【独自】「壁」見直し問題 知事会反対は総務省から根回しあったのか?入手文書に「会長レクでの文案」資料
◆地域から上がる「反対と懸念」に総務省の関与は?
国民民主党が公約に掲げ、与党に実現を迫る「年収の壁」の見直しなどによる所得税の基礎控除額の引き上げや「トリガー条項」の凍結解除。
村上総務大臣は今月5日の閣議後の会見で「仮に単純に基礎控除の額を、国・地方において75万円ずつ引き上げた場合は、一定の仮定をおいて機械的に計算すれば、地方の個人住民税だけで4兆円程度の減収と見込まれております」と述べ、地方財政への影響に言及。政府は、国民民主党が掲げる、所得税が発生する年収を103万円から178万円に引き上げる経済政策に関し、実行すると国と地方の合計で、年間7兆6千億円程度の税収減が見込まれると懸念を示している。
一方、宮城県知事で全国知事会の村井嘉浩会長は13日の宮城県での会見で「国民民主党がおっしゃっているような形にもしやった場合は、これを合わせますと、(宮城県では)620億円プラス190億円の減収、県と市町村を合わせてということになりますので、立ちどころに財政破綻するだろうと思います」と述べ、「何も見えないこの状況の中で賛成とは到底言えません」と反対の立場を示した。
そうした中、国民民主党の玉木雄一郎代表が13日夕方、TOKYOMXの報道番組「堀潤LIVE Junction」に出演。総務大臣や全国知事会長の発言を受けこう発言をした。
「まずですね、今、一生懸命総務省から全国知事会や各自治体の首長さんに対して工作やってますね。工作というのは、こういう発言をしてくれ、こういう減収があるからやめてくれということを村上大臣自身から知事会の会長などに連絡をして、発言要領までつくって、そういうことをするのは私はいかがなものかと思います。国が一生懸命、総務省が一生懸命工作するのはやめてもらいたい」と厳しく総務省側を批判した。
この発言を受け、村井会長は14日、東京都内で記者団に対して「少なくとも総務省、村上総務相から私に何かアプローチがあったということはない」と総務省側からの働きかけを否定した。
しかし、13日に開かれた知事定例会見で村井氏自身はこうも述べている。
「私も今回いろいろレクを受けて分かったんですが、103万円の壁、いろいろな壁がたくさんあって、いろいろな難しい仕組みがあって、ぎりぎりのところでバランスを保ちながら成り立っているんですよね。これをずばっと短期間のうちにメスを入れるというのは、私は簡単にできることではないと思いますけれどもね。少なくとも、私が総理ならば首は縦に振らないです」と述べ、レク、つまりこの問題に関してのレクチャーを受けていることを自身で明らかにしていた。
◆独自に入手した「文書」そこに書かれていた「関与」
ここでいう、レクとは一体、どのようなものなのか。
今回、私は、村上総務大臣や総務省側から全国知事会に対してレクを行なっていることを窺わせるメールのやり取りや資料を独自に入手した。全国知事会の税財政常任委員会のメンバーである自治体の知事から寄せられたメールと、全国知事会長や、地方税財政常任委員会委員長名義で、自民党政策懇談会に合わせた「緊急要請」の文案に関する資料などだ。
こうした文書に書かれた内容が事実なのかを確認するため、TOKYOMXや弊メディア8bitNewsで検証すると地方税財政常任委員会の委員長県である、宮崎県が「調整中」だとした上で、取材に対しその内容を認めた。
入手したメールには、総務省側が知事会に対してどんな働きかけを行なっているのかを時系列のメモがまとめられていた。内容を抜粋して箇条書きであげると以下の通り。
①今週、村上総務大臣から村井会長宛に「103万円の壁」の件で電話があり「野党の言うことを全て聞くと地方財政が持たないので知事会として反対の意見を言って欲しい」と伝えられた。
②会長は、マスコミに聞かれたら知事会会長の立場として「地方財源に対する問題の議論を脇において検討が進むことについて反対である」と答えるとのこと。
③今月19日に自民党の総務部会「予算・税制等に関する政策懇談会」が開催される連絡があり、河野知事がそこに出席するため急遽調整が始まった。
④本日の会長レクで緊急提言を調整(原文では調製)することとなり、19日に河野知事が上京のタイミングで、自公の政調や税調メンバーに打ち込んでいく想定。
⑤今回の緊急提言は、会長+委員長名で行うため、会長県+税財政常任委員会の構成県でのみ行う。
