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紅白歌合戦 司会の大泉洋が二年連続「ブラボー!」と叫んだ歌手は誰か

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:アフロ)

大泉洋は二年連続の司会

紅白歌合戦の司会に、大泉洋が二年連続で登場していた。

2022年の大河ドラマで「鎌倉殿」源頼朝を演じるからだろう。

紅白の審査員にはその妻・北条政子役の小池栄子も登場していた。

司会者に紅白の区別がなくなる

2021年は「紅組司会」「白組司会」という区分けを廃して、司会者三人(大泉洋、川口春奈、和久田アナ)は紅白の区別なく、歌手みんなを応援して進行していく、ということになっていた。

何度か和久田アナがそう説明していた。

前年2020年の司会は、ウッチャン(内村光良)が総合司会、白組の司会が大泉洋で、紅組の司会が二階堂ふみであった。

白組司会は、白組の歌手を紹介し、また、白組勝利をめざす方向で司会進行をするものであった。

ただ、「白組の勝利をめざしている」というのは、ほんとどうでもいいタテマエで、そんなこと子供でもわかっていて(私の場合でいえば1965年ころから知っていた)、だからこそ大人が無理してそういうふうを装っているのが妙に楽しかった覚えがあるのだが、まあ、そうも言ってられないのだろう。

2020年 無観客の紅白を盛り上げた大泉洋

大泉洋の司会はなかなか陽気である。

ときに騒がしく、けたたましい。

2020年は無観客開催であった。

だだっぴろいホールに誰もいない景色が何度も映し出され、その無人の空間に向かって歌手は歌っていた。

そこで、大泉洋が「観客代理」としてはしゃいでいるのは、ある意味、救いにもなっていた。

2020年 二階堂ふみの「苦労」

この年(2020年)はメイン司会三人にアナウンサーが入っておらず、ウッチャン&大泉洋は、ときに台本からはずれてはしゃいでしまっていて、それを修正してきちんと進行する役を二階堂ふみが一人で担っていた。

予定にない喋りをする二人を遮り、でも芸能界の先輩なので「いいですか」との断りを入れて進行する二階堂ふみは、なかなか大変そうだった。

あらためて、プロのアナウンサーは断りを入れずにすっと入りこむのだなあとかえって感心したくらいである。

大泉洋とウッチャンで「ブラボー!」の掛け合い

紅白歌合戦は「合戦」だけあって、前半は軽めに進行し、うしろになっていくほど重厚になっていく。そういう作りになっている。

2020年の大泉洋も、前半はやや抑え気味で、後半にどんどん弾けていった。

後半になって「ブラボー!」と叫ぶようになったのだ。

ただ、大泉洋ひとりでやっていたわけではない。

ウッチャンとの掛け合いで「ブラボー!」を叫び合っていた。

ブラボー、ブラボーとこだまして、まるで興奮した動物のようであった。

内村&大泉 Superflyに「ブラボー!」

2020年、大泉が最初に「ブラボー!」と叫んだのはSuperfly(スーパーフライ)である。

「愛をこめて花束を」を歌い終わったとき、大泉洋が「ブラボー!」と叫び、負けじとウッチャンが「ブラボー!」、大泉が「ブラボー!」、ウッチャンが「ブラボー!」、大泉が「ブラボー! やばいおれ白組だ」と叫んでいた。

二人とも司会を放棄している。

二階堂ふみの苦労がおもいやられる。

でも、見ているほうは高揚する。

Superfly(スーパーフライ)の歌唱もすばらしかったけれど、でもこのとき伝わってきたのは、ウッチャンも大泉洋も、Superfly(スーパーフライ)が大好きなんだなあ、という気持ちである。

観客のいないところで、自分たちだけで歌手のナマ声を聞くと、それは叫びたくなるのだろう。気持ちはわかる。

石川さゆり「天城越え」に二人で「ブラボー!」

次のブラボーは石川さゆりだった。

2020年の石川さゆりは「天城越え」を熱唱し、たしかに盛り上がる。

歌い出す前から、大泉洋は興奮気味に、紅白といえば天城越えですよね、と力を入れて語り、石川さゆりが空を掴むように歌い終わって静かに頭を下げたとき「ブラボー!」と叫んでいた。

