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旧統一教会「祝福二世」と呼ばれる彼女が語った内情、そして政治家との距離

堀潤ジャーナリスト
夫の実家には出自を伝えていないため、発信する際には匿名とした 写真は堀とのメール

世界平和統一家庭連合、旧統一教会の信徒の子どもたち、2世への取材を続けている。

安倍晋三元首相を殺害した、山上徹也容疑者と同じ40代の元信徒が、自分にできることが何か考え行動したいと、今回、匿名で取材に応じてくれた。

今は教団を離れ、旧統一教会とは関係のない相手と結婚。

相手の両親には出自を明らかにしていないことなどから、匿名での発信となった。

普段から自分の過去に関わる話を避け、出自がわかる写真などは残しておかないよう、気をつけて生きてきたという。

悩みや葛藤を自分の心の中に仕舞い込みここまで生活してきたと打ち明けてもくれた。

仮名は、やまもとゆきさんとした。

旧統一教会で何が起きていたのか、2世から見た教会の実態、政治家との距離についても語ってもらった。

インタビューの一部を今朝のTOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」で放送した。このYahoo!ニュース個人では取材でのやり取り全てを記録として公開したい。

写真はイメージ 撮影:堀潤
写真はイメージ 撮影:堀潤

堀)

この度はありがとうございます。

ゆきさん)

いただいたご質問にお答えしていきますが、その前に少し自分の立ち位置をご説明しておきます。

両親とも1960年代の大学時代にそれぞれ入信し、後年、教祖マッチングにより初見で合同結婚しました。1970代後半、わたしが誕生。教団内では「祝福二世」というくくりで大切に育てられました。

幼少期は信者同士で共同アパートで生活、幼稚園も信者家庭専門の園だったので、教義に疑問を抱かず、普通に信じていました。

思春期を振り返ります。

霊感商法、桜田淳子さんなどの合同結婚式の報道が話題に。同じくして、地方の教会所属になった父親が献金ノルマの厳しさに嫌気が差し、両親はそろって脱会しました。

しかし、自分は友達も教会の子ばかりで、生まれてずっと信じてしまっているため、親に反発して教会に通い続けました。

大学に進学するのと前後して、献金に関することを多く見聞きするようになり組織への不信感が募り始めます。

韓国の二世男性と合同結婚を受けるも仲良くできなかったことが決定的な契機となり、脱退を決意。礼拝に通わず、イベントに誘われても行かないことを続けて、だんだん声がかからなくなっていきました。

その後、一般社会で知り合った男性と結婚。夫にはカムアウトしていますが、夫の実家やうちの子供たちには過去を伏せています。両親の経歴が怪しいので昔話をするときはとても気を使っています。

■暮らしが壊れるほどの献金。その金は国外へ

写真はイメージ 撮影:堀潤
写真はイメージ 撮影:堀潤

堀)

まず、常識を越える過剰な献金システムはどのような仕組みだったのでしょうか。

ゆきさん)

日本全国から集めて、韓国や世界進出の資金として国外へ送金。残りも国内本部から関連団体への資金としてばら撒かれます。自分の父がまさに、中央本部に近いところから地方の教会に異動になり、あまりの献金ノルマに嫌気がさして信心がそがれ、脱退しています。

献金は内部の言葉では「万物復帰」と呼ばれ、罪の世界から神様の元へ万物を戻す、それによってその持ち主も知らない間に救われるのだ、という理由づけがされていて、要求する側も罪悪感を感じにくいようになっています。

とは言え世の中の理屈ではそんなことは通りません。まともな人はそこでブレーキを踏みます。

しかし不安感が強い人や、盲信的な一部の信者は、アクセルを踏むのが正義と言われればアクセルを踏んでしまいます。

そうしてアクセルを踏めば踏むほど、親戚近親者からは嫌われて孤立し、世の中の理屈が通じない、内部の理論でしかものが考えられない人間になっていくという負のスパイラルです…

