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新型コロナ“戦時下”のパリから ー外出制限8週目のレポートー

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
パリ中心部の調剤薬局では屋外で手指消毒剤を製造していた(写真はすべて筆者撮影)

今これを書いているのは5月10日フランス時間午後3時。2ヶ月近くに及んだ外出制限があと数時間で解除になる。

今週は、木曜日の首相と大臣らの会見で制限解除後の具体策が示され、長いトンネルの先の出口が視野に入ってきた。

1週目からお届けしてきたレポートも8週目。例によって、パリの一生活者として接した日々の報道などをここに記しておきたい。

5月5日(火曜)外出制限50日目

【累計感染者数132967(そのうち24時間での増加数1104)/死者数25531(そのうち24時間での病院での死者数244)】

数字はフランス公衆衛生局の発表によるもの。

以降【感○(○)/死○(○)】で表す。

マクロン大統領がイヴリン県、ポワシーの小学校を訪問。

外出制限期間中、基本的に学校は閉鎖されているが、医療従事者らの子供達は、期間中でも特別に通学していた。そこに大統領が訪れた形。

来週から全国の小学校、保育園が再開可能だが、自治体、学校次第というところが大きく、対応できない学校もあり、また再開できたとしても、すべての子供を受け入れることは難しい見込み。

ポワシーの小学校を訪問したマクロン大統領(『ル・フィガロ』の紙面から)
ポワシーの小学校を訪問したマクロン大統領(『ル・フィガロ』の紙面から)
フランス製の布マスクをつけた大統領(フランス2のニュース画像から)
フランス製の布マスクをつけた大統領(フランス2のニュース画像から)

5月6日(水曜)外出制限51日目

【感137150(939)/死25809(181)】

マクロン大統領が、俳優、歌手、舞台監督、映画監督らとリモートコンフェランス。舞台芸術や映像関係の企画や従事者への救済措置(失業保険有効期間の延長など)を提案。

フランス2の13時のニュースで、昨年10月に武漢で開催された世界軍人運動会に参加したフランス選手の中に、帰国後、今となっては新型コロナだったのではないかと疑われる症状が出ていたというレポート。スウェーデン、リュクサンブールの選手にも同様の例が見られるという。

外出制限期間中で、フランス人の57%が体重増。平均2.5キロ増えているのだとか。筆者も恐る恐るおそらく3ヶ月ぶりに体重計にのってみると、ぴったり平均値だった…。

またTF1の13時のニュースではこんな報告も。外出制限期間中の売上増が顕著だったのは、食料品では冷凍食品、アイスクリーム、そして小麦粉などお菓子の材料。日用品では、掃除用品、食器洗剤、そして妊娠検査薬。もしかしたら、2021年にベビーブームがあるかもしれない。

ベルギーからのレポート。仕事がなくなっているビル外装清掃会社が、面会制限されている老人ホーム入居者家族のために、ゴンドラを使ったサービスを提供しているとか。

ビル清掃会社の経営者が、外の通りから老人ホームの中にいる肉親に合図を送っていたシーンを見て思いついたというアイディア(フランス2のニュース画像から)
ビル清掃会社の経営者が、外の通りから老人ホームの中にいる肉親に合図を送っていたシーンを見て思いついたというアイディア(フランス2のニュース画像から)
老人ホームの入居者の家族がゴンドラに乗って面会しているところ(フランス2のニュース画像から)
老人ホームの入居者の家族がゴンドラに乗って面会しているところ(フランス2のニュース画像から)

5月7日(木曜)外出制限52日目

【感137779(629)/死25987(159)】

午後4時から、エドゥワール・フィリップ首相と6人の大臣の会見。5月11日以降の措置の発表があった。それによって海外県マイヨットを除くフランス全土で5月11日から外出制限が解除になることが決定された。

会見するエドゥワール・フィリップ首相。このあと健康相、教育相、財務相など6人の大臣が5月11日以降の具体策を説明した。(フランス2の中継映像から)
会見するエドゥワール・フィリップ首相。このあと健康相、教育相、財務相など6人の大臣が5月11日以降の具体策を説明した。(フランス2の中継映像から)

主な項目は次の通り。

○移動/住まいから100キロ圏内の外出は自由。100キロを超える場所への移動は、特別な理由(職業上、家庭の事情等)のある場合に限られ、申請書の提示が必要。違反した場合には135ユーロの罰金。ただし、居住県内であれば、100キロ超も認められる。

○学校/小学校と保育園の再開可能。およそ80〜85%の小学校、保育園が開く予定だが、1クラス15人まで(保育園は10人まで)という制限があり、通学させるかどうかは保護者の選択に任されており、リモート授業も継続。実際に通学するのはおそらく全体の15%ほどと予想されている。

○交通機関/イルドフランス(パリと近郊)のメトロ、バス等は75%が運行予定。ただし、ラッシュ時の利用は雇用主が発行した証明書を持っている人と、子供の送迎や通院などやむを得ない理由のある人に限られる。

