シリアでロシア空軍特殊部隊の司令官がアル=カーイダ系組織のシャーム解放機構によって殺害される
ロシア軍が5月26日、シリアで今年初めてとなる爆撃を実施した。
ロシア軍が異例の爆撃
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団や複数の反体制系メディアによると、爆撃が行われたのは、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を掌握し、事実上の支配を行っているシリア北東部のイドリブ県。シャーム解放機構、同組織が主導する武装連合体の「決戦」作戦司令室、中国新疆ウィグル自治区出身者から構成されるアル=カーイダ系組織のトルキスタン・イスラーム党と、シリア軍が現在も散発的な戦闘を続けるザーウィヤ山地方のフライフィル村一帯、スフーフン村一帯が標的となった。
一部活動家は、同地で「bomb」があったとするSNS上での書き込みを「爆撃」と誤訳し、シリア軍やロシア軍の非道が現在進行形で続いているとの宣伝を今も繰り返している。だが、ロシア軍とシリア軍、そしてトルコ軍とシャーム解放機構が主導する反体制武装集団のシリア北東部での激戦の末、2020年3月にロシアとトルコが停戦に合意して以降、ロシア軍(そしてシリア軍)は同地で爆撃を行うことはほぼなくなっていた。
爆撃の理由と思われる事件
この異例の爆撃の背景に何があるのか、そして何が標的だったのかは明らかではなかった。
だが、5月27日、ロシアのSNSにおいて爆撃の理由であろうと思われる事件についての情報が発信された。
ロシアのポドポロジエ町(レニングラード州)は、ロシア最大のSNSであるVK.comを通じて、シリア駐留ロシア軍の空軍特殊部隊に所属するオレグ・ヴィクトロヴィッチ・ピチヴェスティ大佐がシリアでの任務遂行中に死亡したと発表した。
同町によると、ピチヴェスティ大佐は、チェチェン、南オセチアなどでの任務にあたったのち、2020年にシリアに派遣され、空軍特殊部隊の司令官を務めていた。
また、日刊紙『ポドポロジスカヤ・プラウダ』(5月27日付)によると、ピチヴェスティ大佐は、5月25日にシャーム解放機構が行った攻撃によって死亡したという。だが、シリア人権監視団は、ピチヴェスティ大佐が5月26日に死亡したと発表している。
ピチヴェスティ大佐いつ、どこで殺害されたのか?
ピチヴェスティ大佐がいつ、どこで殺害されたのかは定かでない。だが、ロシア軍による異例の爆撃は、おそらくはピチヴェスティ大佐殺害への報復、あるいは殺害と何らかの関係があるものと推測できる。
なお、筆者が運営する「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」によると、25日に、シリア軍と「決戦」作戦司令室はラタキア県北部のクルド山地方カッバーナ村一帯で交戦、シャーム解放機構に所属するムアーウィヤ・ブン・アビー・サフヤーン旅団の司令官1人が死亡している。また26日には、「決戦」作戦司令室がラタキア県ハッダーダ丘やクカッバーナ村一帯のシリア軍拠点を砲撃し、兵士1人を殺害、1人を負傷させている。このことを踏まえると、ピチヴェスティ大佐は25日あるいは26日にラタキア県北部でのシリア軍と、シャーム解放機構あるいは「決戦」作戦司令室諸派との戦闘で死亡したものと推測できる。
追記
ロシア軍は30日にも、イドリブ県ザーウィヤ山バザーブール村近郊の民家などを爆撃、シャーム解放機構に近いホワイト・ヘルメットなどの発表によると、若い男性1人が負傷した。