キャンセル率0.1%、ひとり親も介護者も障害者も18時退社で有休完全取得、働き方改革のお手本の飲食店
京都市で3店舗の飲食店、一日100食限定の佰食屋を経営する、株式会社minitts(ミニッツ)の中村朱美さん。筆者は2017年5月から、その働く姿を追いかけてきた。働き方改革と食品ロスほぼゼロで数々の受賞。東京都が主催した食品ロス削減セミナーで発表する中村さんを取材した。
中村朱美さん(以下、中村):株式会社minitts、2012年に設立した会社です。資本金500万、現在、飲食店事業で年商1億2,000万ぐらいの規模の飲食店を経営しております。飲食店は、現在3店舗を経営しております。
数々の受賞歴ー飲食店での働き方改革、ワークライフバランス、食品ロス削減など
中村:これまでいろんな受賞歴があります。皆さんがご存じなのは、ダイバーシティ経営企業100選とか、『日経WOMAN』のウーマン・オブ・ザ・イヤーの大賞とか、『Forbes(フォーブス) JAPAN』とかの賞かと思います。なぜ私が受賞しているのかというと、飲食店における働き方改革、ワークライフバランス、フードロス削減などに取り組むことによって、表彰をいただくことができました。
「飲食店で働いたらあかんで、大変やから」
中村:さかのぼること30年ほど前の話です。私の父親は元々、ホテルのレストランのシェフでした。母親は同じレストランで接客をしていて、社内結婚をしています。この両親から言われていたこと、それは
「飲食店で働いたらあかんで、大変やから」
ずっと言われていました。小さいころは、この意味はよく分かりませんでしたが、夜遅くに帰ってくる父親を、2つ年上の姉と一緒に寝ないように、頑張って起きて待って、帰ってきた父親に「おかえり」と一言言って寝たという記憶が、私の一番幼いころの記憶なんです。
そんな記憶から、私の小さいころの思いはただ一つ。
家族全員で晩ご飯を食べたかったんです。
この願いは、残念ながら父親の交通事故の後遺症で、シェフという立ち仕事ができなくなったときに初めてかないました。これはもう30年も前の話です。
夫の最高の「最後飯(さいごめし)」で飲食店の常識を覆す新しいビジネスモデルを
30年も経ったのに、未だに飲食店の働き方はどうでしょうか。低賃金・長時間労働、土日祝や年末年始に休めない、朝から深夜まで通し勤務。子どもの行事に参加できなくて当たり前。これらによる慢性的な人手不足・・・。これは何とかしないといけない、と思ったんです。
ただ私は、幼いころ両親から「飲食店で働いたら、あかんで」とずっと言われていたので、京都教育大学という教師になるための大学に進学したんです。
卒業して、専門学校の教員として5年半ほど、普通のOLのような形で仕事をしていました。飲食店の経験は、アルバイトですら、やったことがなかったんです。
このOL時代のときに結婚しまして、結婚した夫が作ってくれたご飯がとてもおいしかった。我が家では実は100パーセント夫がご飯を作ってくれるほど、夫が料理上手なのですが、その夫が作ってくれたのが、ステーキ丼。これが、むちゃくちゃおいしくて。
死ぬ前に最後に食べたいご飯という意味を込めて、このステーキ丼を「最後飯(さいごめし)」と呼んでいました。この最後飯は、私だけで食べるのは本当にもったいないというぐらい大好きで。
だからこそ、もっと多くの人に食べてほしいなと純粋に思って、気付いたんです。この「最後飯」で、これまでの飲食店の常識を覆すような新しいビジネスモデルができるんじゃないかと。
そう思って、今から6年前――当時28歳でした――そのときに1つの飲食店を立ち上げたのがこちら、1日100食限定のお店、佰(ひゃく)食屋です。
現在は、京都市内に3店舗お店を展開するまでになりました。私たちのお店の特徴は、ランチ営業のみです。
ランチ営業だけでやっていける一つ目の工夫:圧倒的なコストパフォーマンス
中村:皆さん、気になるんですよね。ランチだけでやっていけるの?と。
ランチだけで経営を成り立たせるためには、幾つか工夫をしています。
