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「白票も意思表示になる」は本当? 白票数の報道は例外的 #総選挙ファクトチェック

楊井人文弁護士

総選挙の投票日を前に、「白票でもいい。まずは投票を」とか「白票も意思表示になる」といった言説や記事が流れている。誰も候補者名を書かない「白票」の数が発表されたり、報道されたりすることは、国政選挙では稀だ。過去に「白票」数が注目されたのは自治体の選挙で、主要政党が候補者を出さないなど例外的なケースだった。

無効投票数=白票数ではない

白票は無効票となる。各自治体の選挙管理委員会は開票結果とともに「無効投票」数を発表しているが、イコール「白票」数というわけではない。

候補者名以外の余計なことを記入した場合など、いくつもの無効事由がある(公職選挙法68条)。そのため、発表される「無効投票数」は、白票に限らず、様々な理由での無効票を全部まとめた数だ

例えば、前回の2021年総選挙における東京都選挙管理委員会の開票結果資料を確認すると、「無効投票数」は記されているが、その内訳は記されていない。

無効投票の内訳は、各自治体の選管が後日作成する詳細な選挙記録に掲載される。

2021年総選挙に関する全国版の記録は、2年以上たった今年2月に公表された(総務省サイト参照)。

全国の小選挙区の「無効投票数」は約144万票あったが(無効投票率2.45%)、このうち「白紙投票」は約85万票で、無効投票の59%だった。無効投票は11通りの事由に分類されていた。

《2021年総選挙の無効票の内訳》

総務省「令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙 最高裁判所国民審査 結果調」(2024年2月)より
総務省「令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙 最高裁判所国民審査 結果調」(2024年2月)より

特に国政選挙では、無効票の内訳公表は、選挙が終わってからかなり後のことで、報道されることも稀だ。

主要メディアの開票結果を伝えるサイトでも「白票」数は掲載されない(NHK2021年総選挙サイトなど)。

報じられるとしても、局地的に通常より多いことが判明した場合などに限られる。

前回の2021年総選挙直後に「白票」に着目した記事は、奈良3区で前回より3倍(読売新聞大阪本社版11月2日)、愛知11区で前回の2.5倍(中日新聞11月2日)が確認できた程度だった。

「白票」数が発表・報道されない限り、意思表示として表面化することもない。有効投票の結果に影響を与えることもなく、選挙制度上は、投票に行かない「棄権」と実質的に同じだ。

もっとも、選挙直後に「白票」数が「意思表示」として大きく注目され、報じられたケースがないわけではない。それは自治体選挙での極めて特殊なケースである。

「白票数」が大きく報じられた例外的なケース

「白票数」が選挙直後に注目された事例として、2014年の大阪市長選が挙げられる。現職の橋下徹市長(当時)が「大阪都構想」の是非を市民に問うとして辞職して実施された、いわゆる「出直し選挙」だ。

この手法は当時、批判を浴び、他の主要政党が対抗馬の擁立を見送ったことで、選挙戦はかなり低調となった。

3月23日の投開票の結果、投票率は過去最低の23.6%だった。

このときは選挙の正当性が問われ、メディアが無効票の動向に注目していたこともあり、市選管が開票直後に白票数を明らかにしたようだ(産経新聞2014年3月24日)。NHKは選挙結果を伝えるニュースで「白票」についても報じていた。

大阪市長選 橋下徹氏が2回目の当選 投票率は23.59% 過去最低

「大阪都構想」をめぐって、橋下徹(ハシモトトオル)前市長が辞職したことに伴う大阪市長選挙は、きのう、投票が行われ、橋下氏が2回目の当選を果たしました。

 投票率は23%あまりで過去最低となりました。

(中略)

 今回の市長選挙は、橋下氏が、都構想の実現に向けて具体的な道筋をつけるためには市民の後押しが必要で、改めて市長選挙を実施したいとして、先月、辞職したことから行われました。

 これに対し、市議会に議席を持つ政党のうち、大阪維新の会以外の各党は「市長選挙を行っても、市議会の構成など、『都構想』を取り巻く状況は変わらず、選挙には大義がない」などとして、候補者の擁立を見送りました。

 こうしたこともあって、市長選挙の投票率は、投票率は23・59%と、平成7年の選挙の28・45%を4・86ポイント下回って、過去最低となりました。

 また、市の選挙管理委員会によりますと、無効票は、投票総数の13%をこえる6万7000票あまりと異例の多さで、このうち、4万5000票あまりは投票用紙に何も書かれていない白票だったということです

(NHKニュース 2014年3月24日、太字は引用した筆者)

その後、「橋下さんへ抗議の白票 大阪市長選 市民『間違い気づいて』」(読売新聞3月24日)など、「白票」を有権者の意思表示と捉えた報道が相次いだ。

最近、Yahoo!ニュースに「『白票』は、政治家を脅かす十分な威力を持っています」「『白票』は何も書かれていない真っ白な紙などではなく、『あなたを評価していません』という強烈なメッセージだからです」という橋下徹氏の発言を含む記事(元はプレジデント・オンラインの記事)が配信されたが、2014年大阪市長選の経緯を知った上で、発言の意味を理解する必要があるだろう。

《まとめ》

通常は、「白票」数がすぐに発表されたり報道されることはない。無効票には「白票」以外の理由で無効となった票も多く含まれており、その内訳はすぐには分からないことが多い。

ただ、局所的に特定の選挙区で異常な「白票」数が判明した場合は、報じられることがある。

「白票」が有権者の意思表示と関連づけられて報道されるのは、他の政党が対抗馬を出さず、選挙の正当性自体が問われた自治体選挙など、特殊な例に限られる。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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