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『西岸もガザも同じ』市場の焼き討ち、停電、水不足 …イスラエル軍の占領続くパレスチナヨルダン川西岸

堀潤ジャーナリスト
イスラエル兵により店を焼き討ちにされた店主の男性(撮影:構二葵)

パレスチナ自治政府が置かれ、事実上の首都であるヨルダン川西岸のラマッラー。取材に訪れた6月下旬、この地に暮らす多くのパレスチナ人でマチは賑わっている印象を受けた。しかし電気や水などのライフラインはイスラエルの影響を大きく受けるため、供給は不安定だと住人たちは次々と口にする。イスラエル兵により市場が焼き討ちされたり、恒常的な停電、水不足に苦しんだりしているヨルダン川西岸地区を、8bitNewsのメンバーでジャーナリストの構二葵が取材した。

取材の全容はこちらの映像ルポからご覧ください。

ラマッラーの市場を取材する8bitNewsジャーナリストの構二葵(筆者)
ラマッラーの市場を取材する8bitNewsジャーナリストの構二葵(筆者)

◆市場が焼き討ちに…「西岸もガザも同じ」絨毯店店主の行き場のない憤り

2024年6月、パレスチナヨルダン川西岸のラマッラーを訪れた。道すがら、地元の住人が日常的に利用する市場に足を運ぶと、そこは5月にイスラエル兵により焼き討ちにされた場所だった。親から代々引き継がれてきた市場内の絨毯店の店主、タイシーンさんが取材に応えてくれた。

焼き討ちにあった絨毯店「マナス・ラクンビ」を案内する店主のタイシーンさん(撮影:構二葵)
焼き討ちにあった絨毯店「マナス・ラクンビ」を案内する店主のタイシーンさん(撮影:構二葵)

絨毯店経営者タイシーン・マナサラさん「火をつけられマーケット全てが焼けました。この会社もモールも全てです。おそらく120のショップが焼けました。イスラエルが一つ一つ開けて火をつけました。これがイスラエルによる占領です」

焼かれてしまった商品の毛布や絨毯(撮影:構二葵)
焼かれてしまった商品の毛布や絨毯(撮影:構二葵)

絨毯店経営者タイシーン・マナサラさん「ここに並んでいる3店舗『マナス・ラクンビ』は私の店です。イスラエルによるパレスチナの占領が終わることを願っています。世界中がパレスチナのために支援することを願っています。占領がパレスチナ全土、ガザ、西岸の人々を殺し撃ち尽くしたからです。西岸もガザも同じです。夜になったらイスラエル兵が来るんです。パレスチナ人を燃やして損害を与え、殺したいだけ。イスラエルはパレスチナを終わらせたいんです」

焼けてしまった建物の中を案内してくれた(撮影:構二葵)
焼けてしまった建物の中を案内してくれた(撮影:構二葵)

タイシーンさんは焼け落ちてしまった店の2階へと案内してくれた。床や階段には、焼け落ちたすすや瓦礫が落ちたままで、焼けた後の独特な臭いが残っていた。

先が見通せないと話すタイシーンさん(撮影:構二葵)
先が見通せないと話すタイシーンさん(撮影:構二葵)

絨毯店経営者タイシーン・マナサラさん「カーペットが全て焼けました。花屋が3つありました。他にも色んな店がありました。衣類も靴もスーパーも化粧品も全ての店が焼かれました。店は父親の代から数えると40年くらいやっていました。家族みんなで作ってきたのがこの店なんです。でも今終わってしまいました。夢は終わり、全て終わりです」

丸焦げになってしまった商品の絨毯(撮影:構二葵)
丸焦げになってしまった商品の絨毯(撮影:構二葵)

焼かれ、丸焦げとなった絨毯の残骸をタイシーンさんが蹴り上げた。行き場のない憤りと悔しさが滲んでいたように感じる。大事な商品がこんな無惨な状態になってしまい、どれだけ悔しくどれだけ無念だっただろうか。

