不登校、ネグレクト…「学校にはできない家庭への介入」子ども第三の居場所が必要な理由
コロナ禍は、子育ての課題をあぶり出した。現在も、「休校や自粛は終わったこと」とは言えず、不登校が最多となり、物価高に苦しむ家庭は少なくない。そうした時こそ、子どもの居場所や親子サポートが必要だ。
日本財団は、多様な困難を抱える子どもたちが安心して過ごせ、将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」プロジェクトを全国で進めている。NPOなど非営利法人が手を挙げ、設立時から最大3年間は日本財団が助成し、その後は行政移管や民間団体での自立した運営に切り替えていく。
筆者はコロナ禍を含む数年間、全国7か所のこの居場所を取材した。その現場には、ヤングケアラーや不登校、発達障害、親の孤立、貧困の連鎖など、多様な社会課題がそのままに現れ、スタッフがサポートにあたっている。筆者も小学生を持つワーキングマザーで、公立の学童保育に落ちた経験がある。ワンオペ状態も長く、子どもの居場所や学習・生活の支援に、試行錯誤してきたため、「近くにこんな居場所があったら」と思いながらの取材だった。
日本財団子ども支援チームの飯澤幸世さんとは、子ども第三の居場所から見える社会課題について、意見を交換してきた。リアルタイムで起きている問題や、これからの親子支援についてインタビューした内容を3回にわたって紹介する。
【まず子どもをめぐる状況について、説明していただけますか】
【以下、回答は飯澤さん】
「子ども第三の居場所プロジェクト」を始める前に、日本財団は「子どもの貧困対策」事業を開始しました。2015年から、子どもの貧困に対して、何か手はないだろうかと調査や事業の検討を始めました。放課後の居場所をつくり、そこで「社会的相続」を補完したいと。金銭的な相続ではなく、生活習慣であったり、人との関係だったり、通常家族の中や近所づきあいの中で育まれるものが、今の困窮世帯に不足しているのではないかと思ったのです。
非金銭的な相続、それを「社会的相続」と言っています。家庭だと、習い事や体験活動、遠出等も含めていろいろチャレンジする機会があり、その中で褒められる事による自己肯定感ややり抜く力が育まれる。近所づきあい等の人間関係も、子どもの人と関わる力に影響し、お金ではないけれど、親が子にかける時間の中で自然と受け継がれていくものがある。それが十分ではないので、放課後の居場所で補っていこうと。
当初は困窮世帯の子どもたちを対象として事業を始めたのですが、世帯所得を基準にして居場所を利用できる子どもを決めるのは難しいことが分かりました。ある程度、世帯収入があっても、例えば子どもに発達障害の傾向があり、集団行動が苦手で孤立しがちだったたり、ひとり親世帯や共働きで夜遅くに子どもひとりでいたり、昼夜逆転し生活習慣が乱れていたり、学習上の困難等、さまざまな事情で困難に直面している子どもたちがいる。そのため、もっと幅広く受け入れをしなければいけないと考え、事業の方針を変更し困窮世帯に限定しない「子ども第三の居場所」事業として再スタートしました。
【具体的には、ネグレクトや不登校などが…】
一事例ですが、「何時になるまで帰ってきちゃ駄目」と、家を出されてしまったり。暑い日に水も持たずに一人でふらふら歩いていたり、日が沈んで暗い時間になっても公園で遊んでいるといった、気になる子どもがいると居場所を運営する団体さんから聞きます。ネグレクトであったりとか、お父さん、お母さんが夜遅くまで働いて家に誰もいない状況から、行く当てがなくてスーパーでぶらぶらしたり、その次は公園に行ったり。居場所がない状況ですね。また、お父さん、お母さんが働いていて、夜遅くなっても帰って来ないとなると、ゲームをして過ごして、朝は起きられなくなってしまう。上の兄弟の生活習慣の乱れが、下の子にも影響する例も多いです。
他に、明るくて一見問題なさそうでも、丁寧に見ると、勉強ができなくて困っている子どもがいる。2017年に子どもの貧困対策事業で行った調査では、困窮世帯の子どもは10歳を境に、急激に成績が低下するんですね。学校の先生との関係性も小学生の1、2年生くらいまでは問題ないのですが、学力が低下する小3、4くらいからだんだん離れていってしまう。
そうやってつまずき始めると、先生に聞けなくなる、家では忙しく働いている親には聞けず、兄弟姉妹など身近に聞ける人がいなければ、だんだん取り戻せない状況になる。小学校低学年のうちから、学習支援をしていく必要性があるのです。
【今、日本では3人に1人の子が何らかの困難に直面していますね】
困難に直面している子どもの全体像を見るために、厚労省や文科省が出している調査データを元に調べると、100人の小学生のうち34人、つまり3人に1人が何らかの困難に直面していることが分かりました。