⑥現在、明日~明後日には意見照会をかけられるよう、案文を宮崎県で作成中。意見の採否等は会長と委員長に一任いただくことになる可能性が高い。
このメールには、3つの文書が添付されており、そのうちの一つが「基礎控除の引き上げ及びトリガー条項の凍結解除に関する緊急要請について」というタイトルの文書で、全国知事会会長、地方税財政常任会委員長の名義での「緊急要請」の文案が記されていた。そのほかの文書は、想定問答集や「個人住民税の概要」、「トリガー条項が発動された場合の留意点 財務省作成資料(非公表)」という説明資料だった。
上記①から⑥の内容に関して、TOKYOMXと8bitNewsが共同で、総務省や全国知事会、委員長県である宮崎県などに取材を行なった。
まず、総務大臣からの電話やレクについて、総務省に聞いた。文書に示されていた自治税務局の担当課長などに確認をすると、文書の作成やレクの有無について「存じ上げてないです」と回答。そして全国知事会調査第一部の担当者は、「事務局ではわからない」「知事への電話ということであれば知事に聞いて欲しい」と述べ、全国知事会を担当する宮城県企画総務課は「「把握していない」「この話自体が今初めて聞いた状態ですので…」と回答するにとどまった。村上総務大臣からの電話については、前述した通り、村井会長自身が否定したと報道されている。
次に、③から⑥であげられていた、自民党総務部会での全国知事会の会長、委員長名義による緊急要請について確認を行った。
文書に示された要望の原案には(委員長県たたき台)として、次のように示されている。
○地方が安定的に行政サービスを維持しつつ、重要課題へ的確に対応できるよう、基礎控除額の引き上げ及びトリガー条項の凍結解除の検討に当たっては、地方財政を通じた行政サービスへの影響を最小限に留めるべく、下記に掲げる事項を考慮し、地方財政への影響に十分配慮することを強く求める。
記
1 巨額な税収減や、所得税の減収に伴う当該税目の約 3 割を占める地方交付
税原資の減(政府試算に基づき 9,930 億円から 1 兆 3,240 億円程度)
2 個人住民税非課税世帯の増加に伴い、当該世帯を対象とした行政サービス
に係る歳出の拡大や、地方のシステム改修費の発生、事務負担の増大
3 トリガー条項の凍結解除により、揮発油税等の対象外である重油・灯油への
対応や、発動前の買い控え等による配送の乱れ・品不足といった流通及び販売
現場での混乱等
この要請書の名義は「全国知事会会長、地方税財政常任委員会委員長」とあり、委員長県である宮崎県に取材を申し込んだ。
宮崎県の河野俊嗣知事は、昭和63年に自治省に入省し官僚としてのキャリアがスタート。総務省で自治税務局企画課税務企画官などをつとめた後、宮崎県に出向。副知事などを経て、知事を4期務めている。
宮崎県の地方税財政の担当者は、河野知事に対する総務省ないし村上大臣からの連絡の有無については「承知していない」と述べ、レクに対しては否定的な考えを示す一方で、「「叩き台的なものは委員長県である我々でも準備して調整している」「(文書の作成について)昨日ぐらいから調整している」と述べ、緊急要請のたたき台の作成を認めた。19日の自民党総務会に河野知事が参加するかどうかは「調整中」だとした。
一方、地方税財政常任委員会に入っていない自治体、岡山県に確認をすると全国知事会から緊急要請に関する連絡は来ておらず、文書にあった「⑤今回の緊急提言は、会長+委員長名で行うため、会長県+税財政常任委員会の構成県でのみ行う」という内容に符合する。
◆求められる「開かれた議論」と「未来の選択」
こうした取材から、知事らトップレベルでの政府と歩調を合せた要請に向けた調整が行われていることは間違いない。要請の通り、今回の「壁」見直しで地域へどのような影響が広がるのか、さらに解像度の高い議論は望まれる。
国民民主党の玉木代表はTOKYOMXの番組内で、公約に掲げた「手取りを上げる」政策に関しての減収分は「110兆円を超える国の予算の歳出・歳入両面にわたった見直しで捻出すべき」と述べた。
国民の未来に関わる大切な議論、決定のプロセスを含め、透明性の高い、開かれた場での闊達な議論を求めていきたい。
※追記※ 当初の記事にありました『基本的に国債で賄うという方針を掲げ、その発行規模は「5兆円あれば十分だ」』という説明は、教育政策に関する言及でしたので訂正します。
TOKYOMX「堀潤 LIVE Junction」でのルポはこちらに。