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女性インスタグラマーがバーで撮影だけして批判の嵐! カクテルを全く飲まなかった4つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

バーの訪問

バーに訪れることはありますか。

バーはディナーの後に2軒目以降として訪れたり、ディナーの前に食前酒を飲むために訪れたりすることが多いです。ウイスキーなどハードリカーが充実したバーは重厚で大人の雰囲気があり、古酒を揃えたワインバーは知的なムードを醸しています。一般的には、リキュールがたくさん置いてあり、様々なカクテルをつくってもらえるバーがイメージしやすいでしょう。

バーではカクテルを飲むことが想起されますが、まいどなニュースの記事によると、バーでカクテルを注文したある客の行動に対して、大きな批判が起きました。

自慢のカクテル、インスタ投稿後一滴も飲まずに帰った女性客 「作品を目の前で破かれた」バーテンダーが怒りの投稿/まいどなニュース

インスタグラマーがオーダー

その客とは海外から来日したという、女性2人のInstagramer=インスタグラマー。2人は、1900年前後のアメリカのバーの雰囲気を再現した、大阪の人気バーを訪れました。1杯ずつカクテルをオーダーして撮影し、Instagramに投稿します。投稿が終わっても飲んでいないようなので、チーフバーテンダーが声を掛けたところ、返事はなく会計して退店したということです。

チーフバーテンダーがTwitterに手付かずのカクテルと悲しみの言葉を投稿したところ、反響がありました。

反応のほとんどは「もったいない」「ひどい」「食べ物を粗末にするのは許せない」など、インスタグラマーに対するネガティブな意見で埋め尽くされています。

食べ残しや飲み残しがいけない理由

食べ残したり、飲み残したりすることはどうしてよくないのでしょうか。

それは、食品ロスが生じたり、つくり手へのリスペクトが欠如したりしているからです。

前者について説明しましょう。世界ではSDGs(Sustainable Development Goals)のターゲット12.3で食品ロス削減が目標に掲げられており、日本では2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」=「食品ロス削減推進法」が施行。世界が食品ロス削減に努めているにもかかわらず、食べ残しや飲み残しを行うのは、その潮流に逆行する行為となります。日本の「もったいない」精神は、環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のワンガリ・マータイ氏が「MOTTAINAI」精神として世界に広めましたが、これにも反する考え方でしょう。

後者については、料理人や菓子職人、バーテンダー、そして食材や食品の生産者といったつくり手に対する尊敬の欠如が問題。食材を生産したり、食品を開発したりするにも手間や時間がかかります。こういった食材や食品に生産者の想いをのせ、料理人や菓子職人、バーテンダーなどが、ゲストに喜んでもらえるようにと、商品として紡ぎ上げているのです。つくり手は、ただゲストに見てもらうためだけに、食材や食品、商品をつくっているのではありません。ゲストに食べたり飲んだりしてもらうためにつくっているのです。したがって、写真を撮るためだけに注文され、一口も食べられないことは非常に心苦しく思います。

もちろん、どうしても食べたり飲んだりできなければ仕方ありません。ただ、食品ロスやつくり手へのリスペクトを念頭に置いた上で残しているか、全く考えずに残しているかは、大きな違いです。

メディアの取材

インスタグラマーは自分のコンテンツをつくるために撮影して投稿し、全く口を付けずに残しました。インスタグラマーではなく、メディアがコンテンツをつくる際には、どのようになっているのでしょうか。

テレビや雑誌、インターネットの記事などの取材でも、もちろん商品を撮影します。食べたり飲んだりしている様子を撮る時もあれば、単体や集合を撮る時もあります。後者の場合でも、撮影が終わった後に、そのまま廃棄することはほとんどありません。だいたいは出演者やモデルが食べたり飲んだりします。ただ、出演者やモデルが食べ終えなければ、ディレクターやAD、カメラマンや音声担当、編集者やライターなど、スタッフみんなで食べるのが一般的です。

何店も取材してお腹が一杯になったり、時間が押してすぐに退店しなければならなかったりする場合には、懸命に食べても残してしまうことがあります。しかし、全く手付かずということはありません。

そもそも全く食べたり飲んだりしなければ、食味や食感がわからないので、コンテンツを制作するのは難しいのではないでしょうか。

どうして飲まなかったのか

インスタグラマーが撮影して投稿したのは、件のバーの雰囲気やカクテルがインスタ映えするからです。

では、どうしてカクテルを全く飲まなかったのでしょうか。せめて一口だけでも飲んでいれば、口に合わなかったのではないかと類推できます。しかし、全く飲まなかったのは非常に不可解です。