1つ目が、圧倒的なコストパフォーマンス。私たちは国産牛と国産米しか使いませんが、1100円の定食で提供しています。原価率をしっかりかけることで、お客さまからすると安い、コスパがいいとなる。すると、広告宣伝費を一切かけなくても、たくさんの口コミが増えて、テレビで紹介されるようになり、行列ができるようになりました。
二つ目の工夫:整理券配布によるキャンセル率0.1%
中村:2つ目の工夫が、整理券の配布です。今どき電話で予約もできるし、ネットでも予約できる時代やのに、何で?と言われるんですが、あえて、お客さまと直接顔を合わせて整理券を配布することで、飲食店の悩みだった、キャンセルの防止が可能となりました。
私たちのキャンセル率は、もう0.1%を切るぐらい。月に2~3人いるかどうかぐらいのキャンセルしかないんです。
朝9時半から時間の選べる整理券をお渡ししているんですが、好きな時間の整理券を選んでいただき、その後レンタル着物店に行って、着付けもメイクもヘアスタイルも全部してもらって、指定のお時間に戻ってくるお客さまがたくさんいらっしゃいます。上手に時間を使って食べに来てくださいます。
こういう工夫によって、今や、世界中から佰食屋を目指してお客さまが来られるようなお店になりました。
オープンしたときは、住宅街にお店を出したので、外国人観光客は0パーセントだったんですが今、全体の40パーセントが外国人観光客、そんなお店になりました。
私たちのお店は、名前のとおり100食限定の佰食屋です。だからこそ実現できることもあります。地元の業者への食材発注数がほとんど毎日一緒なんです。繁忙期もなければ閑散期もない。年中安定した発注をしますので、地元の様々な食材屋さんが、年中安定した利益を得られるようになり、地元の企業に貢献することができました。
飲食店なのに冷凍庫がない!
私たちは飲食店ですが、冷凍庫がありません。冷凍庫を持たず、冷蔵庫だけで、しかもその冷蔵庫すら毎日ほぼ空っぽになる。フードロスは限りなくゼロに近付けることができました。
全従業員が18時までに完全退社
ランチ営業のみなので、全従業員は18時までに完全に退社して、出勤時間も退勤時間も選べる、そんな仕組みを作っていきました。
そうすることで、子育て中の女性やシングルマザー、高齢者や障害者、介護中の方や妊娠中の方、外国人留学生まで、いろんな方が活躍する飲食店になりました。
私には、3歳と4歳の子どもが2人いるんですが、下の子、3歳の子が生まれつき、脳性まひという病気があって、入院や毎月1回の通院、そして1日3回の自宅でのリハビリが必要です。それでも私たち家族も、毎日晩ご飯を家族揃って食べられる働き方を作り上げることができました。
調理での食品ロス発生要因その1 メニュー構成
中村:ここで、飲食店における調理での食品ロス発生の要因について考えたいと思います。主にこの3つが課題だと考えます。
1つ目は、メニュー構成の悪さ。2つ目は、来客数が読めないこと。3つ目、現場が面倒くさがっていないか。この3つさえ解決できたら、調理における食品ロス発生は防げると思うんです。
まずメニュー構成。私たちの店舗のメニューはどの店も3つだけです。現代はごみを捨てるのも有料ですから、メニュー構成のときからちゃんと考えないと、本当にもったいない。事業者は月に最低でも5,400円かけて、ごみを捨てていかないといけない。量が増えれば金額も上がりますから、最初からロスが出ないメニュー構成にするよう気を付けていきましょう。
調理での食品ロス発生要因その2 来客数が読めない
中村:よくあるのが、お客さんが来るか分からへんけれども、まだ営業時間が1時間あるから、もう一回ご飯を炊いておこうといって、誰も来なかったので、ご飯がそのままロスになる。あるいは生もの、サラダとか刺し身とかを仕込み過ぎてしまって、次の日に持ち越せない。冷凍食品も解凍してしまって、余ってしまう。ということで、結構、来客数が読めないことによるフードロスは、すごく頻繁に発生すると思うんです。
「機会損失と食品ロスと、どちらが損失なんですか?」
中村:ここで問題なのは、機会損失かフードロスか、どっちが損失なのかというのを考えてみませんか、という問題提起です。
機会損失を重要視するからこそ、お客さんが来るかもしれんし、ご飯を炊こうとか、もうちょっと来られて間に合わへんかったら困るし、もう解凍しちゃおうといって先に手を打ってしまうんですが、私からすると、それよりフードロスのほうが実はロスしていませんかということなんです。
