小渕氏政治資金疑惑:週刊誌の特報を明記した新聞、しなかった新聞
10月16日発売の週刊新潮が小渕優子経産相(当時)の政治資金疑惑を特報したことをきっかけに、小渕氏は辞任に追い込まれた。この特報は主要メディアが一斉に後追いし、大半が初報段階で「新潮」に言及していたものの、読売新聞だけが「新潮」に言及せずに記事にしていたことが、日本報道検証機構の調査でわかった。読売新聞社は当機構の取材に対し「読売新聞独自の判断で取材したもの」と説明している(調査対象は東京本社最終版)。
小渕氏の政治資金疑惑については、毎日新聞が一足はやく15日付夕刊で初報を出した。同日夜には、共同通信と時事通信が初報を配信。読売、朝日、産経、日経の各紙は16日付朝刊で初めて取り上げた。読売以外の主要メディアの初報はすべて「新潮」が疑惑を報じることを明記していた。見出しで「週刊誌報道」に言及したのは毎日、朝日、共同、時事の4社。
一方、読売新聞は16日付朝刊の初報で、小渕氏の政治団体が「2010、11年、東京・明治座で開いた『観劇会』で集めた会費収入が計約742万円だったのに対し、明治座に支払った金額を計約3384万円と計上していたことが政治資金収支報告書から分かった」と報道。独自に政治資金収支報告書を調べて判明したかのように読めるが、その内容は「新潮」で報じられた事実関係と一致していた。通常、独自取材での特報は大きく取り扱われるが、読売の初報は第2社会面の一番下に見出し2段。主要紙の初報で最も地味な扱いだった。同紙は16日付夕刊以降も続報を出し続けているが、22日現在、週刊誌報道がきっかけだったことは書いていない。
読売新聞社広報部は当機構の取材に対し、21日、FAXで「読売新聞独自の判断で取材したもの」と回答。だが、週刊新潮の報道を知る前に独自に疑惑を調査していたのかどうかは明言を避けた。回答では、小渕氏が15日夜にこの疑惑で取材を受けていたことも指摘していたが、この取材は15日付毎日新聞夕刊が初報を出した後で、夕方には週刊新潮のメールマガジンも特報を予告していた。
10月5日急逝した元共同通信論説副委員長の故藤田博司氏は、著書『ジャーナリズムの規範と倫理』で、日本の報道現場には「競争関係にある他のメディアに報道を先行され、それを後追いする際に先行された事実を伏せ、あたかも自社の報道が初めてのものであるかのように伝える手法」があり、「公正さに欠ける」と指摘していた。同書によると、米紙ニューヨーク・タイムズの指針には、後追い報道で独自に取材をしたとしても「他社の報道が特報であれば、礼儀と率直さの問題として、他社が特報した事実を明らかにする」と規定されているという。
【読売新聞社広報部のコメント全文】
当該記事は、読売新聞独自の判断で取材したものですが、取材ならびに記事掲載の経緯は、従来お答えしておりません。なお、小渕経産相(当時)は当該記事が掲載される前日の10月15日夜、この問題について多数の報道機関の取材に応じています。
「朝日新聞が新潮に言及せずに報道」は誤解
この特報をめぐっては、月刊誌『WiLL』編集長の花田紀凱氏が、Yahoo!ニュース個人のコラムで、朝日新聞が「新潮」に言及せずに「朝日新聞の調べでわかった」と報じていたことを問題視し、広報部に問い合わせたことを明らかにした(Yahoo!ニュース個人・花田紀凱氏「またも朝日がパクってる。」)。花田氏は当機構の指摘を受け、誤りを認め、訂正した(Yahoo!ニュース個人・花田紀凱氏「訂正します。」)。朝日は17日付朝刊で、2005年から11年までの「観劇会」の収支の差が合計約5330万円に上るとの「続報」を出した際「朝日新聞の調べでわかった」と書いていたが、この金額は「新潮」が報じた額を上回っており、疑惑浮上後に朝日が独自に調べた可能性がある。
一方、初報で「新潮」に言及した毎日新聞も、16日付朝刊の続報では「小渕優子経済産業相の資金管理団体が、実姉の夫が経営する東京都内の服飾雑貨店などに『品代』として2008年からの5年間で38回、計約362万円を政治資金から支出していることが分かった」と報道。記事に「毎日新聞は小渕氏の資金管理団体『未来産業研究会』の領収書を情報公開請求し、開示対象となる09~12年の領収書を入手。公開されている08年の政治資金収支報告書と併せて5年分の支出を分析した」と書かれていることから、毎日は「新潮」の報道より前に情報公開請求で資料を入手し、疑惑浮上後に資料分析をした可能性がある。