重ねてウッチャンが「ブラボー!」と叫び、負けずに大泉洋が「ブラボー!」と叫ぶ。

まるで山奥の猿である。李白が詩に残しそうだ。

二度目のブラボーのあと大泉は「ありがとー! さゆりー!」と叫んで、石川さゆりはそっちを見て頭を下げていた。

MISIAにも大泉「ブラボー!」

そして2020年の最後、MISIA(ミーシャ)が登場して「アイノカタチ」を歌い終わったあと、大泉は絞り出すように「ブラボー!」と叫んでいた。

このときは大泉だけのブラボーだった。ウッチャンは冷静に「大泉くん泣いてます、ふみちゃんも泣いてます」と語っている。

大泉洋が2020年、無観客の紅白歌合戦で「ブラボー!」と叫んだ歌手は3人だった。

Superfly(スーパーフライ)と石川さゆり、MISIA(ミーシャ)である。

白組司会、だから同時に白組応援団長でもあるが、大泉洋は紅組の3人を「ブラボー」していたのだ。

負けたのは洋ちゃんのせいじゃないの、と福山雅治に言われたり、2021年の司会開始のおり和久田アナに、今年は存分に紅組を応援してくださっていいのですよ、と言われていたのは、このことを指していたのだろう。

大泉洋のブラボー採点によると2020年の紅白は「紅組3:白組0」となる。

2021年は2番目の歌手から「ブラボー!」を叫ぶ大泉

そして先日の2021年の紅白司会。

大泉は2020年にも増してブラボーを連発していた。

開始早々、2番目に出てきた郷ひろみ、「2億4千万の瞳」を歌い、客席通路で踊り、最後は舞台で出演歌手が勢揃いして出迎え、歌い終わったところで「郷さん、ありがとうございましたー、ブラボー、ブラボー!」と叫んでいる。

まだ7時38分、番組開始から8分しか経ってなかった。

2021年の大泉ブラボーは最初から飛ばしていた。

高校生に向かってもブラボー

13番目に登場した天童よしみは「あんたの花道〜ブラバンスペシャル」と称し、大阪桐蔭高校の吹奏楽部をバックに歌いきった。

終わったとき、大泉は「ブラボー!ブラボー!すばらしかった! ありがとうございました、よかったよーみんな」と声をかけていた。

天童よしみの歌唱ももちろんだが、大泉がブラボーと声をかけたのは紅白の舞台できちんと演奏しきった(しかも揃って踊るように演奏しつづけていた)高校生に向けたものだったのだろう。

調子に乗って、高校生の一人に「今年一年を漢字一字にたとえると何ですか」とアドリブで聞いて、川口春奈に怒られていた。

でも女子生徒は「充実の実の字です」と答えて見事であった。

AIとmillennium paradeに「ブラボー!」

後半に入って,大泉はエヴァンゲリオン初号機に乗り込まされ、それから下りてすぐにAI(アイ)の「アルデバラン」を聞き、「ブラボー!アイさんありがとうございましたー」と叫ぶ。

横で聞いていた上白石萌音にいかがでしたかと聞いて、彼女が涙を拭っているので「泣いちゃってた」とまで発表していた。

この曲はいまの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の主題歌で、第一部のヒロイン安子を演じていた上白石萌音が、その主題歌を聞いて泣くのかとおもうと、安子の半生をおもいだして、見ているほうももらい泣きしてしまった。

その7つあと、millennium parade(ミレニアムパレード)が登場して『竜とそばかすの姫』のベル役だった中村佳穂とのユニットで、映画主題歌の「U」を歌った。

大泉洋は「ブラボー! かっこいい!」と叫んでいた。

常田大希はたしかにかっこいいとおもう。

中村佳穂もかっこよかった。

細川たかしに「ブラボー!」と叫んだあと一緒に歌う

その3つあとに細川たかしが登場。

同じ北海道出身だということで事前から盛り上がっていた大泉洋は、1曲めの「望郷じょんがら」が終わったところで、「ブラボー! ブラボー!」と舞台袖で叫んでいた。しかし、彼のマイクはオフで、中央のマイクが遠い音として拾っていたばかりである。