こども向けの礼拝では、きれいな理想論を中心に教えられるため、献金ノルマについては全然わかっていませんでした。

大学に入り、大人の礼拝にも顔を出したり横で手伝う機会が増えると、今月中に日本○億!そのためにはこの教会で○百万!みたいな会話が飛び交うのを耳にするようになり、父が言っていた暗部はこれか…と愕然としました。

ちなみに万物復帰の他には「F」という呼び方もありました。これはファンドレイジングの頭文字です。

堀)

日本国内でお金を集め、韓国に送金というのは何が目的なのでしょうか。

ゆきさん)

教団としては世界に悪が介在しない「地上天国」を作りたいという最終目的のために活動しています。そのためには、メシア=文教祖を輩出した、朝鮮半島を中心に、世界各国が手を取り合って平和を目指す。特に朝鮮半島を支配してきた日本はその罪滅ぼしでたくさん平和に貢献する必要がある。つまり、日本で献金を多く集めて韓国や世界に再分配する…という理屈付けがされています。

日本を弱体化させたい訳ではなく、日本に教団全体のケア労働を押し付けているといいましょうか…日本人の信心をいいことに、取れるところからお金を取っています。

■政治家と旧統一教会の距離、その実態は?

写真はイメージです 撮影:堀潤
写真はイメージです 撮影:堀潤

堀)

日本の政治家たちが、旧統一教会の会合に参加したり、コメントを寄せたりと、政治との距離が問題視されています。実態はどうだったのでしょうか。

ゆきさん)

1960年代、学生運動が盛んなころに両親を始めとした多くの人が入信しました。教団の政治部隊である「国際勝共連合※」も、おそらくその頃は背景はともかく主張は荒唐無稽とは思われていませんでした。

※国際勝共連合

統一教会の教祖、文鮮明氏が「共産主義は間違っている」というスローガンで提唱し1968年に設立された政治団体。現在も、①憲法改正を実現しよう ②防衛力強化、スパイ防止法制定などを通して、我が国の安全保障体制を確立する ③同性婚合法化、行き過ぎたLGBT人権運動に歯止めをかけ、正しい結婚観・家族観を追求する ④機関紙誌及び会員を拡大する として活動が続いている。

久保木修己さんという勝共の中心人物は、入信する前は立正佼成会にいて、そもそも本格的な政治活動がしたくて移ってきたと聞きました。

政治団体と政治家たちが繋がり、それができると、こんどは信者の票が美味しいと思って、今でもつながり続けてくれているのだと思います。

やはり信者は世間では疎んじられることが多いので、政治家のように有名な人が集会に来てヨイショしてくれると、信者たちは単純にとても喜びます。承認欲求が一気に満たされて、思い入れも強くなり、票も絶対に入れます。

教会とゆかりのある政治家さんは、内部では皆さん「聖人」のような言われようでした。私が小さい頃は、中曽根元総理のお名前をとにかくいろんなところでよく聞きました。

堀)

メッセージなどを寄せる政治家たちはどこまで統一教会に関わっているのでしょうか?

ゆきさん)

実際に教義に心酔して入信までする人は、ほぼゼロだと思います。しかし、家父長制的、右翼的な思想の面で、趣味が合うといいましょうか、政治理念とも矛盾しないと考える政治家は数多くいると思います。

それに、信者は応援や手伝いに行かされるのですが、(私は未成年だったため行ったことはありませんが)、信者はみんな真面目で素直なので、特に選挙の手伝いなどはとても重宝するでしょうし、集会などに動員を頼めば人も集まりますし演説をきけば反応もとてもいいです。もちろん投票もします。なので便利に使える団体だなくらいには思うかたも多いのではと推察します。

機関紙などのインタビューに出てくれるだけでも、信者にとっては教団の権威づけになります。

中曽根さんと併せて、(自民党副総裁だった)金丸信さんのお名前も、一時期よく聞きました。90年代です。政党は、とにかく自民党、自民党です。私が幼くて政治に関心が無かったのでどの派閥までは分からないのですが…

