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6月15日の69歳の誕生日に習近平がプーチンに電話をかけたのは何故か

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(652)

水無月某日

 6月15日は通常国会閉幕の日だったが、フーテンにとってこれほど印象に残らない国会を経験したのは初めてである。そもそも岸田政権はスタート時から争点を作らないことに腐心する政権で、昨年10月に総理に就任するや10日後に衆議院を解散し、就任から解散まで戦後最短記録を作った。

 新政権はまだ何もしていないのだから国民には選挙の判断材料がない。そのため就任から27日後に行われた総選挙は低投票率になり、低投票率になれば与党が勝利するという安倍政権以来の「勝利の方程式」によって自公政権は大勝した。

 岸田総理は「新しい資本主義」という看板を掲げたが、その内容がなかなか分からず、ようやく分かったのは国会の会期末近くになってからだ。当初は新自由主義を脱して分配に力を入れる政策と思わせたが、結果はアベノミクスを継続することになり、何も新しくないことが分かった。

 しかしこの問題は国会で十分に議論されていない。2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻したこともあり、国民の目がウクライナにくぎ付けになったことも大きいが、岸田政権の経済政策で日本がどのような国になるのかを、十分に問い質せなかった野党の責任も大きいと思う。

 岸田政権の「新しい資本主義」は、国民に直接分配を行うのではなく、「人」、「科学技術、イノベーション」、「スタートアップ」、「グリーン、デジタル」の4つに官民挙げて投資をしていくというのだ。しかし日本が抱える根本問題は「人口減少、少子高齢化」である。それなのに出生率の上昇、子育て支援、教育支援に取り組む姿勢が驚くほど希薄なのだ。

 米国のイーロン・マスクからは「いずれ日本は消滅する」と言われ、イアン・ブレマーが社長を務めるコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」は、岸田政権の「新しい資本主義」を「ネーミングは大胆だが、日本経済を改革しない」と切り捨てた。

 にもかかわらず、来月10日に行われる参議院選挙では与党の勝利が既成事実のように語られる。15日の記者会見で岸田総理は獲得議席目標を「非改選と合わせて与党が過半数」と言った。過半数は125議席だから、非改選の70議席に加えて55議席獲得すればよい。

 公明党が改選14議席を維持すれば、自民党は41議席で過半数を超える。自民党は現有54議席だから13議席減らしても目標に到達する。そうなれば「ねじれ」が生じない。もし「ねじれ」が生じれば岸田政権は「死に体」となり、日本政治は波乱万丈の展開が待ち受けるが、その可能性は少ないと見られる。

 しかしウクライナ戦争の影響もあって世界的な物価高が政治を直撃している。日本もその例に漏れない。共同通信社が6月11日から13日に行った世論調査によれば、岸田総理の物価高に対する対応を「評価しない」が64.1%、「評価する」が28.1%だった。

 そして参議院選挙で物価問題を考慮するかどうかでは「考慮する」が、「大いに」と「ある程度」を合わせて71.1%もあった。内閣支持率はスタート時点が歴代内閣に比べて低かったせいもあり、徐々に上向く傾向だったが、5月に比べ4.6ポイント下落して56.9%、不支持は5.1ポイント増の26.9%となった。

 ウクライナ戦争の展開が各国の政治に与える影響は大きく、それが各国の選挙結果を左右している。フランスの大統領選挙では現職のマクロン大統領が苦戦を強いられた。NATOに批判的な極右のルペン候補が予想外に国民から支持されたからである。

 またフーテンはウクライナ戦争を「プーチンの戦争」ではなく「バイデンの戦争」と見てきたが(その理由は月刊誌『紙の爆弾』7月号に詳述している)、バイデンは秋の中間選挙を有利にしようとプーチンを挑発し、戦争を起こして軍需産業とエネルギー業界を喜ばせようとしたが、思惑通りになっていない。

 バイデンの思惑は、ウクライナ戦争で昨年夏のアフガン撤退の悪い記憶を消し、物価高も戦争のせいにしようとしたが、国民はウクライナ戦争より物価高に関心があり、6月14日のロイターの世論調査では支持率が39%と4割を切り、不支持率は56%だった。秋の中間選挙で「ねじれ」が生まれ「死に体」となる公算が大きい。

 岸田総理はバイデンのポチである。だからバイデンが仕掛けたウクライナ戦争にいち早く支持を表明した。そこには安倍元総理に対する思惑が見え隠れする。ロシアのプーチンとことのほか親しくした安倍元総理は、同時にバイデンが忌み嫌うトランプ前大統領とも親しかった。ウクライナ戦争は安倍元総理の力を削ぐ格好の材料である。

 バイデンに協力することは、自民党最大派閥を率いる安倍元総理を牽制し、参議院選挙で「ねじれ」さえ作らなければ、自民党内の権力構造を変える機会が訪れる。そこで米国を後ろ盾にパワーバランスを変えるため、意識的にバイデンのポチになった。だから岸田総理はバイデンと運命共同体である。

 従ってバイデンが「死に体」になれば、それは岸田政権の命運にもかかわる。そして問題なのは、西側メディアが予想したようにウクライナ戦争が推移していないことだ。当初はプーチンを「ロシア帝国再興」を夢見る精神異常者に仕立てて国際的に孤立させ、ロシア国民の反プーチン感情を高めてプーチンは打倒されるはずであった。

 ところが6月15日、この日69歳の誕生日を迎えた中国の習近平国家主席が、プーチンに電話をかけ、「中露の結束」をアピールしたのである。このタイミングでの電話にフーテンは注目する。これは慎重に状況を見極めた習近平が、プーチンのバイデンに対する勝利を確信したためではないか。

 新華社の報道によると、習近平はプーチンに「中国はロシアと、主権や安全保障など核心的利益に関わる問題で互いに支持し、戦略的連携を密にし、国連や新興5カ国(BRICS)、上海協力機構(SCO)などの国際・地域組織で意思疎通を強化し、新興市場国と発展途上国の団結と協力を促進し、国際秩序とグローバルガバナンスがより公正で合理的な方向に発展するよう推し進めていきたい」と述べた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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