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明日結果が判明?ジョージア州の決選投票が重要な7つの理由

西山隆行成蹊大学法学部政治学科教授
決選投票に向けて遊説するワーノック候補(写真:ロイター/アフロ)

12月6日の火曜日に、米国のジョージア州で連邦議会上院の決選投票が行われます。11月8日に行われた中間選挙で、民主党候補のラファエル・ワーノックと共和党候補のハーシェル・ウォーカーがともに過半数を獲得できなかったためです(ジョージア州は過半数獲得を選挙での勝利の前提としている珍しい州です)。連邦議会上院は全体で100名から構成されますが、現在民主党が50議席、共和党が49議席を確保しています。仮に上院での票決が50対50となった場合には、上院議長を務める副大統領が決定票を投じることになっているため、現状で民主党が上院を抑えているというのは事実です。とはいえ、ジョージア州の決選投票は、いくつもの意味で重要性を持ちます。ここでは、7つ、紹介しましょう。

1.上院ではすでに民主党の実質的多数が決定しているとはいえ、仮に任期中に死亡する人や、転職する人(連邦議会議員をやめて大学の学長になったりする人がいます)が出てくれば、多数が覆される可能性があります。上院議員に欠員が出た場合、補欠選挙が行われるまでの間の暫定的な議員は州知事が決めることになっているため、その州の州知事が共和党の政治家である場合は共和党の人物が指名される可能性が高いです。死亡まで行かなくても、病気などの理由で議会を欠席する人が出る可能性もあります。両党ともに一議席でも多くを確保しておきたいのは当然です。

2.民主党内は左派対穏健派の路線対立を抱えていますが、ジョー・マンチンやキルステン・シネマのような穏健派議員が左派が目指している法案に賛成しないために、立法過程が動かないことがありました。今年成立したインフレ抑制法は当初はもっと規模の大きなものとして立案されていましたが、彼らの反対があったために、支出金額は大幅に削減されました。仮に彼らのいずれかが反対したとしても法案が通過するということになれば、作成される法案の内容が変わってきます。もっとも、連邦議会下院を共和党が押さえているため、それが持つ意味は限定的かもしれませんが、下院で共和党も大きな差を持っているわけではないので、状況次第では意味があります。

3.上院の議席配分が50対50の場合は、上院内に存在する全ての委員会で委員は二大政党で同数となりますが、仮に51対49となれば、全委員会で民主党の委員が多数を占めることになります。委員会で検討された議案が賛否同数の場合、それを本会議にあげるためには手続きが面倒になります。委員会の構成がどうなるかは議事運営上重要な意味を持ちます。連邦議会上院は、連邦裁判所判事などの承認権を持っていますが、上院司法委員会で二大政党の委員が同数の場合と民主党が多数を占める場合では、後者の方がスムーズに承認手続きが行われることになります。

4.連邦議会上院は100の議席のうちほぼ3分の1ずつを2年ごとに改選することになっていますが、2024年の改選部分は今のところ、民主党が23、共和党が10となっています。これは、民主党が多数を維持するのは難しいことを意味しています。とりわけ、先に名前を挙げたマンチンはウェストヴァージニア、また、ジョン・テスターはモンタナという共和党が強い州から選出された民主党上院議員なので、両者が再選を果たすのは容易ではありません。他にも、オハイオ、アリゾナ、ウィスコンシン、ペンシルヴァニア、ネヴァダ、ミシガンという接戦州でも上院が改選されますが、現在その全てで民主党が議席を保有しています。現職議員の再選率は高いとはいえ、これら全てで民主党が議席を確保できる保証はありません。他方、民主党が奪取できそうな共和党の議席はなさそうです。この点を考慮しても、民主党からすれば一議席でも多く確保しておきたいはずです。

5.ジョージア州の政治的状況が明らかになります。2020年大統領選挙でジョー・バイデンがドナルド・トランプよりも多くの議席を獲得しましたが、同州で民主党の大統領候補が勝利したのは1992年以来でした。1960年以降の大統領選挙で同州で勝利した民主党候補は、ジミー・カーター、ビル・クリントン、バイデンの三人だけであり、長らくジョージア州では共和党が優位してきました。しかし、近年ではアトランタを中心にリベラルな地域からの移住者が増大しています。また、州知事候補となったステイシー・エイブラムスなどの尽力もあって民主党支持者(とりわけ黒人)の票が積極的に開拓されてきました。このようなトレンドが続くのか否かは注目に値すると言えます。

6.黒人票の行方を考える上でも重要な意味を持ちます。今回の中間選挙では、共和党を支持するマイノリティの割合が増えています。AP通信の調査によると、共和党の下院候補者は黒人票の14%を得たとのことですが、この数字は2018年、2020年の8%に比べて大きくなっています。黒人は伝統的には民主党支持の傾向が強いですが、実態としては黒人内の多様性も高くなっています。米国の黒人と言えば米国内で奴隷だった人の子孫を思い出しがちですが、近年アフリカから移動してきた人やその子孫(例えばバラク・オバマはケニアからの留学生の子どもです)や、カリブ海地域からの移民(例えばコリン・パウエルはジャマイカ系です。副大統領のカマラ・ハリスは、父親がジャマイカ出身、母親がインド出身です)の人も増えています。彼らの投票行動は米国の奴隷に起源をもつ人とは異なる可能性もあります。また、黒人教会は伝統的に同性婚などの社会的争点に対して、リベラルな態度で一貫しているわけでもありません。ジョージア州の候補は共に黒人ですが、黒人票がどのように分かれるのかは、実は興味深いところです。

7.ドナルド・トランプの影響力を測る上でも興味深いと言えます。2022年中間選挙最大の敗者はトランプだという指摘が様々なところでなされています。それは、多くの接戦州でトランプ派の候補が続々と敗北したからでした。ジョージア州で共和党候補となったウォーカーは、2021年9月の段階でトランプの支持を得ており、トランプ派候補です。なお、実は今回の中間選挙ではジョージア州の州知事選挙も行われており、ブライアン・ケンプ知事はウォーカーよりも20万票多く獲得して再選を果たしています。仮にウォーカーが敗北すれば、トランプ派の弱さが示されたという形で、共和党内でトランプに対する反発が強くなることでしょう。

各種世論調査では、民主党候補がやや優勢とのことですが、世論調査で「やや優勢」とされる候補の支持者は投票に行かなくても勝てると思って投票に行くのをやめ、「やや劣勢」とされる候補の支持者は投票に行けば結果を覆すことができるかもしれないと考えて投票に行くようになるため、予想と反する結果となる可能性もあります(判官びいき効果と呼ばれます)。同州の決選投票の結果に注目です。

成蹊大学法学部政治学科教授

専門はアメリカ政治。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。主要著書に、『アメリカ大統領とは何か:最高権力者の本当の姿』(平凡社新書、2024年)、『混迷のアメリカを読み解く10の論点』(共著、慶應義塾大学出版会、2024年)、『〈犯罪大国アメリカ〉のいま:分断する社会と銃・薬物・移民』(弘文堂、2021年)、『格差と分断のアメリカ』(東京堂出版、2020年)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会、2018年)、『アメリカ政治講義』(ちくま新書、2018年)、『移民大国アメリカ』(ちくま新書、2016年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会、2008年)など。

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