ギャルリー・ラファイエット」、「プランタン・オスマン」といった大型デパートがこれにあたり、残念ながら休業が続いているが、「BHV」や「ボンマルシェ」などは開いた。
外出制限期間中「ボンマルシェ」の食品館の方は開いていて、その模様をレポートでお伝えしたが、本館がどのようなことになっているのか訪ねてみた。
まず入り口で、手指消毒剤を手にしたスタッフに迎えられる。従業員はもちろんのこと、来店者もマスクは必須となっている。これは「ボンマルシェ」に限ったことではなく、マスクと入店時の手指消毒が商業施設の新スタンダートになったようだ。
商品に手を触れないように、という文字があらゆるところにあり、店員さんにお願いして初めて見たいものに触れられる。例えば帽子を試す場合なら、透明フィルムを渡されて、それで頭を覆ってから帽子を被る。試着が終わったらそのフィルムは店員さんには返さず、最寄りのゴミ箱に自分で入れるようなシステムになっていた。極力他人と接触しない方法が接客でも求められているのが、ある意味新鮮だった。
公園や海岸線を開放するかどうか。これは各自治体の判断に委ねられていて、今週になって多くの海岸が開いた。
制限解除1週目はあいにくの曇天続きだったが、2週目は夏日が続き、しかもキリスト昇天の祝日で飛び石連休になるとあれば、待ちに待たれた朗報だ。とはいえ、ジョギングや散歩、水泳などは認められるが、浜に寝そべって時間を過ごすのは禁止。つまり滞留しないことを前提としての開放ではある。
パリでは公園の閉鎖は継続されているが、セーヌ川岸が開放になった。
連日の人出はなかなかのもので、祝日から週末にかけては日に日にその数が増えている印象。制限解除後の第二波が懸念されなくもないが、これを禁止としてしまうのはあまりにも無粋というものだろう。
青空のもとでそぞろ歩く夏服の人たち。2ヶ月の「空白」のあとだからなおさら眩しく見える風景だが、相変わらず閉ざされたままのレストランとカフェの沈黙が街に影を落としている。
レストランに活気が戻り、辻々のカフェのテラスに人々が憩ってこそのパリ。そんなパリらしさが戻ってくるまで、もう少しの辛抱だ。
最後に、制限解除後のシーンをまとめた動画を添えて、今回のレポートの結びとしたい。