■「祝福二世」が抱える悩みとは

堀)

以前も、カルトと呼ばれた新興宗教2世の方々の取材をしたことがあります。深い悩みや課題を抱えていました。皆さんの場合はいかがでしょうか。

ゆきさん)

悩みや課題はたくさんあります。今回の事件の容疑者のように、親だけが入信するケースでは、親の思考回路が独特な教義の世界観に変わり、どんどん親と話が通じなくなります。

逆に私のように自分も教会に通っているケースだと、自分では選んでいない道を歩かされること。洗脳のような形で気づいたらその世界の中にいます。

そしてどちらのケースでも、だいたい親類縁者に入信を反対されたり、さらにお金を借りたり、壺や印鑑を売りつけようとして嫌われるので、周囲を頼りづらい。そうすると第三者に困窮を見つけてもらいにくくなります。

私の両親も若い頃に実家と徹底的にバトったようで、両親の実家とはいまだにほぼ交流がありません。

そして近年では、信じていたはずの教義も、教祖の死後、ガタガタの支離滅裂になってみにくい後継者争いをしており、今ではそこに対する疑問を抱いている二世は多いと思います。

というより、教団の説くかなり苦しい言い訳を心の底から信じきれている人はおそらくほとんどいないと思います。

しかし、教団から抜けるということは、信仰心の有無だけではなく、コミュニティをまるごと追放されるということでもあります。村を出てそれまでの人生を全て捨てて、やっていけるかどうか。そこで思い切れない人が、二世に限らず一世でも多いのでは、と考えています。

私がまだ連絡取り合っている内部の二世の中では誰も山上容疑者を知っている人がいないようでして、もしかするとそもそも彼自身は全く通っていなかったのかもしれません。

そうだとすると彼は、母親が変な宗教にハマってただただ話が通じなくなり、ネグレクトされ、生活基盤となる生活費や家土地も奪われる、という「宗教虐待」を受けていたと感じます。

堀)

教団を離れた、二世たちは互いに相談したり、支え合ったりするコミュニティは少ないのでしょうか?

ゆきさん)

完全に教団とも親とも縁を切っている二世は、連絡を取りたがらない傾向があります。勧誘を受けたり嫌なことを思いだしたくないと思うので…

私自身は、二世の歳が近い子たちとはまだ一部交流があります。積極的に通っていない子、合同結婚で家庭を持って子育てしている子など色々ですが、みんな真面目で優しい人たちなんです。

自分で入信した一世は、きっと引き留めももっと受けると思います。

今回この取材を受けて思ったのですが、なかなか誰にも開示できないことが多いので、吐き出すことで楽になる部分もありました。なので「やめ二世」たちで話せる自助会があるといいのかもしれないと思いました。

■家族制度へのこだわりや、同性婚反対を唱える理由

写真はイメージ 撮影:堀潤
写真はイメージ 撮影:堀潤

堀)

旧統一教会が目指す世界観は「家庭再建」や「同性婚反対」などですが、政治活動に動員されることはありましたか?

ゆきさん)

覚えているのが、1988年、父の教団内人事でアメリカに住んでいたのですが、大統領選で学校に地元出身の民主党候補が来て「おはなし面白かったよ!」と両親に告げると、「でも教会ではブッシュさんなんだよね…」と困った顔をしていました。

先日、旧統一教会系のNGO であるUniversal Peace Federation(UPF)が開催したイベントに米国前大統領のトランプ氏がビデオレターに出演していた件を聞いて、まだやっていたんだ…とおもいました。

98〜99年には、純潔の大切さ=反性教育を訴える若者のデモ隊が組織されて、「アメリカ発!」のような体裁で日本でもデモに参加させられました。あのムーブメントはその後形を変えて、性教育バックラッシュやLGBT差別のロビー活動になっていったと聞いています。

