若者の声を政治に届けるには、子ども郵便箱を設置 ノルウェーの取り組み
ノルウェーという国は、政治家や大人が、若者や子どもの声を必死に聞こうとする国だなと感じる。
「リーケスティリング」(likestilling)。
このノルウェー語は、日本では「男女平等」と訳されることがある。「男と女」という枠を乗り越えて、高齢者・マイノリティ・若者など、様々な人との平等を意味している。
平等意識は高くはあるが、自分とは違う立場の人の考えや悩みは、想像するだけではわからない。
「10代の若者は、何を考えているのか?」
ノルウェーの政治家が、やけに気にしていることだ。
将来の有権者である彼らの考えは、国の未来を左右する。
しかし、もはや年齢差がありすぎて、SNSやスマホ世代でもある若者の心の内は、大人にはさっぱり分からない。
だからこそ、ノルウェーでは、各党の青年部や青年団体が、社会に大きな影響力をもつ。
今時、政治家に「手紙」を書いてくれる若者はいるか?
19日、オスロの自治体政治家たちが働く市庁舎では、市長の部屋の前に、木製の郵便箱が設置された。
「バーナス・ポストカッセ」(Barnas postkasse)は、「子ども郵便箱」という意味。
子どもや若者の意見を聞くための仕組みは、他にもたくさんある。
それでも、「もっと声を聞きたい」、「まだ聞き足りない」というのが、市の本音のようだ。
郵便箱には、子どもたちは自由に手紙を投函することができる。
どのような内容の手紙が届くのか。そもそも、このデジタル時代に、わざわざ手紙を書く子どもはいるのか。どうなるかは、まだわからない。
このような取り組みは、ノルウェーでの自治体としては初だろうと、市長の秘書は筆者に語った。
将来の有権者、中学生や高校生との距離をどうやって縮めるか
郵便箱のリリースの日には、オスロにあるランベルセーテル高校の高校生が招待されていた。
政治家による質疑が行われる部屋で、ボルゲン市長(左派社会党)は、高校生に政治家の仕事内容を説明する。
「市長は、年にどれくらい稼いでいるんですか?」などと質問が飛んだ。
若者に関心を示してくれる政治家の態度は、嬉しい
ユーリアさん(左)とマティーネさん(右)は、16歳。
「郵便箱は、いい考えだと思う。今までとは、違う形で意見を言える」
「私たちの考えを聞こうとする。その姿勢は、嬉しい」
政治家には、メールなどで連絡をしようと考えたことはなかったと、2人は話す。
連絡に消極的な若者。どうすればいいのか?と政治家は試行錯誤
ノルウェーでは、個人情報が日本よりも透明化されている。
特に、市民に選挙で選ばれた政治家との距離は遠くあってはならないとされているため、本人の携帯電話の番号やメールアドレスなどが公にされている。
結果として、これまでとは違う政策を行おうとする政治家には、ヘイトスピーチや嫌がらせが、直接スマホなどに届くということも。
だが、若者からは連絡が少ないようだ。
2015年の選挙後、27歳の若さで副市長となったグナラトナム氏(労働党)。先日は、写真共有アプリSnapchatで、野党の政治家をからかう内容を、議会中に副市長の席から投稿した。批判を受けたが、SNSは若者に政治を身近に感じ取ってもらう手段だと、副市長は反論。
ノルウェーは、来年に統一地方選挙を控える。若者の世界を少しでも理解しようと、大人の政治家たちは必至だ。
地元議員が中学生や高校生に政治の授業?
オスロ市では、今年の秋から、中学生と高校生が、地元の政治家から、政治と民主主義を学ぶことができる特別授業を開始する予定。
選挙直前に、どのように公平性を保ちながら、政治を語っていくのだろうか。
「ノルウェーでは、子どもや若者の声を聞かなければいけないという、法律があります。オスロをいい街に発展させるためには、あなたたちの声が必要」と語りかけるオスロ市長。
子ども郵便箱に届けられた手紙の内容は、市議会へと反映させられる予定。
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Photo&Text: Asaki Abumi