例えばメニューによっては、1日に5食限定とか10食限定というメニューがあって、その商品がもし売り切れていても、ちゃんと先に「限定」と書いていたら、クレームになりません。それが食べられなかったら、もう一回あれを食べに来ようと、次回来店動機につながると思います。
私たちは、オーダーが入ってからしか絶対に作りません。全ての人に焼きたてをお届けするために、オーダーが入ってから作るので、絶対にロスは出ません。100食限定だからこそ、90食ぐらいになったときに、残りの10人分の10合しか追加でご飯を炊かないんですよ。数が分かってるからこそ、ご飯ですら炊き余らないのです。お茶碗1膳分とか、まかないで食べる分ぐらいしか余らない。そういったコントロールをお店がしていくというような工夫が必要なんじゃないかなと思います。
調理での食品ロス発生要因その3 面倒くさがり過ぎ
中村:3つ目の、みんな面倒くさがり過ぎ。
飲食店で、お肉や魚を扱うとなったときに、柵(さく)で買うのか、本体丸々1匹で買うのか、どっちがいいですか?
どっちが楽かといったら、柵で買ったほうが楽ですよね。だって、カットしたらすぐに使えるし、技術も要らない。でも、かなり値段の差があります。この値段の差は、飲食店にするとやっぱり大きいですよね。
一般的に精肉店は、歩留まり75パーから80パーセントぐらいでお肉を処理します。100パーセントが全体だとすると、歩留まり75パーということは、25パーセントはごみとして捨てているということ。食べられる、売れる商品が75パーセントあります。
私たちは歩留まり90パーセントぐらい使います。長時間煮込んで、柔らかくしてから使うとか、あるいはお店でミンチにしてハンバーグにするとか、そういう形で工夫できる部分があるから、歩留まりが上がっていく。すると、より安く提供できるようになります。ただし、技術と時間がかかり、誰でもできるわけではない。なので、この技術と時間が必要な作業を、店舗であえてすることで、歩留まりを上げて価格を下げるという企業努力をしています。
面倒くさいと、さっきから何回も言うんですけれども、
この面倒くさいことをあえてするのが仕事だと思うんです。
なぜお客様が飲食店に食べに来るのかというと、家でできないものを食べたいからという理由も大きいと思います。家でできない面倒くさいことを、あえて飲食店でしましょうということを、いつも私は飲食店の関係の人には言っています。メニューは、家庭では再現できないメニューにしましょうと。
在庫管理における食品ロスの発生要因その1 メニュー多過ぎ
中村:続いて、在庫管理における食品ロスの発生の要因とその防止について考えたいと思います。この在庫管理は、非常に簡単だと思うんですけれども、なぜ在庫管理でフードロスが発生するかというと、1つ目は、メニューが多いから、そして2つ目は人手不足だからではないでしょうか。
1つ目のメニューが多過ぎるということについて。皆さんの町にも、メニューの多さが自慢です、というお店があると思います。100種類ある!というような。私からすると、すごいなと思います。これだけ仕入れて、これだけ作れるんやと。でも、メニューが多過ぎると、何を注文されても大丈夫なように、在庫を多めに抱えることになってしまいます。
メニューは少なくても、お客さまは離れないと感じています。むしろ専門店のほうが、今の時代では流行ります。みそラーメンが食べたいと思ったときに、ファミリーレストランに行くのか、大衆的なラーメン屋さんに行くのか、みそラーメン専門店に行くのかだったら、みそラーメン専門店を選ぶ人が圧倒的に多いはずなんです。
メニューを増やすんじゃなくて、絞っていったほうが、全てにおいてメリットがあります。専門店ならではの集客ができるし、食材の数は少ないし、少なかったらオペレーションが簡単になるから、人も人材育成しやすいし、商品力も上げていきやすいんですよね。だからこそ、徹底的に自分が作れるおいしいものだけをメニューにしてほしいと思います。これがあったほうがいいかなといって、60点ぐらいのメニューを載せないということなんです。思いきってメニューは減らしていきましょう。