経済的困難、虐待、いじめ、不登校、通級指導児童、学習障害、外国籍児童等になりますが、実際には、経済的困難を抱えている子がいじめを受けていて、不登校になっているなど、1人の子どもに複数の困難が折り重なっています。実人数としては、もう少し少なくなると思います。
参考:子どもの居場所の全国展開に向けた提言書
このような困難について、家庭だけでは解決が難しく、そもそも家庭に課題がある事もあります。では、学校で解決できるかといえば、学校の先生は目の前の子どもには対応できますが、家庭の課題までは、なかなか介入ができません。
地域社会も、昔と違って繋がりが非常に希薄になっていて、子どもや家庭を見守ることはもはや難しい状況。問題は複層的になっているため、行政が介入して担当する課が一つの課題を解決しても、その子どもの抱えている全ての課題を解決することは難しい。例えば、ネグレクトで介入しその課題に対応したけれど、実は子ども自身が発達障害だったり、経済的ハンデが解決されなかったり。全ての課題を解決することはできないけれど、子どもに寄り添い、子どもに関わる多様な関係機関と連携して課題解決の道筋を探る、その思いがこの第三の居場所になっています。
【第三の居場所は、地域の中ではどのように受け入れられていますか】
居場所をつくることによって顕在化したのが、協力してくれる地域の方の存在です。「この食材いるかい?」みたいな感じで、地域の人がお米や野菜を提供してくださることもあるし、近所の定年退職した先生が、勉強を教えてあげるよ、とボランティアで関わってくることもある。他に、寄付してくれたり、会場を無償で貸すからここでダンスとかやったらどう?と提案してくれたり。
居場所ができることで、いろんな方が子どもの居場所づくりに関わってくるようになる。そうすると、地域全体で子育てしていく機運も高まる。かつて昭和の時代にあったような、地域子育てコミュニティが再びできてくる。改めて子ども第三の居場所をハブとして、そういうコミュニティを作り直していく事が、この事業の最終目標ではないかと思っています。
【具体的にどんな場所か、改めて教えてください】
子ども第三の居場所は、週5日開所し手厚い支援を行うターゲット型の居場所である「常設ケアモデル」と、誰でも来ることができるユニバーサル型の居場所である「コミュニティモデル」と、学習を中心に進学や自立をサポートする「学習・生活支援モデル」があります。常設ケアが47、学習生活支援が32、コミュニティが90。全部で169です。これが2023年5月末時点の数字です。
対象は、小学校低学年からというところを重視しています。早めの段階から介入しないと、生活習慣も学習も取り戻すのが大変になっていく。もう一つ、小学低学年は自分でどこかに行くことができないのです。小学生でも中学年、高学年になってくると、図書館や友達の家に行く。自治体の学習・生活支援事業に関しても、受験対策の意味あいもあり大体は中学生・高校生向けになります。中学生になれば、行動範囲が広がり自分で居場所を見つけられる可能性がありますが、小学校低学年は自力で居場所を見つけることができない環境にある。まず、小学校低学年の居場所をつくることが必要だと日本財団は考えています。
ここで、5つの機会として、安心、食事支援、生活習慣支援、体験活動、学習支援を提供しています。まず、ほっとできる、ここにいていいんだという安心。そして、ご飯を食べて、衛生面をきちんとできる、基本的な生活習慣が必要です。そのうえで、体験プログラムを通して、自分のやりたいことを見つけたり、やりたいことを実現するために誰かに教わったり、人や社会に関わる力や何かをやり遂げる力といった非認知能力を育んでいきます。生活習慣が整い、自己肯定感が高まり、そのうえでようやく学習支援に取り組めるのではないかと思います。
【子ども第三の居場所は、学校と家庭との緩衝材と言われるとか】
子どものころ不登校で、その後大人になって就職して社会に出た人が、何かにつまずきを感じて引きこもりに戻ってしまうことがあるため、子どもから大人までの幅広い世代を対象とした居場所づくりに取り組んでいる団体があります。
子どもは柔軟性があって、知らない子ども同士でも第三の居場所で一緒に遊んだりできます。でも、引きこもりの大人同士が来て、遊ぶわけにはいかない。それぞれ経験してきている背景も異なりますし、やりたいことも違う。大人を対象とした居場所運営は難しく、やはり子どもの頃から取り組むことが大切です。
第三の居場所の運営者が話していたことですが、「僕たちは、学校と家庭との緩衝材」だと。学校と子ども、家庭と子ども、あと学校と家庭との緩衝材として僕たちはいると。親がネグレクトでも駄目だし、教育熱心で過干渉過ぎても駄目だし、学校の教科学習とその子どもの気持ちが異なっていたり、そこにこういった団体が隙間に入り込んでいって、調整していく。「関わるからには、最後まで寄り添う」をモットーにしている運営団体もあるように、家でも学校でもない第三者として、とことん子どもに寄り添うのが「子ども第三の居場所」です。(つづく)