そのあと細川にうながされ、大泉は2曲目の「北酒場」を一緒に歌う。

細川たかしと当人の歌を一緒に歌うという、ある種の恐ろしい展開なのだが、大泉洋はかまわず熱唱、大泉洋はたしかに歌はうまいけれど、ただ歌がうまいというだけではプロの演歌歌手の歌唱とは絶望的な差があるわけで、そのことを感じさせてくれて、これはこれで興味深かった。

うまい、というだけでは、プロの世界ではほとんど意味をなさないということをまざまざと見せてくれた。とてもお祭りらしかったとおもう。

石川さゆり『津軽海峡・冬景色』にブラボー!

終盤に大泉の「ブラボー!」は連発される。

まず石川さゆり。

2021年の彼女は『津軽海峡・冬景色』を歌い上げる。

切々と歌いきったところで「ブラボー!」と大泉は叫び、石川さゆりは笑顔になってその声のほうを見たので、再び「ブラボッ!」と怒ったように連呼する。大泉の顔がアップで抜かれている。

石川さゆりは、大泉のほうに指をさしだし、小さく「ありがとうございます」と頭を下げていた。

石川さゆりはいいですねえ。

ありがとうを現在形で言うところも、日本の何かをつなぐ人として、とてもいいとおもう。

福山雅治に感動しすぎて、時を戻す大泉洋

そして白組最後の福山雅治で「ブラボー!ブラボー!」「すばらしかった。ありがとうございましたっ!」と声を裏返して叫び、涙を拭いていた。

福山雅治の歌にとてつもなく感激したようだ。ずっと泣いているのだ。

そのあと次の曲(一番最後の歌手MISIA)の紹介に川口春奈が入ってもまだ涙を拭い、もう紅白も終わりですかと感慨深げに川口が言っているのに、あーだめだ感動した、泣けるなあ、と福山雅治について語っていた。

勝手に時を戻していたのだ。

けん玉をやっていたぺこぱもびっくりである。

川口春奈も和久田アナも困惑気味であったが、大泉が自分の世界に入ると誰も止められない。

MISIAに「ブラボー! すばらしかったー!」

最後の最後、MISIA(ミーシャ)は2曲歌い、藤井風のピアノ伴奏で「Higher Love」を歌いきり、これは圧巻であった。

「ブラボー! すばらしかったー、ありがとうございましたー、すごかったねえー」と大泉は叫んでいた。

MISIAへのブラボーは、これは見ている人も多く同意するところだろう。

2021年大泉ブラボーは白3、紅4の7ブラボー

以上が2021年大泉洋のブラボーであった。全7ブラボーである。

郷ひろみ

天童よしみ(大阪桐蔭高校吹奏楽部)

millennium parade(ミレニアムパレード)

細川たかし

石川さゆり

福山雅治

MISIA(ミーシャ)

白組3ブラボー・紅組4ブラボーで、今年も紅組が勝っている。

そして実際に、紅組は2020年につづいて連覇であった。

「ブラボー!」としか叫ばない大泉洋

あらためて、大泉洋には、ブラボー以外のほかの掛け声はないのか、とちょっとおもってしまう。

ずっと「ブラボー」だけで、ほかの叫び声を使わない。

あきらかに語彙不足である。

でも、そういうことを気にせずに、感動したらとにかく叫ぶという行為が大事なのだと、それもまた切実におもう。

その勢いが周囲に力を及ぼすわけで、大泉洋はそういう動物性が抜きん出ているから、多くの人を巻き込めるのだろう。

つきぬける、という彼の力量をあらためて感じさせる部分でもある。語彙が少なくったって平気なのだ。

二年連続ブラボーだったのは石川さゆりとMISIA

2020年の大泉ブラボーは

Superfly(スーパーフライ)

石川さゆり

MISIA(ミーシャ)

であった。

つまり二年連続で「大泉洋がブラボーだった歌手」は石川さゆりとMISIAということになる。

とても納得する。

石川さゆりとMISIA。

この二人で、紅白歌合戦はとても盛り上がるのである。

MISIAが最後に歌い続けるかぎり、ずっと紅組が勝ち続けるような気がする。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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