◆水や電気などライフラインの不安定な供給に苦しむ西岸の人々

集合住宅の屋上に並べられた貯水タンク(撮影:構二葵)
集合住宅の屋上に並べられた貯水タンク(撮影:構二葵)

ラマッラーの街中を乗合タクシーで走っていると、建物の屋上に並べられている貯水タンクが目に入ってきた。ほとんどの集合住宅の屋上に何個も並べられていたからだ。

ラマッラーの住民「水が来るのは2週間のうち1日だけです。非常に困っています」

構「この状況をどう受け止めていますか?」

ラマッラーの住民「非常に困難です」

構「どのようにですか?」

ラマッラーの住民「タンクを活用して毎日水を使えるようにしています。とても大変です」

水不足に苦しんでいるのは、ラマッラーの住人だけではなかった。

突然店の電気が切れた(撮影:構二葵)
突然店の電気が切れた(撮影:構二葵)

ヨルダン川西岸へブロンの旧市街。ここで土産物店を営むヒシャム・マラガさんにインタビューをしている最中に、突如店内の電気が消え、辺りが真っ暗となった。

構「何が起こったんですか?」

土産店経営ヒシャム・マラガさん「電気を止められたんです。ちょっと確認します」

案内をしてくれたベツレヘム在住のウサマ・ニコラさんが、西岸地区の電気と水の現状を話してくれた。

ベツレヘム在住のウサマ・ニコラさん(撮影:構二葵)
ベツレヘム在住のウサマ・ニコラさん(撮影:構二葵)

構「停電はよく起きるのですか?」

ベツレヘム在住のウサマ・ニコラさん「はい、よくあります。電気の供給が止まったり水不足だったり。日常的なストレスであり困難の一部でもあります。電気と水はパレスチナの会社を通して供給されています。しかしパレスチナの会社はイスラエルの主要企業から電気と水の供給を受けています。なので水不足になることがあります。電気不足よりも深刻です」

水不足は夏場の主な課題だという。

ベツレヘム在住のウサマ・ニコラさん「私たちは1人あたり最大で1日120リットルを受け取ることになっています。実際は1人あたり72-73リットルを受け取り、最近では1人あたり30-35リットルになりました」

戻ってきて取材に応えてくれたヒシャムさん(撮影:構二葵)
戻ってきて取材に応えてくれたヒシャムさん(撮影:構二葵)

店内の電気が復旧し、ヒシャムさんが再び取材に応えてくれた。冬場は毎日のように停電が起きる一方で、やはり夏場は水不足が深刻だと話す。

土産店経営ヒシャム・マラガさん「この地域では月に一度自治体から水が供給されます。ですからまず井戸か水を溜めておく場所が必要です。自治体は水をイスラエル側から入手しています。ですからここへの水の割り当ては、入植地に供給される水と比較すると非常に少ないのです。入植地に送る水はヘブロンやアラブ地域に送る水の10倍かもしれません。電気も彼らが管理しています。ヘブロン市がイスラエル側に電気代を支払わなければ、支払いが完了するまで彼らは簡単に電気を止められます。これは実際に起きたことです」

ハマスによるイスラエルへの襲撃、イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への侵攻から10月7日で1年が経った。しかしパレスチナに対する過剰な入植や暴力による抑圧の歴史は、半世紀以上にも上る。

ガザでの人道危機は待ったなしの状況だ。同時に、抑圧の日々を何十年間も送り続けているヨルダン川西岸に暮らす人々の暮らしの実態にも、どうか想いを寄せ声をあげてほしい。人々の命と尊厳と大切な家族や友人の命をこれ以上奪わないで、と声を大にして言いたい。

取材の全容はこちらの映像ルポからご覧ください。

取材・撮影・ルポ

8bitNews ジャーナリスト構二葵

※パレスチナヨルダン川西岸ベツレヘムの映像ルポはこちら

 パレスチナヨルダン川西岸へブロンの映像ルポはこちらから。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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