男女が夫婦となり子を成し、その家庭を正しく運営することで神が臨済してくれる、というような趣旨の教義なので、同性愛はそこから外れるため認めていません。またトランスについても、神が与えてくれた体で生きるべきという見解が、すくなくとも私がいた2000年頃までは顕著でした。

これも、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

■山上容疑者の手紙に書かれていた、旧統一教会 教祖一族の分裂

堀)

先ほど、現在は「教義がガタガタ」とお話しされていましたが、どういうことでしょうか。

ゆきさん)

そもそもの教義自体が世間のみなさんには理解し難いとは思うのですが…

元々の教義は、キリスト教がベースになっています。神が世界を作り楽園を作り最初の人間を作ったが、アダムとイブが蛇=サタンの誘惑で堕落してしまった。いろいろあって神がもう一度人間を救おうとイエスを遣わしたが、人間は彼を十字架にかけてしまう。そして神に遣わされ再来した救世主、それが文鮮明だ、という理論です。

しかし教会内部では1960年代からずっとこの理論を信じて、そこに合わせて祈り活動してきました。

それが、教祖が亡くなる2010年代から、後継者争いで妻や息子たちで揉め(それぞれお付きの幹部が派閥になっていて代理戦争させている面も)、亡くなると自分こそが後継者だと言って、本体としては妻が息子たちを追い出しました。

これまでの教義をねじ曲げて、文教祖ではなく自分こそがこれまでも救世主だったのだといった主張をしています。さすがに60年信じられてきたことをひっくり返さないでよ…と、信者たちにも受け入れ難いと思っています。

■今回の事件を機にゆきさんが伝えたいこと「内心の自由は、教団に対しても自由」だということ

写真はイメージ 撮影:堀潤
写真はイメージ 撮影:堀潤

堀)

最後に、今回の取材を通じて、発信したい、伝えたいことを教えてください。

ゆきさん)

私は教団の中でも大切にされる位置にいたし、そもそも両親ともスカンピンなので、金銭を搾取されるという経験を直接はしていません。

でもその陰で、同じ年代の山上兄弟のような子たちへの深刻なネグレクトが行われていたと知り、その搾取に私も加担していたようで、本当に胸が痛いです。

誰かを殺す、という判断は絶対にあってはいけないことです。そこまで彼を追い詰めてしまったのは紛れもなく、信者である彼の母と彼女を食い物にした教団の責任も重たいと思います。

1人ひとりの信者は、本当に真面目で素直で優しいひとがほとんどです。言われたことはきちんと信じ、実行する。ただし、そうすると、悪意を持って無茶な集金をしようとする人が出てきたり、幹部で横領があり集金額を大幅に増やされたりという事が出てきたときに、自浄作用が働かないんです。

創設初期には、花売りや廃品回収などの素朴な経済活動が主な資金源だったそうです。それがだんだん少しずつ道を外れて、印鑑だ壺だ高麗人参だと、エスカレートしていったのかなと思っています。

教団を離れる時、私は献金問題にドン引きして、ただただ逃げてしまいました。あのとき、何か是正に向けてできることはなかったのか、警察に内部資料を告発する、くらいのことはやるべきだったのでは、と思い返し、まだ答えが見つかりません。

二世に限らず、今の教義に少しでも疑念を抱いている信者の方にお伝えしたいのは、自分で考えることをやめないで欲しい、という事です。

内心の自由は、教団に対しても自由なんです。

違和感を感じたら、教団内でアベルと呼ばれるメンターだけに相談するのではなく、自分の心の声とも、ちゃんと話し合って欲しいです。客観的な情報にも定期的に触れてください。

脱会して教団外で結婚しても、地獄に落ちたりせず幸せに暮らしている私のような人間もたくさんいると知って欲しいです。

安倍さんのご冥福をお祈りしています。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2016年(株)GARDEN設立。現在、TOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」キャスター、Amazon Music「JAM THE WORLD」、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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