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【社説検証】読売・産経が石破首相退任を繰り返し要求 朝日・毎日より強く批判 総選挙から1週間

楊井人文弁護士
石破茂首相・新総裁(総選挙翌日の10月28日の記者会見)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 読売新聞が11月2日朝刊で石破茂首相・自民党総裁の退任を求める社説を掲載した。産経新聞も同日の社説で「自民は新執行部のもとで他党と協議に臨むのが筋」と主張。両紙の退陣要求は、総選挙直後の10月29日以来、2度目となる。

 読売は、躍進した国民民主党が3党協議に加わったことを「首相の延命」に手を貸すものなどと批判。一方で、従来、政権与党を厳しく批判してきた朝日新聞、毎日新聞は、石破首相続投を前提にした3党協議自体は批判していない。

 近く石破内閣は総辞職し、首班指名選挙を経て新内閣が発足する。主要紙の社説は自公連立政権の存続自体は容認しており、非自民・野党連合政権の樹立を求める意見は出ていない。

 15年ぶりの自・公過半数割れとなった総選挙から1週間。石破首相の責任論や今後の政権枠組みについての主要各紙の主張を整理、検証した。(以下、引用はすべき社説。最後に社説のリンク集あり)

読売新聞の社説(右)と産経新聞の社説(左)いずれも11月2日朝刊(筆者撮影)
読売新聞の社説(右)と産経新聞の社説(左)いずれも11月2日朝刊(筆者撮影)

石破首相の責任論 各社で論調分かれる

 読売は11月2日社説で「選挙で敗れた首相が責任を取って身を処し、後継の自民党総裁の下で、新たな連立の枠組みを模索するのが筋」と石破自民党総裁の交代を求めた。10月29日にも「大敗した以上、石破首相が取るべき道は明らかだ」「速やかに進退を決することが憲政の常道」と主張していた。

 産経も11月2日社説で「石破首相と森山氏は辞任し、自民は新執行部のもとで他党と協議に臨むのが筋だ」と指摘。「衆院選に大敗した石破茂首相(自民総裁)と森山裕幹事長が何の責任も取らずに協議を進めるのは、異様な光景というほかない」と厳しく批判した。選挙直後も「大敗の責任をとらずに、石破首相が政権に居座ろうとするのは信じがたいことだ。責任をとって潔く辞職すべき」(10月29日)と題し「石破首相が今、日本と国民、党のためにできることは速やかに辞任することしかない」と明確に辞任論を展開していた。

 朝日も当初「自ら設定した最低限の目標を達成できなかった以上、石破首相は職を辞すのが筋だ」(10月28日)、「選挙の結果責任を負うのは、本来、トップのはず」(10月29日)と首相責任論に言及していた。だが、石破首相続投を前提にした国民民主党との3党協議が始まったことには「理解できる」(11月2日)と述べ、首相責任論に言及しなかった。責任論をトーンダウンさせたとも見える。

 毎日は「現政権が民意の信任を得られなかった形だ。政権トップとしての首相の責任は重大である」(10月29日)と指摘はしたものの、これまでのところ辞任が必要との認識までは明確に示したことはない。

 中日(東京)は「自民党惨敗の責任を石破氏1人に帰することはできない」(10月28日)、「自ら掲げた与党過半数の目標を下回った以上、退陣論が出るのはやむを得まい」(10月29日)との言及にとどまり、社論として辞任は求めていない。

 日経は「石破茂首相らの責任論は避けられない」と指摘したが、辞任までは求めていなかった(10月28日)。

野党連合政権を求める社論なし

 総選挙の結果、自公過半数割れとなったため、1回目の首班指名では決まらず、決選投票にもつれこむ見込みだ。

 今後の政権枠組みはどうなるか。理論上は、①自公政権(少数与党)、②自公に野党を加えた新しい連立政権(多数与党)の枠組み、③非自民・野党中心の連立政権、④2大政党(自民・立憲)の大連立、という選択肢があり得る。

筆者作成
筆者作成

 読売は、石破首相続投を前提にした3党の政策協議が10月31日に合意されたことを批判。政策協議に加わる国民民主に「正式に連立への参加を求めるべき」と主張する一方、決戦投票で玉木代表に投票する方針に「首相の延命に手を貸し、有権者の理解が得られるのか」と批判した(11月2日)。当初は「野田代表が野党を糾合し、政権交代を実現できるかどうかが焦点」(10月28日)と、政策一致を条件に野党連合政権の可能性も全面否定はしていなかった。

 産経は「石破首相と森山氏は辞任し、自民は新執行部のもとで他党と協議に臨むのが筋だ」(11月2日)と主張。だが、連立拡大など新たな政権枠組みのあり方について具体的な主張はしていない。