地方の鉄道は50%、TGV(高速鉄道)は20〜30%(月末には40%)が運行予定。公共交通機関利用時、11歳以上はマスクの着用が義務。違反した場合には135ユーロの罰金。国鉄、パリ市交通局への応援のため2万人の警察を動員して駅の整理にあたる予定だが、駅が混雑してしまった場合には、閉鎖の措置を取ることもある。

カフェ、レストラン、バーなどを除く商業施設の再開。ただし、イルドフランス地方の4万平米を超える商業施設は閉鎖継続。

○映画館、劇場、大型の美術館等は閉鎖継続。

さて、先週から制限解除に向けた県ごとの「赤」と「緑」の色分けが注目されていた。現状で「赤」になったのは、イルドフランス、オードフランス、ブルゴーニュ・フランシュ・コンテ、グランテスト地方の県と海外県のマイヨット。「緑」の県では18日から中学校の再開が可能だが、「赤」の県では休校が続く予定。また「赤」の県では公園の閉鎖も継続される。

カフェ、レストランの再開については、5月末頃にあらためて方針が示される予定。

スポーツは、個人の屋外での競技(ゴルフ、テニス)などは可能。ジョギング、サイクリングなどは10メートルの間隔をあけることが推奨されている。屋内競技、団体競技、接触を伴うスポーツは禁止継続。

色分けされた5月11日の制限解除の地図。下の3つの地図はそれぞれ、ウイルスの活発さ、蘇生治療施設の許容量、PCR検査の体制による色分けで、それらを総合して判断された。(『ル・フィガロ』の紙面から)
色分けされた5月11日の制限解除の地図。下の3つの地図はそれぞれ、ウイルスの活発さ、蘇生治療施設の許容量、PCR検査の体制による色分けで、それらを総合して判断された。(『ル・フィガロ』の紙面から)

5月8日(金曜)外出制限53日目

【感138421(642) /死26230(118)】

第二次世界大戦の戦勝記念日。75年目の記念の今年は、本来ならならシャンゼリゼ通りから凱旋門で盛大なセレモニーが行われるところだが、最小限の参加人数で。マクロン大統領が記帳したあと、手指消毒剤で手を清めるシーンが印象的だった。

第二次世界大戦戦勝日の今日は祝日。凱旋門でのセレモニーは最小限の出席者で。(フランス2の中継映像から)
第二次世界大戦戦勝日の今日は祝日。凱旋門でのセレモニーは最小限の出席者で。(フランス2の中継映像から)
記帳の後、手指消毒剤を使う大統領(フランス2の中継映像から)
記帳の後、手指消毒剤を使う大統領(フランス2の中継映像から)

フランスでの最初の感染例が、公式に発表されていたものより早いことがほぼ確実になってきた。多くの病院が11月、12月の肺炎患者の検査結果の再調査を開始しているという報道。

「緑」ゾーンになっているドルドーニュ地方の村で、2週間前の葬儀が原因でクラスターが発生。調査中。

フランスよりも早く外出制限が解除になり、おおむね良好に推移しているドイツだが、中部の人口2万人ほどの自治体で新たな感染が多発しているとの報道。

5月9日(土曜)外出制限54日目

【感138854(433)/死26310(77)】

ドルドーニュの村での葬儀が引き金になったクラスター。教会では制限内の20人ほどの列席者だったが、埋葬時などには30人ほどが集まった様子。感染者が出てから、周辺の人々も含め検査中。現時点ですでに結果が出ている103の検査で9件の陽生反応。

ヴィエンヌ県ショーヴィニーの中学校で再開準備中にクラスターが発生した模様。「緑」の県なので、中学校は18日から再開できる予定だったが、校内を消毒するなどの措置をした後、27日からの再開に延期。

いずれのクラスターも「緑」の県で起きたことなので、くれぐれも気を緩めないことが求められるという報道。

5月10日(日曜)外出制限55日目 最終日

いよいよ明日から、というより日付が変わる0時から制限が解除になる。巷の噂では、午前0時から営業再開する美容院もあるとか。

一方、外出制限が解除になるにあたり、精神的に不安定になる人が少なくないようで、地方によっては電話相談室がすでに設けられているというニュースも聞かれる。

思えば2ヶ月もの長いトンネル。それは非日常が日常になってしまうくらいの長さだったと思う。加えて、抜け出す先の世界にはまだまだウイルスがいて、今から第二波を懸念する声が大きいとなれば、晴れて解禁! という気持ちになれないことはたしかだ。

“戦時下”のパリからの外出制限週間レポートはこれを最終回にするが、解除後のパリの様子も引き続きお届けしたいと思う。

今回の記事の締めくくりに、ロックダウン中のパリの花の動画を。人間の事情はともかく、季節は巡り、花もうつろう。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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