ネオコンの狂った見方で戦争報道を始めたため世界の「下克上」を無視する日本のメディア
フーテン老人世直し録(653)
水無月某日
ロシアのウクライナ侵攻から112日目の6月15日は、中国の習近平国家主席が69歳の誕生日を迎えた日であった。その日に習主席はロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、中露の結束を確認し合った。日本のメディアはそれを大きく伝えなかった。しかしこれこそ注目すべき出来事だとフーテンは前回のブログに書いた。
なぜならロシアの軍事侵攻の翌日、習主席はプーチン大統領に電話をかけ、「戦争ではなく話し合いで解決すべき」と戦争に反対の立場を伝え、その一方で米国のバイデン大統領がロシアに対する経済制裁を世界に呼び掛けると、それにも反対して中国は国連総会の投票で棄権した。
また中国はウクライナが「一帯一路」構想に欠かせない国であるため、ウクライナにも友好的な姿勢を見せ、一方のウクライナも中国に対し、戦後復興の経済協力に頼ることを考えている節があり、敵対的にはならなかった。
そのため中国はロシアに協力的ではあるが、ウクライナ戦争の推移を慎重に見極めるスタンスを取っていると思われた。ネオコンに誘導された西側の報道では、プーチンの精神異常や健康不安説が次から次に出てくると共に、ロシア軍の残虐性や作戦の失敗事例ばかりが大きく伝えられる。
それがここにきて習主席がプーチン大統領と2度目の電話会談を行い、「戦争をやめろ」とは言わずに中露の結束を確認し合ったことは、戦況がロシアに有利となり、ウクライナ戦争がプーチン勝利で最終段階に入ったことを証明するとフーテンには思えた。
そして電話会談では、中露がこれまでの国際秩序に代わる新たな国際秩序、それは新興国と発展途上国の側に立った世界を構築することが話し合われた。つまりウクライナ戦争を契機に中露は「新しい世界」を作ろうと考えているのである。
ロシアの軍事侵攻を西側世界は「第二次大戦後の国際秩序を破壊する」としてプーチンに「大悪人」の烙印を押した。しかしプーチンはむしろそう言われることを覚悟して、米国が主導する一極支配の国際秩序を壊すために軍事侵攻に踏み切った可能性がある。
これまでの世界は欧米を中心とするG7(米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本)が主導したが、これからはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と上海経済協力機構(中国、ロシア、パキスタン、イラン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタン)を中心に、モンゴル、ベラルーシ、アフガニスタン、サウジアラビア、エジプト、カタール、トルコ、アゼルバイジャンらが結束して世界を主導していこうと中露首脳は会談で語ったのだ。
ウクライナ戦争が浮かび上がらせたのは、ロシアの経済制裁に参加したのがG7を中心とする欧米諸国で、アジア、アフリカ、中東などの国々はほとんど参加していないという事実である。日本はアジアで唯一のG7加盟国だから制裁に参加したが、アジアで他に参加しているのは韓国、台湾、シンガポールだけだ。
つまり米国のバイデン大統領がプーチンを孤立させ、ロシア国内に反プーチン運動を起こさせて政治的失脚を狙った経済制裁は、国連加盟193カ国の4分の1に満たない国が参加しただけだ。むしろ米国の世界的影響力の衰退を証明することになった。
15日の中露首脳電話会談で習近平とプーチンが語ったBRICSと上海経済協力機構を中心とする世界は、米国一極支配に対する明確なる挑戦である。だからフーテンはこの電話会談を歴史的出来事と受け止めた。するとその2日後に、その構想が現実となって現れた。
17日にロシアのサンクトペテルブルグで「国際経済フォーラム」が開催され、127カ国が参加したのだ。例年だと140カ国程度が参加しているというが、ウクライナ戦争の制裁のため欧米社会からの参加は見送られた。日本も参加していない。しかし127カ国が参加したのだから、参加国が1割減っただけである。
このフォーラムに中国の習主席がビデオメッセージを寄せ、「新興国と発展途上国の側に立った国際秩序の構築」を改めて訴えた。それは新たな経済圏構想の宣言といえる。つまりこのフォーラムが示すのは、米国を頂点とするG7体制に対し、新興国と発展途上国が起こす「下剋上」なのだ。
しかし日本のメディアはこのフォーラムにも冷ややかだった。日本のメディアが向いているのは26日からドイツで始まるG7サミットと、29日からスペインで始まるNATO首脳会議である。岸田総理が出席するからそうなる。
だがそれに対抗するように23日にはBRICS首脳会議がオンラインで予定され、その前日の22日には中国の習主席がBRICSの各国に向けて演説を行うという。フーテンの目には旧世界のG7と新世界のBRICSが同じ時期にガチンコ勝負のようにぶつかる。
日本のメディアには新興国と発展途上国が非力な存在に見えるのだろう。しかし購買力平価でGDPを比べれば、ロシアに経済制裁を課した国より、課さない国の方が上回る。国土面積や人口となれば圧倒的に新興国が大きい。もはや無視出来る存在ではないことをウクライナ戦争は示したが、日本のメディアは無視している。
そしてさらに注目すべきは、米国のバイデン大統領が中国の習主席との電話会談を近く行う予定であることを明らかにしたことだ。何のための電話会談か。バイデンは先月東京で開かれたクワッドの会合で「台湾有事」に米国は軍事介入すると言ったが、すぐに打ち消す猿芝居をやった。
その時ブログに書いたが、インフレが止まらない米国経済を何とかしないと秋の中間選挙で敗れるため、バイデンは中国に課している関税を引き下げようと考えている。ロシアに経済制裁を課していながら、トランプ前大統領が経済制裁の一環として中国に課した高関税を引き下げようというのだ。
そのための電話会談であることがまず考えられる。しかし表はそれかもしれないが、裏ではウクライナ戦争の終わらせ方をどうするか、習主席の関与を促す狙いがあるのではないかとフーテンは想像する。
なぜならウクライナ戦争は、5月21日にウクライナのゼレンスキー大統領が「2月24日前の状態に戻せば勝利」と発言したことで終わったも同然だからだ。2月24日以前の状態と言えば、クリミヤ半島も東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」もウクライナの領土ではない。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2022年6月
税込550円(記事5本)
2022年6月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。