 朝日は、「抜本的な政治資金改革を抜きに、政権参画を優先するようなことがあれば、国民の信頼を失うだけだろう」と国民民主と維新の連立参加に否定的な見解を示した。他方、「野党勢力を糾合して政権交代を迫るのか、是々非々で政策の実現をめざすのか」と問いかけるだけで、野党連合政権樹立論も打ち出さなかった(10月28日)。政策協議については「課題ごとに与野党が熟議を重ね、多数の賛同を得て政策の実現をめざしていくのであれば、望ましい動き」(11月2日)と基本的に歓迎する考えを示した。

 毎日も政権枠組みのあり方について具体的な主張はしていない。自公政権存続を前提にした3党の政策協議について「少数与党が政策実現のために多数派を形成する必要性は否定しない」と述べつつ、「野党第1党の立憲民主党をはじめ各党と対話を進めるのが筋だ」(11月1日)と国民民主とだけ政策協議を進める枠組みには否定的な考えを示した。

 中日・東京も、野党側の「政権準備が不足していたことは残念でならない」(10月29日)と指摘し、野党連合政権への期待を示さなかった。3党政策協議については「自民党が野党第3党にまっ先に触手を伸ばしたのは、議会制民主主義の王道とは言い難い」(11月1日)と批判。立憲民主など幅広く野党と協議する「熟議の国会」に立ち戻るべきと主張した。

国民民主の "減税" 政策に批判も

 国民民主党は自公政権への協力の条件として「年収の壁」の引き上げ、ガソリン税を一時的に下げる「トリガー条項」の発動などの政策実現を求めている。

 だが、7兆円超の税収減になるとの「政府試算」を各社が一斉に報道。資料の出所や算出根拠が不明で、税収増などが考慮されていないが(筆者コメント)、社説では否定的な論調が大勢となりつつある。

 明確な反対論を示したのは朝日。「国民民主の掲げる減税策は弊害があまりに大きく、妥当性や財源を厳しく吟味しなければならない」(11月2日)と批判した。引き上げ幅が大きすぎ「物価上昇率を参照するのが筋」とし、トリガー条項発動も問題が多いと指摘した。

 読売は「財源問題が棚上げとなり、バラマキが横行しかねない」と否定的な見解を示した(11月2日)。

 毎日も「バラマキの側面が強く、政府は7兆~8兆円の税収減につながると試算している」(11月1日)とやや否定的な見方だった。

 中日・東京は「大規模減税になる」「高所得者ほど減税の恩恵が大きいという不公平感も指摘される」と指摘(11月1日)。

 産経は「税制改正を行う場合は、税制全体との整合性を図ることも求められる」との指摘にとどめた(11月2日)。

今後の焦点

 総選挙を実施した後は、新たな国会の信任を得た政権の形成プロセスに入る。

 現在の石破内閣は、11月11日にも招集される特別国会の冒頭で総辞職するルールとなっており(憲法70条)、首班指名選挙で選ばれた首相が新内閣を発足させることになる。

 現時点で、自公両党が推す候補が首相に選ばれる可能性が高く、自民党内で石破総裁の交代を求める動きは表面化していない。このまま大きな動きがなければ、石破総裁が選ばれ、第2次石破内閣が発足する見通しだ。

 石破首相はすでに、防災庁設置準備室の設置、経済財政諮問会議の開催、国民民主との政策協議など、続投を前提にした動きを強めている。

 だが、首班指名選挙までまだ1週間あまりある。

 読売、産経の両紙がそろって石破氏退任を改めて要求し、国民民主が求める政策実現の見通しも不透明となってきた。今後の情勢は予断を許さない。

《読売新聞の社説》

与党と国民民主 信を失った首相に協力はなぜ(11/2)
自民歴史的大敗 首相は責任の重さを自覚せよ(10/29)
衆院選自公惨敗 長期政権の驕りが不信招いた(10/28)

《産経新聞の社説》

自・国の政策協議 石破執行部に資格あるか(11/2)
国民の審判 首相の居座りは許されぬ 直ちに辞職し新総裁選出を(10/29)
与党「過半数割れ」 審判を重く受け止めよ 安定した政権の構築を求める(10/28)

《朝日新聞の社説》

3党政策協議 妥当性の吟味を怠るな(11/2)
首相続投表明 信失ったままでは困難(10/29)
自公過半数割れの審判 国民から首相への不信任だ(10/28)

《毎日新聞の社説》

自民が国民民主と協議 政治改革より数合わせか(11/1)
自公惨敗と日本政治 不信拭う改革が最優先だ(10/29)
自公が衆院過半数割れ 「政治とカネ」に重い審判(10/28)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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