「培養肉」でウナギの蒲焼きが実現か
資源や環境などの問題解決に関し、遺伝子技術で培養したり植物材料から作られたりするなどした代替肉が話題になっている。最近、イスラエルのバイオベンチャーが、ウナギの培養肉を開発したという。
培養肉とは
食糧問題は人類喫緊の課題だが、近い将来、食肉の供給が十分できなくなると同時に、食肉生産による環境負荷が問題になってもいる。そのため、いわゆるサステナブルな食材として、遺伝子技術で培養したり、植物由来のタンパク質などで作られたりする代替肉が実用化されつつある。
ウシやブタなどの細胞を培養し、細胞組織を人工的に作り上げて、ステーキのように成形する培養肉の技術がある。最近では3Dプリンターを応用したり、ゼラチン質や脂質などを組み合わせたりして実際の肉質に近づける技術も開発されている(※1)。
資源量が少なくどんどん高くなっている食材といえば、ウナギだろう。ウナギ好きな日本人は多いが、ウナギの蒲焼きは日本独自の食文化といえる。
国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギ(Anguilla japonica)をレッドリスト(絶滅危惧種)に指定したのは2014年6月だ。同年9月のIWC(国際捕鯨委員会)では、ニホンウナギの資源を守るため、日本、中国、韓国、台湾の4国が養殖に使う稚魚(シラスウナギ)の量を20%削減することで合意した。
ウナギの完全養殖には2023年7月に近畿大学水産研究所が成功しているが、シラスウナギまで育成すること、大量に養殖するまでにはいたっていない。シラスウナギを大量に育成し、コストを抑えることができるのはまだ先のようだ。
また、深海で生まれた自然状態のシラスウナギを沿岸部で捕獲し、成魚まで育成する養殖の過程では、抗生物質などの抗菌性薬剤を使用することが多い。これらの薬剤は、輸入ウナギを含むウナギの加工品などから見つかっている(※2)。
ウナギの培養肉を実現
今回、イスラエルのテルアビブ大学発のバイオベンチャー、Forsea Foodsがウナギの多能性幹細胞から培養し、脂肪組織と筋肉組織が自発的に3D形成するオルガノイド技術を用い、ウナギの培養肉を作成することに成功した。自然状態のように幹細胞へ成長因子と栄養を与え、細胞組織を分化させるため、細胞培養に必要な足場材(ポリスチレンなど)がいらず、低コストで効率的に培養肉を生成することができるという。
低コストの理由は、足場材が不必要なだけではなく、細胞分化のための成長因子や栄養を最小限に抑えることができるからだそうだ。例えば、鳥類の卵はそれ自体で自発的に細胞分化を始めるのと同じだという。そのため、脂肪や筋肉などへの分化も自発的に起き、単純な機構ですませることができる(※3)。
iPS細胞などを使った人工臓器の生成には、オルガノイド培養による3D細胞を凝集させる技術が必要だが、同社は凝集プロセスを最適化させることで実際のウナギと同じような肉質や食感の培養肉を作ることができたという。これらの技術はすでに特許取得済みだそうだ。
同社は今後、アジア市場でのウナギの需要に対してファクトリーベースでの量産を目指し、抗菌性薬剤などを使わないウナギの安全な培養肉の供給を目指すという。
※1:Milae Lee, et al., "Cultured meat with enriched organoleptic properties by regulating cell differentiation" nature communications, 15, Article number: 77, 2, January, 2024
※2:Hiroshi Koike, et al., "Monitoring of residual antibacterial agents in animal and fishery products in Tokyo from 2003 to 2019: application and verification of a screening strategy based on microbiological methods" Food Additives & Contaminants: Part B, Vol.14, Issue1, 13, January, 2021
※3:Michelle Hauser, et al., "Challenges and opportunities in cell expansion for cultivated meat" Frontiers in Nutrition, Vol.11, 7, February, 2024