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「PTAは必要か?」賛否両論を取材して…改革の具体例と付き合い方10のポイント

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

「PTAの解散が増えているけれど、保護者のサポートは必要なのでは?」。そんな疑問から、筆者は集英社オンラインニュース班と取材を始めた。東京都中央区で44年ぶりに新設された晴海西小学校は今年度、保護者組織はないまま開校した。東京オリンピック選手村跡地の「晴海フラッグ」内にあるため、新しいコミュニティ作りのプロセスが注目されている(校長インタビューを含め、取材記事はこちら)。

その他、PTAに代わる保護者組織「PTO」の団長や、ボランティア制に移行中のPTA会長にインタビューし、保護者の賛否両論のコメントも紹介した。改めて、地域コミュニティの視点から課題を整理したい。

「一部に負担をかけるPTAでなく」

 PTAという言葉を目にすると、ネガティブな感情になってしまう人も少なくないのではないだろうか。インタビューした晴海西小の齋藤校長が言っていたように、メディアではネガティブなニュースも多い。集英社オンラインの記事に紹介した「時間的な制限や仕事量が多く、一部の人に大きな負担をかけるようなPTA組織ではなく、やりたい人がやりたいときに、力を発揮できるボランティア組織を作りたい」(齋藤校長)というコメントを、冷静に読んでいただけるといいなと思う。

 けれど、現状を聞くと、ネガティブな感情になるのもまた、自然だ。Yahoo!ニュースと講談社フラウのママ友アンケートを担当した際、幼稚園のPTAでつらい思いをしたママの話も聞いた。それは確かに、やりたくないと思うよね、というものだった。

 筆者は子どもが小学生の時、PTAの広報委員に立候補して1年間、主に行事の撮影を担当した。コロナ禍で、クラスごとの割り当てはなかったが、各学年から多数の保護者が集まり、編集が得意な委員もいたため困ることはなかった。何よりも、児童のサポートを主事さんがしているとか別室登校の子も多いとか、学校の様子を知れて、子どもたちや働く方々の表情を見られたのがよかった

 ただ、くじ引きでリーダーを決めており、もし引いたら、自分の家庭環境や仕事との兼ね合い、キャパシティでは務まらないと感じた。現在は、体制を変えて効率的になり、くじ引きもなくなったそうだ。

 共働きが増えて、昭和時代からの非効率的なPTA活動は無理がある。コロナ禍のICT教育やあらゆる分野のオンライン化をきっかけに、「こんなPTA活動はおかしくない?」という情報も広まった。とはいえ、保護者のサポートがなければ、当たり前に享受してきたことが得られなくなるというジレンマがある。安全な運動会、コロナ禍の憂うつを吹き飛ばすPTAイベント、卒業の記念品など、なくなったら寂しいものから、本当に困ることまで。

 そうはいっても、昔ながらの非効率的なPTAに声を上げられない、周りに気を遣ってしまう保護者は多く、スムーズに進化できるPTAばかりではない。今回の連載のような情報が広がり、ボランティア制など、よりよい組織が増えてほしい。

「学校が託児所」「地域で支援を」

 別の視点も、紹介したい。あるPTAの役員経験者は、「子どもたちのために、学校に協力しようという親が減っている」と指摘する。「保護者にとって、学校が託児所みたいになったと感じます。協力はしないけれど、要望は言うみたいな……。先生も働き方改革で、漢字ドリルや計算など、必要と思われる宿題もなくなっているんです」

 そもそも、学校の保護者だけでPTAを完結するのに無理があるのでは、という意見もある。『ツレががうつになりまして。』『アタックPTA』など、自身の経験をコミックエッセイにしてきた漫画家の細川豹々さんは、長男の学校のPTA役員を3年間務めた。他の役員とともに、PTAの無駄を省き、改革した。ところが役員メンバーが変わったとたんに、元に戻ってしまった。現役の人たちの相談を受けて細川さんらが動き、うまく収めることができたという。

 「ワンマンな役員により、PTAが壊れてしまうこともあります。卒業した今、地域の人間として学校を見守っていけたらと思っています。学校関係者だけでなく、PTAのメンバーを地域の中から募り、『できる人がやる』というやり方も必要なのではないでしょうか

 最後に、PTAをサポートする企業とPTAをつなぐマッチングサイトを運営する「ピータス」の増島佐和子さんに、PTAの現状と付き合い方の10のポイントを聞いた。増島さんはこれまで、全国で延べ1000以上のPTAから相談を受け、ピータスを利用するPTAは2000を超える。

①保護者の団体は必要

 保護者による子どもたちの学校生活のサポートは必要です。一部、外注を利用するとしても、土台として保護者の団体は必要です。

②何らかの変革をしているところは多い

 名前や組織を変えたり、PTAではあるけれども委員会を廃止するなど、何らかの変革をしているところは多いです。ですが、劇的にPTAの解散が増えているわけではありません。

③PTAの目的をはっきりさせる

 PTAを維持することに熱くなるあまり、「〇〇人、集めなきゃいけない」「必ずやらなきゃ」と思うと苦しくなります。PTAの目的は子どもたちのため、とはっきりさせることが大切です。

④既存のPTAを変える

 別の組織を立ち上げる労力を考えるなら、既にフレームとしてあるPTAを、参加しやすい、共感できるものに変えることも大切。落ち着いて今のメンバーとよく対話することです。

⑤「もう参加しない」割り切りも

 以前のPTA活動でよほどつらい経験をした場合は「もう参加しなくていいのでは」と割り切って考えるのも一つです。

⑥正しい情報を知っておく

 SNSの情報を見ただけで「PTAってひどいところだ」と決めつけず、まずは自校のPTAについて知ることですない。会長や校長先生が変わると、PTAがガラッと変わる場合もあります。どうしても困ったときは、弁護士に相談することもできます。

⑦対話した上で、必要な主張はする

 対話をすることで、無理にPTAに入らなくていいケースもあります。PTAは任意のボランティア団体です。仕事の都合や時間に限りがあるなら、「参加できません」や「ごめんなさい、今日は失礼します」と言えばよいでしょう。

⑧不満を第三者に言わない

 マイナスの連鎖が広がってしまうからです。

⑨嫌な気分になって疲れるくらいなら、プロに頼む

 外注は、お弁当に冷凍食品を入れるのと同じです。広報誌の作成、行事の受付など企業がサービスを用意しています。

⑩PTAに正解はない

 PTAには地域、規模、校長先生との関係性など、様々な要素があります。前例を踏襲することにこだわらずに、その時のメンバーで、何を目的にどんな活動をしたいのか対話をすることが大切です。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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