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甘利大臣疑惑報道 テレ朝「週刊文春」明示せず異例の謝罪 全国紙は大半が明記

楊井人文弁護士
「週刊文春」と明示せずに放送したテレビ朝日「報道ステーション」(1月20日)

【GoHooトピックス1月27日】テレビ朝日は1月26日、「週刊文春」がスクープした甘利明経済再生相の金銭授受疑惑の記事内容を出所を明示せずに放送したことについて、ウェブサイト上に謝罪のコメントを掲載した。疑惑が報じられた当初、テレ朝の「報道ステーション」が「週刊誌の報道」などと媒体名を明示しないで具体的な内容を報じていたため、「週刊文春」編集部が抗議していた。従来、新聞・テレビが他のメディアのスクープを引用して報じる際、「一部週刊誌によると」などと具体的な媒体名を明示しないケースが少なくなかった。引用の形をとらず「盗用」の疑いでメディアが謝罪したケースは過去にもあるが、スクープを引用する形をとりながら媒体名を明示しなかったことを理由にメディアが謝罪した例はないとみられる。今回の抗議と謝罪は、マスメディアのスクープ後追い報道のあり方に一石を投じるものといえる。

週刊文春編集部が抗議した1月22日に放送された「報道ステーション」の一画面
週刊文春編集部が抗議した1月22日に放送された「報道ステーション」の一画面

疑惑は20日午後4時、「週刊文春」電子版が翌日発売する1月28日号スクープ概要として速報。同日夕方以降、放送各局がニュース番組で取り上げた。NHKは午後7時、9時のニュースで取り上げたが、いずれも「明日発売予定の週刊文春」と明示して報道。同日夜放送されたTBSの「NEWS23」、日本テレビの「NEWS ZERO」、フジテレビの「LIVE 2016」も同様に明示していた。他方、テレ朝の「報道ステーション」はナレーションや字幕で「明日発売の週刊誌」と引用の体裁はとったものの、「週刊文春」という媒体名に触れていなかった。21日の放送でも媒体名を明示せずに報道していた。

そのため、「週刊文春」編集部は22日、報ステ番組責任者に抗議文を送ったとウェブサイト上で発表。引用先を明示することが著作権法に定められていると言及しつつ、「報道に携わる者の倫理として、視聴者に正確な情報を伝えるという観点からも、引用先を明示することが求められる」と指摘。これを受け、抗議当日夜に放送された報ステは、「週刊文春」と明示し、雑誌を映した映像も取り入れて疑惑を取り上げていた。

テレビ朝日の謝罪文が掲載されたページ
テレビ朝日の謝罪文が掲載されたページ

テレ朝は「週刊文春」編集部が設けた回答期限の26日に謝罪文を発表。20日、21日の番組内で「週刊文春」と明示しなかったことを認めたうえで、「視聴者に正確な情報を伝えるなどの観点から、週刊誌名を明示すべきでした。週刊文春並びに視聴者の皆様にお詫びいたします」と表明した。ただ、「報道ステーション」という番組名には言及せず、掲載されたのも「報ステ」の公式ページではなく「テレ朝NEWS」というニュースサイトだった。26日夜の報ステの放送でも、この件への言及はなかった。

日本報道検証機構は、21日〜25日発行の在京6紙(読売、朝日、毎日、産経、日経、東京)が「週刊文春」のスクープを引用する際に出所を明示していたかどうかも調査した(下の表)。第一報が出た21日朝夕刊は、6紙とも「週刊文春」と媒体名を明記して疑惑を報道。見出しで「週刊文春」と明示した新聞も一部あった。22日以降の続報では、読売以外の5紙が疑惑の具体的内容を引用する際に「週刊文春」と明記していた。中でも、朝日は記事の内容を引用せず、疑惑の存在に触れただけでも「週刊文春」と媒体名に毎回言及していた。一方、読売は22日付朝夕刊、23日付朝刊の続報記事で「週刊文春」が報じた証言内容など疑惑の中身を具体的に引用していたが、「報道では…としている」「週刊誌記事は…としている」といった表記をとり、媒体名を明示していなかった(追記あり)。

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今回の「週刊文春」のスクープは録音などの証拠を独占的に入手しているため、他社が独自に裏付けをとることが困難なケースとみられる。こうした場合にスクープの内容を伝えるときは「引用」の形をとるほかなく、著作権法上、出所を明示しなければならない。「出所の明示」というためには、出所を特定できるだけの名称(題名など)を明記しなければならない、とされている(文化庁ウェブサイト「出所の明示」参照)。一方、スクープであっても他社が後で裏付けをとれた場合は必ずしも「引用」の形をとる必要はない。ただ、報道倫理の観点から、最初に新事実を発掘したメディアやジャーナリストに敬意を表し、報道経緯を記録するため、「最初に誰が報じたか」に言及すべきとの考え方がある(関連記事=【トピックス】小渕氏政治資金疑惑:週刊誌の特報を明記した新聞、しなかった新聞【コラム】朝日新聞よ、なぜ「他社の既報で明らかになった」と正直に書けないのか)。

【追記】読売新聞は22~26日の続報記事では「週刊文春」と明記していなかったが、テレ朝の謝罪の後で出た27日付朝刊の続報では「週刊文春」と改めて明示した。「出所明示の有無」の表は[http://gohoo.org/GoHooサイト]にて更新。(2016/1/27 11:35)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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