在庫管理における食品ロスの発生要因その2 人手不足
中村:人手不足。これも結構深刻な問題なんですよね。これの解決方法は、この3つかなと思っています。
1つめは、IoTとかAIとかのテクノロジーを活用する。これはちょっと大手じゃないと難しいかなとは思います。各商品のバーコードを読み取るなどして、仕入れの際に在庫が管理されるようなシステムを導入する。
2つ目は、人を増やす。簡単なようで難しい。人件費というお金がかかります。
ということで3つ目は、メニューを減らす。
私たちは、3つ目のメニューを減らす、ということだけをやっているのかというと、実は2つ目の人を増やすという方法も取り入れています。
有給休暇は完全取得
中村:われわれの飲食店では、最低必要な人数よりも、1人から2人多く採用しています。コストがかかるやん、ということなんですが、実は有給休暇は完全取得しています。4月から、有給の取得強化が始まりますよね。絶対に5日は取らないといけない。
うちは完全取得しています。
これは、必要最低限な人数よりも多く採用しているから、当然取れるわけなんですね。有給は、自分たちで管理してもらっていて、みんなに「この日、私は有給取ります」と宣言して、紙に書いてポストに入れたらオッケーという、超簡単なシステムにしています。
会社も体も心もメンテナンスが必要です。従業員が突然倒れたり、心の病気になったりして、明日からはバイトしかいないという状況の方がリスクだと思っています。何か起こった時に、その対象者に費用を投入するよりも、あえて先行投資で従業員の数を増やしておくことで、全従業員にその費用を使うことができる。何かが起こったときも、絶対に大丈夫と言いきれる経営をしてく。利益は長期的に考えると、実はプラスになる。そのほうが絶対に楽だし、こうすることでフードロスもちゃんと削減できるし、丁寧に経営を長く続けられるということです。
食品ロスゼロこそが人生100年時代に最先端の飲食店
中村:人生100年時代です。持続可能な飲食店を作らないといけない時代です。どんどん食品を捨てたり、その対策を放置したりしていると、どんどん取り残されます。今や、フードロスに取り組んでいますと宣言することすら、お客さまの印象を良くする時代です。私たちも公言しています。フードロスは限りなくゼロに取り組んでいる。肉寿司3貫セットは、握りだけのばらでは売れませんと、はっきりお客さんに言うんですよ。それで誰も怒らないです。
「あ、そうなんや」
「賢いね」
「じゃあ、それでいいよ」
と納得してくれはる、そんな時代なんですよ。
中村:先端を行くのであれば、このフードロスという当然でもあり最先端でもあるこのトレンドを押さえないといけません。
ぜひとも、この調理における食品ロス、在庫管理における食品ロスへの対策は、これから当たり前にできるように飲食店から率先してやっていってほしいなと思います。
取材を終えて
食品ロス削減は働き方対策につながる。そう信じるようになったきっかけの一つは2017年5月、中村さんの佰食屋へ取材に行ったことだった。
中村さんが、働くことと家庭とのバランスをきっちり取っている。その根っこには、幼い頃、飲食業で働く父親を遅くまで待ち「家族みんなで一緒に夕ご飯を食べたい」と強く願った実体験があるのには違いない。
中村さんの話を聴いて毎回思うが、全ての飲食店がこうなら、働く人はどれだけ幸せだろう。食品業界の中でも外食由来の食品ロスは多いが、このようなやり方ならほぼロスは出ないと思う。ましてやバイトテロのようなことも起こり得ない。バイトテロ対策で、スマホ禁止にするなどの対応も報じられたが、表面的で、食を扱う上での本質的な教育ではないように感じる。
自分が心底美味しいと思ったものを売っている中村さん。これこそ商売の基本ではないだろうか。
取材した東京都主催食品ロス対策セミナーの概要
日時:2019年3月7日(木)14:30~16:30
会場:TKP新宿カンファレンスセンター カンファレンスルーム5A
住所:東京都新宿区西新宿1-14-11 Daiwa西新宿ビル 4F/5F/6F
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