理由として考えられるのは、次のこと。もうお酒を十分に飲んでいたのでこれ以上飲めなかったり、急用やスケジュールの事情から飲む時間がなかったり、もともとお酒が飲めない状況や状態であったり、そもそもカクテルに興味がなかったり、ということです。

これら4点を考察していきましょう。

これ以上お酒を飲めなかった

お酒をもうこれ以上飲めなかったということであれば、飲めないことを承知していて、意図的に残すつもりで注文したということです。

飲んでいる途中にもうこれ以上飲めないと思えば、残りを飲めなかったとしてもまだ理解できます。しかし、最初から飲めないことがわかっており、一口も飲まないことを前提にして注文するのは理解できません。

もう飲めないのは仕方ないとして、それでも注文して飲みもせず、自身の体験としてInstagramに投稿することに何の意味があるのでしょうか。

飲む時間がなかった

飲む時間がなかったという可能性も考えられます。予定が詰まっていたり、もしくは、急用が生じたりして、できるだけ早く退店しなければならなくなった場合です。

チーフバーテンダーの記述によると、特に急いでいる様子はなく、声を掛けてからすぐに退店したとあります。したがって、予定が詰まっていたり、急用が発生したりして、飲む時間がなかったのではないでしょう。

もしも、いくら時間がなかったとしても、旅先で訪れた一期一会のバーです。最低でも味見程度に一口くらいは飲むのではないでしょうか。

お酒を飲めなかった

もともとお酒が飲めなかったとも疑われます。

宗教の忌避、および、妊娠やアレルギー、病気などの健康的な理由、体質的な問題の場合です。そうであれば、一口も飲まなかったことは腑に落ちます。

ただ、もともとお酒が飲めないことを承知でバーへ訪れ、Instagramに投稿するためだけにアルコールが入ったカクテルをオーダーして、最初から全て残すつもりであれば、非常に残念な考え方です。もともとお酒が飲めないのであれば、普通は自らがお酒をメインとするバーなどの業態に訪れないもの。訪れたとしても、ノンアルコールドリンクを注文するでしょう。

コロナ禍の影響で、最近ではノンアルコールドリンクも充実してきました。しかし、バーはレストランと違って、アルコールドリンクが中心です。お酒が飲めないにもかかわらず、ノンアルコールではなくアルコールをあえて選択していたのであれば、残す前提で注文したということになるので賛同できません。

カクテルに興味がなかった

最後は、そもそもお酒に興味がなかったという場合。

お酒を飲むことが可能であったとしても、お酒が好きではないので飲まないというケースです。ビール、ワイン、日本酒など他のお酒は好きだけれども、カクテルは好きではないという場合も含みます。インスタ映えするものを選ぶことが最優先となっていること、加えて、本来は飲めるのに嗜好性からあえて飲まなかったということで、かなり悪質であるように思います。

本当は好きではなく、全く手を付けずに残していたにもかかわらず、Instagramではさもおいしく飲んでいるようにみせていることは、演出を超えているのではないでしょうか。

発信者になるには

件のインスタグラマーがカクテルに口を付けなかった理由を考察してきました。

ただやはり、どの理由であったとしても、納得に値するものではなかったように思います。いずれかの理由に該当したとしても、全く飲まずに退店することを妥当であると受け入れるのは難しいのではないでしょうか。

インスタグラマーは発信者です。発信者は、何かしら発信するための素材があってこそ、自身が発信者となれます。食を発信するインスタグラマーであれば、その素材とは商品であり、スタッフであり、飲食店そのもの。件の事案においては、カクテルであり、バーテンダーであり、バーです。

客は神様ではありませんが、客が店に阿る必要もありません。基本的にお互いは何かを奪い合う関係にあるのではなく、その時その空間を最高の食体験に紡ぎ出すための同志であるといえます。

真のインフルエンサー

自身のコンテンツのために食を発信するインスタグラマーなどのインフルエンサーは、食に対して最低限の尊敬の念を払うべきです。

それには、つくり手が織りなした作品を五感で体験することが極めて重要。五感なので見るだけでは足りず、食べたり飲んだりする必要があります。全てを食べたり飲んだりすることは難しいとしても、一口だけであれば体験することは可能なはず。それも難しければ、そもそもコンテンツとして発信することに説得力をもちません。

少なからぬインフルエンサーの中には、件のインスタグラマーのように、本来は食べられないもの、本来は好きでないものを、あたかも自身が普段から食べていたり、好きであったりすると公言し、発信することがあります。

しかし、SNSが発達し、情報量が膨大となった現代では、こういった欺瞞はすぐに露呈し、指摘されることでしょう。その商品を本当に好きであったり、本当に食べていたりする方こそが、真のインフルエンサーになれるのだと思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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